川崎重工が米国・サンノゼに新拠点「Kawasaki Physical AI Center San Jose」(フィジカルAIセンター)を開所しました。フィジカルAIとは何か?生成AIとの違いは?私たちの暮らしや産業はどう変わるのか?当センターで共創マネジメントを担当する山口潤さんに、これからのAIを知りたい方にもわかりや すいよう、10の質問にお答えいただきました。

(フィジカルAIセンター)共創マネジメント担当
Q1. Kawasakiが新たに開設したフィジカルAIセンターは、どのような役割を担っているのでしょうか?

A. 当センターではフィジカルAI領域において、シリコンバレーが持つAI開発力とスピード感に、ロボットをはじめとした当社の製品群や市場/顧客/現場ノウハウを掛け合わせて、新たな事業領域を開拓することに取り組みます。

Q2. 最近よく耳にする「フィジカルAI」とは何なのでしょうか?生成AIとは何が違うのか、そして今なぜ世界的に注目を集めているのかを教えてください。

A. これまでのAIはスマートフォンやPCなど画面の中(仮想空間)で活躍してきました。中でもChatGPTなどの生成AIは人とのスムーズなコミュニケーションや画像・文章の生成を可能にしました。
こうしたAIの進化が現実空間へと広がったものとして、フィジカルAIがあります。フィジカルAIは、自動運転やロボットに代表されるように、現実空間の状況を認識・判断し、モノを動かすことが可能 です。フィジカルAIによって、私たちの身の回りの機器がより柔軟に動き、利便性が高まることが期待されています。
Q3. なぜ「今」「このタイミング」でサンノゼにフィジカルAI センターを開設したのでしょうか?

A. シリコンバレーの中心地であるサンノゼは、世界中から投資と人材が集まる「世界の次の10年を決める場所」とも言われ、今その対象が「フィジカルAI」なのです。
川崎重工は2001年から、サンノゼを米国ロボット事業の活動基盤としています。そのため、フィジカルAIの開発・実用化に欠かせないロボットなどのハードウェアを活用しやすい環境があり、この強みを当社の事業成長につな げる拠点として、サンノゼにフィジカルAIセンターを開設したのです。

Q4. NVIDIAやFigureをはじめ、フィジカルAI分野では多くの先行プレイヤーが存在します。その中で、川崎重工ならではの強みはどこにあるのでしょうか?

A. 川崎重工のロボット事業は1968年の開始以来、顧客密着型のビジネスを通じて、顧客現場のノウハウやデータを取得し続けてきました。これはフィジカルAIの学習データそのものであり、ハードウェアを持たない企業や、汎用ハードウェアを提供する企業にはない当社ならではの強みです。
また当社は、産業用ロボットや人と共存するソーシャルロボットなどを手掛け、幅広い知見を蓄積 しています。例えば、溶接や塗装などの製造現場では「作業」そのものを分析し、抽出した現場ノウハウを基にロボット化を進めてきました。一方で近年は、医師など高度な技能を持つ人の動きを分析し、どの工程をロボットで分担できるかを検討してきました。この「作業」と「人の技能」の双方を分析できることも、フィジカルAIの実用化における川崎重工の強みだと考えています。

Q5. 医療・ヘルスケア分野に既に導入されているロボットの「hinotoriTM」「Nyokkey」「FORRO」や、開発を進めているヒューマノイドロボットの「Kaleido」といった製品に、今後どのようにAIを取り入れていく考えですか?

A. AIを搭載した製品単位でなく、複数の製品を組み合わせたソリューションとしての提供を考えています。具体的には、病院内で患者や医療従事者を支援する「ワンストップソリューション」としてhinotoriTMやNyokkey、FORROを位置付け、病院システムやロボット同士の連携に加え、患者やスタッフとのやり取りに応じて最適な行動を取れるようにAIを活用します。
また、Kaleidoは従来型の動作ソフトとAIを併用し、信頼性が必要な動作は従来型、変化への対応や意思決定はAIで行うハイブリッド型を想定しています。
(*)hinotoriはメディカロイドの商標です。hinotori™の製造販売はメディカロイドが行っています。同社は川崎重工とシスメックスの合弁会社です。
詳しくはANSWERSのhinotori紹介ページをご覧ください。https://answers.khi.co.jp/ja/connected-society/20210131j-01/
Q6. 大阪・関西万博でも大きな注目を集めた「CORLEO」では、AIをどのように活用しているのでしょうか?

A. CORLEOはRMV(Robotic Multi-legged Vehicle)という世界中で誰も経験したことがない全く新しいカテゴリの乗り物であるため、その乗り味や操作性の作り込みが重要な課題です。そこで、AIで構築した「バーチャルオフロードコース」上で、操作性や制御システムを何千回、何万回とシミュレーションし、ハードウェア開発を安全かつ効率的に進めています。
またAIは、実機走行時の路面状況の把握 や予測に加え、シミュレーションと実機の挙動差である「Sim2Realギャップ」の解消にも活用していく予定です。
Q7. フィジカルAIが本格的に社会へ普及したとき、私たちの暮らしはどのように変わっていくのでしょうか?

A. フィジカルAIの普及は、少子高齢化に伴う労働人口減少の影響を和らげてくれるでしょう。特に製造業、サービス業、医療・ヘルスケア分野で、AIを搭載した機器やロボット、つまりフィジカルAIが社会に溶け込むと考えます。
また、家庭内などでの活用も広がり、フィジカルAIによる健康管理や見守り支援によって入院の遅延や早期退院を可能にし、医療機関の負担も軽減されるでしょう 。結果として、高齢者がより安全・安心に、自立した生活を送れる社会づくりにつながると考えます。
さらに、フィジカルAIは、自然災害などの非常時に役立つとも考えています。
Q8. フィジカルAIの開発はサンノゼ・欧州・日本の世界3拠点体制で行うとのことですが、各拠点はどのような役割になるのでしょうか?

A. サンノゼはフィジカルAI実用化のために、パートナー企業と連携し、シリコンバレーならではのスピード感で高速プロトタイピング(試作・テスト)を重ね、技術やサービスの検証を進めます。
この成果を欧州へ展開し、医療・ヘルスケア分野での社会実装とフィードバック収集につなげます。さらに、それをサンノゼへ還元して次のプロトタイピングに反映し、継続的な進化サイクルを 構築します。
一方、日本は中核拠点として、あらゆる分野におけるロボット活用や、ロボット以外の製品の市場創出を推進していきます。
Q9. 5年後、10年後のフィジカルAIセンターは、どのような場所になっていると思いますか?

A. シリコンバレーから始まる「世界の次の10年」の波を乗りこなせる存在を目指しています。
次のトレンドをいち早くつかみ、川崎重工の市場拡大や市場創出の起爆剤となり「次の波はフィジカルAIセンターに聞け」というポジションを確立したいです。

Q10. ANSWERSを読まれている方々に向けて、メッセージをお願いします。

A. いま、生成AIは文章や画像の制作などを通じて、私たちの生活の中で身近な存在になっています。さらに、これからは人の指示がなくてもフィジカルAIが状況を自ら把握し、判断し、動くようになります。
私たちメーカーは、フィジカルAIがもたらす新たな可能性を、社会の皆さんとともに広げていきたいと考えています。だからこそ、皆さんの感じ方や期待に耳を傾けて、フィジカルAIの 社会実装を丁寧に進めていきたいと考えています。







