地域鉄道の未来をつなぐ ―Kawasakiの新型車両 「GreenDEC®」とは 【Part1】

公開日2026.08.31

直したくても、直せない――。いま全国の地域鉄道で、車両の修理部品が入手できなくなりつつあります。地域鉄道の中には、電車へ電気を送る架線(電線)がない「非電化路線」が数多く存在し、日本国内の鉄道路線の約30%(※①)を占めます。こうした路線では、エンジンの動力で走る「液体式気動車」が長年人々の移動を支えてきました。しかし、その液体式気動車の部品が相次いで生産中止となり、直したくても直せない事態が現実になり始めています。この危機に対して川崎車両が出した答えは、最先端の専用技術ではなく「広く使われている電車の部品を活用する」こと。エンジンで発電した電気でモーターを動かす新型車両「GreenDEC®」に込められた「未来へつなぐ車両づくり」を、同車両を導入した天竜浜名湖鉄道への取材から紐解きます。

天竜浜名湖鉄道株式会社 運輸技術部長(安全統括管理者)
村松基安
川崎車両株式会社 国内・アジアディビジョン 国内プロジェクト総括部 国内プロジェクト管理部 プロジェクトダイレクター
徳村豊行

車両故障で運休の危機。タイムリミットは始発列車まで

静岡県を走る天竜浜名湖鉄道(以下、天浜線)。

天竜二俣駅の車両基地では車両の点検・修理が日々行われています。しかし、その現場は今、大きな課題に直面していると、同社の運輸技術部長である村松氏は話します。

天竜二俣駅の車両基地に入るTHG100形
村松

車両の老朽化で故障が増えている一方、ここ数年、部品の生産中止が相次ぎ、入手そのものができなくなってきています。部品が調達できなければ修理期間が延び、車両が運用から離脱する期間が長くなります。安定輸送に支障をきたしかねない状況です。

部品は納期の長期化や価格上昇が進み、代替の利かない部品も少なくありません。

その危機が現実となったのが、とある日に起きたエンジントラブルでした。交換に必要な部品が入手できないなか、ほかの車両でも故障や検査が重なり、一時的に翌朝の運行車両を確保できない事態に陥ったのです。

村松

運休はお客様に多大なご迷惑がかかります。特に朝は通勤通学で一番混み合う時間帯であり、そこに運休を出すことだけは絶対に避けなければいけません。その思いだけで、検査で運用を離れていた車両から部品を外して移植し、車両係員が総出で夜を徹しての修理作業を行いました。翌朝、なんとか始発までに修理を終えることができましたが、一晩中対応してくれた車両係員たちの姿は、今でも忘れられません。

公共交通機関としての使命感が現場を支えました。しかし、村松氏は「いつまた同じことが起きてもおかしくないので、常にハラハラしながらの綱渡りです。」と明かします。さらに、部品不足に加え、整備技術の継承も地域鉄道共通の課題となっています。

村松

仮にいくら資金があっても、部品と技術がなければ修理はできません。「部品」と「技術」、その両方の確保が難しくなっているのが、地域鉄道の現実です。

地域鉄道の未来を左右する「車両老朽化問題」――川崎車両の出した答え

こうした声は、メーカーにも届いていました。川崎車両でGreenDEC®のプロジェクトを率いる徳村氏は振り返ります。

徳村

地域鉄道事業者の皆様からかなりの頻度で「新型車両をつくってほしい」という要望が寄せられていました。そこで私たちは、地域鉄道が長く使い続けられる車両とは何かを考えました。

そうして川崎車両が出した答えが、電気式気動車GreenDEC®です。地域鉄道向け車両として初めて、エンジンで発電した電力でモーターを駆動する方式を採用し、電車との部品共通化による保守性向上やライフサイクルコスト低減を実現。天浜線では「THG100形」として運行されています。

川崎車両が開発したGreenDEC®
徳村

電車と共通の部品をたくさん使えば、部品の安定確保が期待できます。長くお使いいただけるうえに、新規に設計する部分が最小限で済むので開発費も抑えられます。「長く使える車両」と「少ない両数でも供給できる車両」を両立させるためのコンセプトでした。

メンテナンス性も大きく向上しており、検査作業の効率化にその成果が表れています。

従来の液体式気動車では、床下機器の検査に多くの時間と労力を要していました。

一方、GreenDEC®では、主要な電気機器の状態を運転席のモニターで確認できるため、検査の効率化と係員の負担軽減を図ることができます。

主要な電気機器の状態は運転席のモニターで確認できる

車両選定の決め手は「未来への目線」だった

天竜浜名湖鉄道では、GreenDEC®をどのように評価し、導入を決断したのでしょうか。村松氏の言葉には、地域鉄道ならではの重みがありました。

村松

新車両の導入は、とてつもなく大きな決断です。一度買ったら何十年も使うものです。ある意味、一発勝負で、選定にミスは許されません。だから一番重視したのは、どれだけ長期間で使える車両であるかということ。そしてもう一つが将来性。大手鉄道会社でも液体式気動車の新規導入例が減るなか、既存の車両を使い続けていれば、部品は必ず入手が困難になります。

村松氏は複数のメーカーに相談したものの、気動車が動力の転換期にあるなか、新型車両の開発に踏み出す提案はほとんど得られなかったといいます。

村松

GreenDEC®は、一つの道筋が見えていました。これなら10年、20年、30年通用するだろうと社内で判断しました。川崎車両さんと私たちの、目指す方向が一致していたのだと思います。

一方で、整備経験のない電気式気動車への不安もありました。しかし現場は、新たな技術を身につける機会と前向きに捉えています。

村松

今でも不安はたくさんあると思います。それでも現場には「俺たちがやるんだ」という意気込みがあり、新しい技術を身につけるチャンスだと、前を向いてくれています。

GreenDEC®を点検する天浜線の車両係員

車両導入に伴う国への各種届出から、整備規程やマニュアルの改定まで、川崎車両の支援も現場を後押ししました。専用部品への依存を減らし、既存技術を効果的に組み合わせることで、地域鉄道の持続可能性を高める――GreenDEC®が示したのは、最新技術を足すだけではない、新たな車両づくりの考え方です。しかし、この車両にはもう一つの顔があります。次回は、川崎重工グループの技術を背景にした、GreenDEC®の未来への仕掛けに迫ります。

※① 国交省鉄道局監修「鉄道要覧」データ等から算出

※② 本記事内の写真は全て、天竜浜名湖鉄道様の許可を得て撮影しています

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