「下水曝気用」磁気浮上式高速電動機直結単段ターボブロワ 川崎MAGターボ®

下水処理場で汚水に含まれる有機物を分解するための生物反応槽に空気を送る「曝気用送風機（ブロワ）」。下水処理の中核設備の一つです。ターボ型や容積型などのタイプがありますが、いずれのタイプも成熟した機械であり、基本構造に大きな変化はありませんでした。そこに技術革新をもたらしたのが「川崎MAGターボ」です。

2006年に初号機が岐阜市の下水処理場に納入されて以来、全国各地の下水処理場への導入は間もなく130台に達し、単段ブロワ（羽根車1つ）で圧倒的なシェアを持ちます。その評判について、川崎重工 機械ビジネスセンター空力機械部 ブロワ設計課 の青田 雄弘 基幹職は「初めてMAGターボを見たときのお客さまの第一印象が、図抜けてよい」と話します。

高い評価を得ている理由は、コンパクトで省エネルギーな点と、メンテナンスフリーに近い保守管理の容易さにあります。磁気軸受方式の電動機に羽根車を取り付けてインバータで高速駆動。従来機と異なり機械的接触がないために潤滑油や冷却水などの補助設備が不要で、全体の制御システムも含めてコンパクトなパッケージ化を実現しています。また、全ての部位を自社開発することでトータルシステムとしての最適化が図られています。

ある下水処理場の試算によると、年間の電力消費量が従来の同風量機に比べて約12％削減されたというデータも。またブロワと制御機器を別置きできるなど設置を柔軟にアレンジすることも可能です。

ブロワに要求される風量は、季節や天気、曜日、さらに時間帯によって異なります。そのため処理場では、予備機も含めて複数台のブロワが設置されて必要風量に応じて運転台数の変更や風量調整が行われます。だからこそ小型でコンパクトで省エネ、メンテナンスが容易なMAGターボへの注目と信頼が高まっているのです。

その存在を広く知られる設備ではありませんが、ブロワは安心で安全、快適な生活を支える地球環境に優しい機械として回り続けています。

磁気軸受は、ロータを磁気軸受（電磁石）の磁力により浮上させる方式です。ロータと電磁石のすき間はわずか数百㎛。磁気軸受制御装置は、Ｘ・Ｙ・Ｚの各座標軸に対して位置センサによって現在の位置を常に把握し、磁気軸受に対する電流値を制御することでロータを基準位置に保ちます。ロータの制御幅は５～10㎛に納められています。

運転中に停電すると磁気軸受制御システムが働かなくなり、浮上しているロータが高速回転したまま軸受部に接触して損傷するリスクがあります。しかし、MAGターボは停電と同時に高速回転する電動機が発電機に変わって発電し（回生電力）、ロータが安全に落下できる回転速度に低下するまで、磁気軸受制御に必要な電力を供給します。このため無停電電源装置が不要になったのです。

1分間に最高で3万回転する高速電動機。磁気軸受と一体の構造になっています。回転速度はインバータ制御により可変で、吸込状態などに合わせて効率の良い回転速度を生み出します。空気で電動機を冷やすので、冷却水を管理する手間がいらなくなりました。

MAGターボの中核技術である磁気軸受（電磁石）。高速電動機のロータを電磁石の磁力（ロータを各方位の磁石が引き寄せようとする力）を利用して浮上させており、2つのラジアル磁気軸受と1つのスラスト磁気軸受で構成されています。磁気浮上式なので機械的なロスが極めて少なく、電力消費量が低減します。また潤滑油と、その冷却水がいらないので関連の設備、保守点検が不要になり、ユニット全体のメンテナンス負荷が大幅に低減されています。

磁気軸受に支持され、その軸端に羽根車を直接取り付けているのがロータ（回転子）です。合金鋼製で、適切な熱処理後に高精度に仕上げられ、長期の使用に十分に耐えられるようになっています。

高速電動機ロータの軸端に取り付けられているのが斜流型の羽根車です。高速回転しながら吸込口から入った空気を圧縮して吐出口へと送ります。初代の斜流型羽根車は半世紀近く前に川崎重工が自社開発したものですが、その形状や空気流路の設計は、常に最先端の技術で進化し続けています。

インレットベーンは、回転リングにより角度が連動して変化し、吸込気流に旋回を与えることによって風量を効率良く制御します。ステンレンス製で耐食性に優れ、長期使用に耐えられるようになっています。