2026年、天竜浜名湖鉄道にTHG100形としてデ ビューした新型車両「GreenDEC®」。[Part1]では地域鉄道が抱える課題と開発の背景を、[Part2]では地域鉄道の未来を見据えて実現した技術や車両づくりへの思いを紹介した。営業運転開始後、現場では早くもその価値が発揮され、車両は地域の日常を支える存在として走り始めている。川崎車両の理念「私たちは、ものづくりと技術革新への挑戦を続け、安心の日常と感動の未来を約束します」は、どのように形になったのか。GreenDEC®の“その後”を追った。


「毎日変わらず走る」を支える状態監視システムの力
GreenDEC®には、車両の状態を遠隔で監視できる「状態監視システム」が搭載されています。しかも天竜浜名湖鉄道(以下、天浜線)の場合、監視を担うのは事業者だけではありません。車両を製造した川崎車両の兵庫工場でもデータを確認し、必要に応じて遠隔支援する体制が構築されています。

天浜線では、導入後まもなく、この状態監視システムの有効性を実感する場面がありました。車両の状態を即座に把握できることで、原因の特定や復旧処理を迅速に進められることが確認されたのです。

資料提供:天竜浜名湖鉄道株式会社

原因がすぐに分かれば、車庫に入れてすぐ修繕に取りかかれます。作業時間を短縮できるだけでなく、整備に関わる人の負担を減らし、コストも抑えられます。さらに故障の未然防止や重症化の回避を実現できれば、安定輸送、ひいてはお客様の鉄道への信頼につながります
そして川崎車両では、この手厚いサポートを継続する体制づくりを進めています。GreenDEC®のような新しい車両を長く使い続けるためには、メーカーの継続支援が欠かせま せん。

納めて終わりではなく、定期検査も含めて、お客様と点検整備を進めながら、長く安心してお使いいただけるよう、伴走していきたいと思っています。
状態監視システムにより、「毎日変わらず列車が走る」という日常を支える現場をより力強く後押しすることが可能になりました。しかし、GreenDEC®が目指したのは、安全・安定輸送を支えることはもちろん、人々に長く親しまれる車両であることでした。その思いは、車両のデザイン にも込められています。

「もっと攻めてください」。未来に通用するデザインとは
GreenDEC®は、無塗装のステンレス車体に黒い前面、天浜線の伝統色を組み合わせたデザインです。実はこのデザイン、最初の案はまったく違うものだったそうです。

デザイナーが最初に描いたのは、現行車両を踏襲した案でした。それをお見せしたとき、村松さんからいただいたのが「もっと攻めてください」という一言。あの一言で方向性を一気に転換することが出来ました。天浜線を象徴する3色は受け継ぎながらも、思い切って刷新したデザインとして提案したのが、今の姿です。

なぜ「攻めた」デザインを求めたのでしょうか。背景には、天浜線が掲げる「安全・正確・共存」という理念があります。村松氏は「正確」という言葉に、列車を正確に走らせることだけでなく、お客様のニーズや社会の変化を正確に見極めるという意味を重ねているといいます。さらに、初代の社長から受け継がれている信念があります。

初代の社長が「車両を買うということは、会社の顔を買うようなものだ」と言っていました。GreenDEC®は次の時代を見据えた車両だからこそ、今だけでなく、将来にわたって愛されるデザインであってほしかったんです。


完成した車両を始めてみたとき、言葉にならないほど感動しました。ステンレス車両というと都会を走るイメージがありますが、車両を見た瞬間、「天浜線の風景に自然と溶け込む」と感じました。後になってデザイナーの方が実際に天浜線に乗り、沿線の風景から着想を得たと聞き、その理由に納得しました。
川崎車両が掲げる「感動の未来」は、デザインとして形になりました。その価値は営業運転開始後、利用者や地域の人々に受け入れ、さらに確かなものとなっていきます。

「え、これが天浜線?」。地域とともに歩む新しい天浜線の顔
GreenDEC®の営業運転開始後、乗客からは「かっこいい」「広々として快適」といった声が寄せられました。車体寸法は従来と変わりませんが、座席配置の工夫により開放感を生み出しています。沿線では、多くの方がカメラを向け、地域の日常に自然と溶け込みつつあります。


途中の駅から高校生の3人組が乗ってきて、「え、乗り間違えた?」「これ合ってる?」と顔を見合わせていたんです。いつもの列車だと思って乗ったら、見慣れない新しい車両だった。その素直な反応が、一番うれしかったですね
徳村氏は営業運転初日の光景をこう振り返ります。それはまさに、GreenDEC®が天浜線の一員として歩み始めた瞬間でした。そんなGreenDEC®に、村松氏は地域とともに歩む未来への期待を託します。

単なる乗り物ではなく、地域の足であり、財産であり、未来を描くシンボルとして受け止めてもらえたら、これほどうれしいことはありません。地域の皆さんの足を守ることは当然の使命です。そのうえで、乗ること自体に魅力のある存在として、これからの天浜線をかたちづくってほしいです。

私たちは車両を売って終わりではなく、地域鉄道の皆様と一緒に走り続ける存在でありたいです。天浜線での実績を礎に、GreenDEC®を日本中の地域鉄道に届けていきます。

地域鉄道を取り巻く環境が変化する中、「明日も列車が来る」という当たり前を守り続けること。それがGreenDEC®に託された使命です。その当たり前を支えているのは、テクノロジーとデザイン、そして車両に関わるすべての人の力です。
取材・資料提供協力:天竜浜名湖鉄道株式会社








