国内外で進む脱炭素への取り組み 日清オイリオ・JFEエンジニアリング・川崎重工が挑む「HYDROGEN READY」への道

公開日2026.04.13

日清オイリオグループ(以下、日清オイリオ)・JFEエンジニアリング・川崎重工の3社が10年かけて築いてきた協力関係が、新たなステージに入った。2025年4月、磯子事業場に水素混焼対応型のコージェネレーションシステム(CGS)が稼働。現在は都市ガスで高効率運転を行いながら、水素インフラが整い次第すぐに混焼へ移行できる「HYDROGEN READY」の状態を目指して準備している。国内・国外での異なる取り組みや、スペース効率を最優先し、8MW級では例が少ない2階建の複数台隣接配置、そして現場の制御文化の変革まで――この設備が背負ってきた挑戦の全貌を、3社の証言とともに紐解いていく。

日清オイリオの目指す「HYDROGEN READY」に向けて

「私たちは、“植物のチカラⓇ”と“油脂をさらに究めた強み”で、食の新たな機能を生み出すプラットフォームの役割を担います。そして多様な価値を創造し、“生きるエネルギー”をすべての人にお届けする企業グループになります。」日清オイリオは2030年に目指す姿を前述の通り掲げ、植物由来の原料と油脂の技術力を組み合わせ、食の新たな価値や健康につながる製品を生み出してきました。

原料から搾油し、食用油を精製する工程には、多くの熱エネルギーが必要です。電力に加えて「熱」の消費が大きいこの産業では、脱炭素のハードルは高くなります。では、どうすればカーボンニュートラルを実現出来るのでしょうか。

日清オイリオ 環境ソリューション室の三浦孝之技師にお話を伺いました。

日清オイリオ 環境ソリューション室
三浦孝之技師
三浦

「当社は製造工程で多くの熱の使用するため、脱炭素を進めるためには効率良く熱を「作り」、「使う」必要があります。脱炭素への本質的な答えにたどり着く為には、燃料転換に踏み込むことが必要不可欠です。」

日清オイリオの脱炭素戦略は、「省エネ年1%削減の積み重ね」、「コージェネレーションの導入」、「非化石エネルギー割合の向上」の3つの柱からできており、これらに沿って活動しています。2050年のカーボンニュートラルを最終目標に、2030年の排出量半減を中間地点として設定しています。これらの戦略のうち、「省エネ年1%削減の積み重ね」が最も重要ですが、多くの熱を使用する日清オイリオにとって、CGSの活用も重要です。そのため、ISFの2工場へのCGS新設に加え、横浜磯子工場では水素混焼型CGSを導入し、HYDOROGEN READYに向け準備を進めています。

日清オイリオでは、CGSの活用について語るとき、それぞれの地域環境により異なるアプローチを導き出しました。具体的には、名古屋工場、ISFでは、エネルギーの供給における「安定性」と「効率性」という観点からCGSを導入し、横浜磯子事業場ではこれらに加え、将来に向けての「持続性」を持ったエネルギー供給体制の確立と、この先の次世代燃料の活用による「発展性」も考慮した水素混焼型のCGSを導入しました。

このように、日清オイリオのCGSには「安定性」、「効率性」、「持続性」、「発展性」の強みがあり、その効果を地域特性に則したカタチで導入しています。

コージェネ設備の4つの強み

日清オイリオはグループを挙げて、CGSの導入によるエネルギーの地産地消を進めると共に、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し次世代エネルギーの活用に挑戦していきます。

日清オイリオのCGSへの水素導入ステップ

ISF社における効率性・安定性を目指した「適正なCGS機種」選定

ISF社(マレーシアに拠点を置く日清オイリオのグループ会社)は、クアラルンプールから西と南それぞれ約50キロにポートクラン工場とデンキル工場の2拠点で事業を展開しています。電力CO₂排出係数が日本より高いマレーシアでは、使う電力が少なくともCO₂排出量は膨らんでしまいます。

そこでISFではCO₂排出係数の低い天然ガスを燃料とし、かつ高効率で電気と蒸気を供給できるCGSを導入しました。ISF Assistant Managerの田中さんによると「当該地区では工場で余った電力を系統に流す逆潮流(売電)が認められていない」という制約がありました。そのため将来の規模拡大を見込んだうえで、ポートクラン工場に8MW級、デンキル工場に5MW級を導入。いずれの工場も将来の消費電力より一回り小さい規模を意図的に選定。余剰を出さないことが鉄則――最新技術の導入によって高い効率性を実現するとともに、予備力を含めた十分な供給力を確保し、安定した電力供給を可能にしています。

ISF Assistant Manager (Intercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd. Assistant Manager )
田中涼太
ISFポートクラン工場 1号CGS
ISFデンキル工場 1号CGS

国内での「全体最適」の野心

一方、横浜磯子事業場は油を搾油する工程などがあり、極めて多くの熱エネルギーが必要な工場です。また、電力の逆潮が可能な為、三浦技師が言うように「熱需要規模に合わせたCGSの出力帯を選定し、その熱をいかに効率よく使えるかが重要になる」といえます。

JFEエンジニアリング 電力ビジネス事業部の太田涼マネージャーは当時をこう振り返ります。

JFEエンジニアリング 電力ビジネス事業部
太田涼マネージャー
太田

「日清オイリオ様は工場ごとの省エネは長きにわたり推進してこられていたので、如何にして今まで以上の大きな成果を出すかが課題となっていました。そこで、『エネルギーの供給体制そのものを、全社規模で最適化できないか』という、より根本的なテーマをいただいたのです。」

2015年から始まった検討が結実したのが「JFE-METS(多拠点一括エネルギーネットワークサービス)」です。熱需要の大きな横浜磯子事業場と名古屋工場にあえて大型CGSを置き、すべての熱を工場内で消費した上でなお余る電力を、他拠点へ融通します。グループ内をエネルギーネットワークでつなぐことで全社規模の最適化を実現する、逆転の発想です。日清オイリオが最初の導入事例となり、このスキームは「JFE-METS」というサービス名で事業展開へと発展する事となりました。

JFE-METSの概要図

川崎重工製CGS採用のワケ

JFE-METSの心臓部に据えられたのが、川崎重工のCGS「PUC80D」です。2018年12月、まず名古屋工場に8MW級が稼働開始しました。

太田

「各社の機種を比較した結果、川崎重工様のCGSが熱を含めた効率で一番高く、かつ日清オイリオ様の需要規模に見合う出力帯のラインナップが揃っていました。」

2020年4月には磯子事業場への導入も実現。名古屋工場での予定を上回る性能とノントラブルの安定運転という実績が、川崎重工への揺るぎない信頼を裏付けます。

現場で驚きをもって迎えられたのが、起動の速さです。

日清オイリオ 横浜磯子工場
山本真也主任
山本

「以前のCGSは発電が始まるまで30分以上かかっていて、まだかな、まだかな、と待つ感じでした。川崎重工製のCGSは起動をかけると数分〜十数分で発電が始まります。オペレーションの面でも、とても扱いやすいですね。」

「発展性」と「持続性」を目指した、国内外でも例の少ない2階建て配置

技術的な挑戦は、スペックだけにとどまりません。横浜磯子事業場では、限られたスペースで、将来の設備更新に備えた「次世代更新スペース」を確保する為に、独自の「2階建て配置」を採用しました。

川崎重工 エネルギーソリューション&マリンカンパニー
岡伸幸主事

「1階にガスタービン、2階に排熱ボイラーを配置し、それぞれを独立した立体型の架台に載せた設備を2台並べて設置するケースは、国内では非常に珍しい事例です。このような配置は国内外であまり例がなく、2025年に新設した4号機に関しては、配置計画や配管計画、機器選定など全て、将来的な水素混焼への転換を見越した設計となっています。」

将来の変化を織り込んだ余白をあらかじめ組み込む――こうした考え方こそが、日清オイリオが重視する次世代技術・脱炭素(水素)への対応を目指す「発展性」と、更新スペースの確保による「持続性」を実現しています。

持続性と発展性を備えた横浜磯子事業場のエネルギーヤードゾーニング

「HYDROGEN READY」という現実解と、3社の執念

今回の磯子4号機が従来と根本的に異なるのは、「水素混焼対応型」として設計されている点です。現在の燃料は都市ガスだが、将来、水素が使える状態をあらかじめ織り込んだ設備とする――これが「HYDROGEN READY」のコンセプトなのです。

しかし実現までの道のりは一筋縄ではありませんでした。太田マネージャーはそのときの苦悩をこう語ります。

太田

「水素混焼の仕様を考え始めたとき、今すぐに燃やさないのにどこまでお金をかけるかという整理が、何を手がかりにどこまでやればいいのか分からなくて、悩みましたね。」

磯子事業場に設置された水素混焼対応型ガスタービン「PCU80D」

この袋小路を切り開いたのが、三浦技師が主導したコンセプトの明確化です。

三浦

「後から大規模改造が必要になるものは今のうちから仕様に織り込む。純粋に後から追加できる機器については、必要になった時に入れればいい、つまり、二重投資を避けつつ将来の水素混焼にシームレスに移行可能な仕様とする方針をお伝えした。」

「水素30%混焼PUC80Dは、DLE燃焼器(※①)おいて水素混焼率に応じた最適なバーナー配分を行うことで、燃焼器を変更することなく水素混焼を実現できます。これにより、天然ガス焚きPUC80Dと比べて、さらに約16%の省エネおよびCO₂排出量削減が可能です。また、将来的に水素混焼率を引き上げる際には、拡散燃焼器へ換装するのではなく、PUC80D向けに開発中の「マイクロミックス(MMX)燃焼器」(※②)へ換装することで、拡散燃焼器よりも低NOx化やランニングコスト低減が期待できます。」

コロナ禍を経た「コスト高騰」と既存の「手動文化」の壁

しかし、PUC80D 導入に向け、3社の前には、2つの困難が立ちはだかりました。

一つ目は、コスト高騰です。コロナ禍を経て建設資材の価格が急騰し、当初の見積もりから大幅に費用が膨らんでしまったのです。川崎重工で営業を担当した本岡担当部長(※③)はこう振り返ります。

川崎重工 エネルギーソリューション&マリンカンパニー 常用発電営業部からコージェネ財団普及促進部に出向中
本岡英樹担当部長
本岡

「JFEエンジニアリング様とともに、日清オイリオ様の名古屋工場のCGSおよび磯子3号機を担当してきたことで、設備コストの感覚は共有できていました。しかし、磯子4号機ではコロナ禍の影響により、材料費や建設費が大幅に上昇しました。そこでコスト抑制を図るため、機器製造と試運転指揮を川崎重工が担い、据付工事をイビデンエンジニアリング様に担っていただくJV方式を提案しました。」

民間CGS案件では珍しいこのスキームに、なりふり構わずプロジェクトを前進させようとした川崎重工の熱意がにじみます。

二つ目が、制御の考え方そのものを見直す「フル自動化へのアップデート」です。横浜磯子事業場の現場では長年、精密な調整を交えた半自動制御が根づき、ベテランの経験が操業を支えてきました。そのやり方を変えることは、現場のプライドを揺さぶることでもあったのです。

山本主任は当時をこう振り返ります。「既存の思想を変えるのは、最初は勇気のいることでした」。しかし実績を積むうちに現場の意識は変わり始め、「フル自動・負荷追従」へのシフトが実現しました。

この変革を後押ししたのが、10年来のパートナーシップです。

太田

「3号機計画の際に必要な制御を吟味しシンプルに整理しました。そこで自動化を進めて問題ないという実感を持っていただけました。4号機では日清オイリオ様からその方針で進めたいというお話もいただき、制御内容に磨きをかけてより一層使いやすいものになりました」

当時、横浜磯子事業場で磯子4号機の導入を担当した、日清オイリオ名古屋工場の佐々木淳副工場長も「JFEエンジニアリング様、川崎重工様の技術のおかげで、よりシンプルに制御できるようになりました。2台を同時に運転して制御するというところが今回のキーポイントでした」と語り、3社の連携が現場の知見をアップデートした様子を伝える。

日清オイリオグループ 生産本部 名古屋工場
佐々木淳副工場長

磯子から水素社会の実装を始める

現在の横浜磯子事業場4号機は、都市ガスによる高効率運転(STEP1)の真っ只中にあります。次に向かうのはSTEP2、すなわち水素混焼です。水素インフラが整った段階で2027年以降を目標に、30%混焼への移行を見据えています。その先のSTEP3では拡散燃焼型DLE燃焼器への換装と制御系更新により水素100%専焼も射程に入り、さらに将来、川崎重工が開発中のMMX燃焼器をPUC80Dに搭載すれば、CO₂排出量ゼロとランニングコスト改善を同時に実現できる展望が開けます。

水素の本格活用には「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」というサプライチェーン全体の整備が欠かせません。しかし、使う側のニーズが社会に伝わらなければ、インフラ整備は動き出しません。

川崎重工の水素サプライチェーンイメージ
太田

「磯子の地に水素需要がたくさんあるということを社会にPRしないことには、水素ガス導管のようなインフラを引っ張ってきてもらえない。こういうやり方で着実に進められるというモデルを磯子から世の中に提示したい。」

本岡

「水素が供給される体制が整えば、お客様がすぐに脱炭素へとつなげられるので、HYDROGEN READY仕様としてお客様に先に準備していただくことがずっと大事だと考えていた。その日に向けて、常に最適な技術をご提供し続けることが私どもの役割です。」

およそ10年前から積み上げてきた信頼が、コスト高騰も手動文化の変革も乗り越えさせてきました。水素の炎が磯子で初めて灯る日に向けて、3社の歩みはさらに深まり続けています。

横浜磯子事業場での取り組みはコージェネ大賞2025理事長賞を受賞

日清オイリオグループ株式会社 環境ソリューション室 技師 三浦孝之 氏

日清オイリオグループ株式会社 生産本部名古屋工場副工場長 佐々木淳 氏

日清オイリオグループ株式会社 横浜磯子工場 抽出課 主任 山本真也 氏

Intercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd. Assistant Manager 田中涼太 氏

JFEエンジニアリング株式会社 電力ビジネス事業部 エネルギーサービス事業推進部 計画グループマネージャー 太田涼 氏

川崎重工業株式会社 エネルギーソリューション&マリンカンパニー エネルギーディビジョン 産業ガスタービン総括部 常用ガスタービン発電部 プロジェクト課 主事 岡伸幸 氏

川崎重工業株式会社 エネルギーソリューション&マリンカンパニー 常用発電営業部からコージェネ財団普及促進部に出向中 本岡英樹 氏

※①:DLE燃焼器 グリーンガスタービン | ガスタービン | 川崎重工業株式会社 

※②:小さな噴射孔(直径1mm以下)から燃料を小分けに噴射し、多数の微小火炎にて燃料を燃焼させることで局所的な高温部分をなくし、NOx排出量を安定して低く保つことが可能となる。

※③:現在は一般財団法人 コージェネレーション・エネルギー高度利用センター 普及促進部 担当部長

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