フィジカルAIが人と共に動く未来へ:シリコンバレーに誕生した川崎重工の新拠点に迫る

公開日2026.07.15

「生成AI」は文章や画像の制作、業務効率化などさまざまな場面で使われ、日常生活に浸透してきました。この生成AIに続き、近年登場してきたAI技術が「フィジカルAI」です。このフィジカルAIとは、いったいどのような技術なのでしょう?
フィジカルAIは「身体」を持ち、現実世界に働きかけることができます。現実世界で動作するからこそ、スマートフォンやPCなどを通して有用な答えを出すだけでなく、状況が刻々と変わる環境の中でも安全・確実に動くことが求められます。そしてそれを実現するには、AIの進歩だけでなく、信頼性の高いハードウェア、精密なセンシングと制御、そして実際の現場で長年培われてきたノウハウが欠かせません。
フィジカルAIは、機械が人に今以上に寄り添って働き、日々の暮らしや仕事を支える頼れるパートナーになる未来をつくると期待されています。この未来を実現するため、川崎重工はフィジカルAI開発の最前線となる新たな拠点を米国サンノゼに開設しました。

未来が動き出す場所:サンノゼに新拠点が誕生

開所式には、AI開発企業や日本政府機関の関係者が参列

2026年5月21日、米国シリコンバレーの中心地に「Kawasaki Physical AI Center San Jose」(以下「フィジカルAIセンター」)が開所しました。川崎重工のロボット事業の現地拠点であるKawasaki Robotics (USA) Inc.が25年にわたり事業を展開する敷地内に誕生した、フィジカルAI開発の新拠点です。Kawasaki Roboticsが半導体製造に用いられるウェハ搬送ロボットを中心に事業を展開してきたのに対し、フィジカルAIセンターでは、ロボットの更なる高度化・多機能化に加え、フィジカルAIを実際の現場に導入し、業務プロセスの継続的な改善を目指しています。また、ロボット分野で蓄積したノウハウをモビリティなどの他領域に拡げ、将来的には社会や産業が抱えるさまざまな課題に対して、包括的ソリューションを提供したいと考えています。

また、フィジカルAIセンターは、フィジカルAIの未来を共に築いていく共創、協業の出発点でもあります。数キロ圏内には、スタンフォード大学、NVIDIA、Analog Devices、Microsoftなど、この分野をリードする多くの組織や企業が集まっており、共創、協業には最適なロケーションといえます。

開所式では、Analog Devicesの中村勝史氏とMicrosoftのDayan Rodriguez氏が登壇し、フィジカルAIの発展には協業がいかに大切か、そしてこの新しい輪の中で川崎重工に寄せる期待についてもお話いただきました。フィジカルAIを日常生活の中にも、産業の現場にも、実際に役立つように届けていく─当センターは、川崎重工のビジョンを体現する場所でもあるのです。

NVIDIA CEO/Jensen Huang氏などからビデオメッセージが寄せられた
開所式で挨拶を行った、
Analog Devices Chief Customer Officer/中村勝史氏
Microsoft Corporate Vice President/Dayan Rodriguez氏

フィジカルAIセンターは、川崎重工が世界3拠点で進めているフィジカルAI戦略の一翼も担っています。日本は幅広い分野での実装を担う母艦、サンノゼは共創・実証~検証を短いサイクルで回す場、欧州は医療分野での実装を担います。これら3つの拠点が連携し、フィジカルAIの開発から検証、展開をグローバル規模で進めていきます。

川崎重工のフィジカルAIネットワーク

58年にわたる現場ノウハウ:AIを育てるための豊富な現場データ

川崎重工のフィジカルAIへの取り組みを支えるのは、1968年から始まる58年間のロボット事業で培ったノウハウです。フィジカルAIの実用化には、実際の現場で動いている機械やロボットから学ぶことが欠かせません。

これまで川崎重工は、溶接や塗装といった「作業」を分析し、現場から得たノウハウを活用してロボットの自動化を考えてきました。そして、産業用ロボットと人と共生するソーシャルロボットの両方を開発する、世界でも数少ない企業として、膨大な量の動作データや運用データを蓄積してきました。これらのデータはフィジカルAIを育てるために欠かせない学習データといえます。

こうした長年の積み重ねが、フィジカルAIの開発と社会実装における川崎重工の強みです。さらに近年では、医師をはじめとする高度な技能をもつ人の動きを分析し、その作業の一部を分担できるようなロボットの設計にも取り組んでいます。

医療分野におけるワンストップソリューション

川崎重工は、ロボットを一台ずつ個別に動かすのではなく、例えば病院全体を一つの連携システムとして構築することも目指しています。このシステムの中では、手術支援を行う「hinotori™(*)」、看護師や医療従事者を支援する「Nyokkey」、搬送・物流を担う「FORRO」などが、連携しながら作業を行います。

hinotori™、Nyokkey、FORROは開所式でデモンストレーションを実施
(*)hinotoriはメディカロイドの商標です。hinotori™の製造販売はメディカロイドが行っています。同社は川崎重工業とシスメックスの合弁会社です

ヒューマノイドロボット「Kaleido」も、この連携システムの一部として構想されています。 Kaleidoは、信頼性と精度が必要な動作には従来の制御技術を使用し、状況に応じた対応や判断はAIが行うという「ハイブリッド型」として開発を進めています。 

これらのロボット技術を医療従事者、患者、既存の病院の情報システムとつなぐことで、川崎重工は病院全体の情報とサービスがよりスムーズに流れる環境づくりを目指しています。 

実用性を重視して開発しているKaleido

目指す先に見据えているのは、高齢者が安全に自立し、さらには安心して暮らせる社会。そして医療機関の負担を軽減できる社会です。それは少子高齢化という社会課題に対する、川崎重工からのひとつの「こたえ」でもあります。

AIと切り拓く新たな道:安全性と楽しさを両立する未来へ

フィジカルAIの未来を見据える中で、川崎重工が注力しているプロジェクトのひとつが「CORLEO」です。2030年のサウジアラビア・リヤド万博で公式モビリティとしての採用、また世界初のRMV(Robotic Multi-legged Vehicle)として2035年の販売開始を見据え、観光やレジャーを中心とした新しい市場の創出を目指しています。

この構想の中でも、フィジカルAIは「安全」と「楽しさ」の両方を実現する技術と位置づけられています。バーチャルオフロードコースで何万回ものシミュレーションを重ね、操作性や機体制御を磨き上げると同時に、シミュレーションと実機の挙動差、いわゆるSim2Realギャップも埋めていくツールとしてもAIを活用していく予定です。このアプローチによって、仮想環境で培った機能を実機へ効率的に移行し、新しいカテゴリの乗り物として作り上げていきます。CORLEOは単なる乗り物ではなく、フィジカルAIをエンターテイメントや人々が分かち合う新たな体験のかたちへと広げていく、より大きなビジョンが反映されたプロジェクトなのです。

開所式のCORLEO展示コーナー

イノベーションの最前線を知る場所:フィジカルAIセンター

フィジカルAIセンターは、2018年から川崎重工が進めてきた変革を象徴する拠点です。当時、精密機械・ロボットカンパニーのプレジデントを務めていた橋本康彦(現・代表取締役社長執行役員)が、「産業用ロボットメーカーから総合ロボットメーカーへ」という方針を打ち出しました。それ以来、川崎重工は個々の機械から、ロボット、AI、そして実際の作業現場をつなぐ「システム」へと視野を広げてきました。

開所式でフィジカルAIについての決意表明を行った川崎重工 代表取締役社長 橋本康彦

医療、製造業、物流、モビリティに至るまで、フィジカルAIは人と共に働き、複雑な環境にも適応し、現代社会が持つ課題を解決していく技術であることに間違いありません。その先にあるのは、ロボットが工場の中だけでなく、私たちの日常生活の中でも信頼できるパートナーとして活躍する未来です。サンノゼに開設されたフィジカルAIセンターは、このような未来を共に描く仲間たちと手を取り合い、イノベーションの「次の波」を生み出す場所となることを目指しています。

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