世界中で脱炭素への動きが加速するなか、素朴な疑問が浮かぶ。「新しい車両をつくるのなら、最初からハイブリッド車両や水素動力車両にすればよいのではないか」。しかし、インフラ環境や車両価格など、導入に向けて越えなければならない壁がある。そこで川崎車両が「GreenDEC®」に採用したのは、地域の足を守るという目の前の課題に応えながら、将来的に水素を含めた新たな動力源への換装を可能とする「水素利用までシームレスに対応する設計(水素Ready)」だった。開発を率いた同社の徳村氏への取材を通じて、脱炭素実現に向けたGreenDEC®のシームレスな移行戦略を紐解いていく。

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脱炭素と導入負担軽減の両立を目指して
鉄道は輸送量あたりのCO2排出量が少ない、環境にやさしい交通機関です。一方、地域鉄道には架線のない「非電化路線」も多く、ディーゼルエンジンで走る「気動車」が活躍して います。気動車は走行時にCO₂を排出することから、非電化路線の脱炭素化に向けて大きな課題となっています。2025年、国土交通省は「鉄道分野のGXに関する基本的考え方」を公表。2031年度以降に主要な鉄道事業者が非電化路線へ新規導入する車両は、原則としてハイブリッド車両・蓄電池車両・水素動力車両とする方針を示しました。
全線非電化の天竜浜名湖鉄道が導入したGreenDEC®は、ディーゼルエンジンで発電し、モーターで走る「電気式気動車」。主蓄電池を併用するハイブリッド車両でも、水素を動力源とする車両でもありません。「ハイブリッド仕様の車両を開発することは、技術的に可能です」と話す川崎車両の徳村氏。課題は、地域鉄道が導入できる環境にすることにありました。


ハイブリッド車両は導入費用や主蓄電池のメンテナンス費用と期待されるCO2削減効果とを総合的に考慮すると、現段階で地域鉄道のお客様にご提案できるものにはなりません。これまでお客様の生の声をたくさん伺ってきたからこそ、「今ハイブリッド仕様を提案するのは難しい」と判断しました。GreenDEC®は、「最前線で生まれる困りごとをしっかり聞いてカタチにする」という、川崎車両のものづくりの原点を意識しながら開発できた車両だと思っています。
地域鉄道にとって脱炭素は利用環境や導入コストの面で、現時点では「難しい」――。GreenDEC®の設計は、そうした事情を踏まえ、持続可能な選択肢とは何かを追求することから始まりました。
ディーゼルエンジンを降ろして、未来を載せる。「GreenDEC®」の設計思想
GreenDEC®は、地域鉄道にとって将来を見据えた第一歩となる「電気式気動車」方式を採用しています。環境負荷の低減を図るだけでなく、将来の脱炭素化にも対応できる構造を取り入れています。
その鍵となるのが、発電する部分と車輪を動かす部分が分かれている「電気式」の構造です。将来、発電部分を別の動力源へ置き換えられるよう、開発当初から機器配置や構造を工夫する事で、水素を含めた次世代エネルギーへの転換にも柔軟に対応できる設計としています。

交換するのは、エンジンとラジエーター、燃料タンクです。これらを降ろして、代わりの動力源を搭載できるようにしています。脱炭素化のために、改めて車両を購入していただく必要はなく、現在のGreenDEC®を改造することで対応できるように設計しました。電気式気動車はすでに広く普及していますが、将来どんな動力にも対応できる柔軟性を持たせるべく、床下機器の配置を工夫することで、川崎車両らしさを見出すことができました。

動力源の載せ替え(換装)にかかる期間について、徳村氏は現時点の見立てとして「数カ月あればできるのではないか」と話します。車両を新造するには2年以上を要するため、大幅な期間短縮が期待できます。こうした発想の背景には、将来を見据え地域鉄道に本当に必要な車両を届けたいという川崎車両の思いがありました。

大手の鉄道事業者向けと同じではダメなんです。地域鉄道の路線と車両にとって、どのようなサイズ、性能、価格が最適なのか。常にウォッチしながら検討を続けています。国も地域鉄道事業者向けの支援を始めているので、そうした制度も十分に活用しながら、最終的には水素利用の実現を目指していきたいと思っています。
脱炭素化へのシームレスな対応を可能にするプラットフォーム
GreenDEC® がもたらす最大の価値は、将来の選択肢を残せることです。その到達点として見据えているのが、「水素動力」です。将来、水素を利用できる環境が整った段階で、車両の大部分を生かしたまま動力源を換装できれば、新造に比べて追加投資を抑えながら、水素動力化を進めることが可能になります。
車両更新時期に縛られず、社会の脱炭素化やエネルギー環境の変化に合わせて移行時期や複数の動力源を選びやすくなることで、地域鉄道は将来の状況変化に応じた最適な選択が可能になります。

GreenDEC®をより導入しやすいかたちで提供できるようになれば、「路線の電化・非電化にとらわれず、GreenDEC®を導入したい」という事業者様も増えるのではないでしょうか。その先に、日本全国でGreenDEC®が走る未来を思い描いています。

脱炭素は、一足飛びには達成できません。しかし、歩みを止めてよいものでもありません。「今できる最善」を選びながら、将来の転換に備える――。GreenDEC®が示す脱炭素化へのアプローチは、地域の公共交通を未来へつなぐための、持続可能な選択肢の一つです。
最終回となる次回は、舞台を再び天竜浜名湖鉄道へ。導入後の運用を支えるテクノロジーと、沿線の風景に溶け込むデザインから、GreenDEC®の真価に迫ります。







