2022年度第3四半期決算から読み解く、川崎重工の将来性

公開日2023.02.10

2023年2月10日に川崎重工グループの2022年度第3四半期決算発表を行いました。IR部の清水 江里さんに2022年度第3四半期決算のポイントと川崎重工の将来性について、わかりやすく解説してもらいました。ぜひご注目ください。

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川崎重工業株式会社
コーポレートコミュニケーション総括部IR部IR課
主事
清水 江里
PROFILE

新しい船を造る瞬間に立ち会いたいと思い2013年に入社。船舶海洋ディビジョン、本社PR部を経て2021年からIR部。よりよい企業経営を実現するため、社外からの意見に耳を傾け、川崎重工を“コングロマリット・プレミアム”に導くための最適な選択を模索しています。

5つの既存ビジネスを3つの注力フィールドにシフト。
高い競争力をもった水素事業の確立を目指す

決算について聞く前に、川崎重工ってどんな会社でしょう?いま、どんなことに取り組んでいるのですか?

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清水

では、当社グループの既存ビジネスと注力フィールドという2つの観点からご説明します。まず、既存ビジネスは製品別に「航空宇宙システム」「車両」「エネルギーソリューション&マリン」「精密機械・ロボット」「パワースポーツ&エンジン(2022年12月にモーターサイクル&エンジンから改称)」の5つのセグメントで展開しています。

一方、当社グループは2020年11月に、2030年に目指す将来像として、グループビジョン2030「つぎの社会へ、信頼のこたえを~Trustworthy Solutions for the Future~」を策定しました。このグループビジョンでは、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティー」「エネルギー・環境ソリューション」という3つの注力フィールドを定めています。5つの既存ビジネスをこれら3つの注力フィールドにシフトしつつ、シナジー効果を活かして新規事業とともに複合的に伸ばしていくことが現在、当社グループの目指しているところです。

3四半期連続で大幅な増収増益を達成

2022年度第3四半期決算についてお聞きします。好業績となったポイントを聞かせてください。

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清水

今回の決算は、経営努力の成果といってよいでしょう。昨年より、世界的に原材料価格、エネルギー価格が高騰し、あらゆる産業で大幅なコスト高が生じています。さらに物流混乱や半導体不足で計画通りの生産が難しくなっていることもあり、いかにこれらのマイナスを販売価格への反映や、サプライチェーンにおける創意工夫でカバーできるかが製造業全体の課題となっています。

そのような中で、特に影響の大きかった「パワースポーツ&エンジン」では、高いブランド力を背景に、他社に先駆けて実施した価格改定をお客様に受け入れていただけたことでコストアップを相殺することができました。また、厳しいサプライチェーンの制約を抱えながらも生産機種を柔軟かつ機敏に組み替えることで生産量を増やし、旺盛なアウトドア需要に応えてきたことが、大幅な増収増益につながりました。

ほかにも、「航空宇宙システム」において旅客需要の回復を背景とした収益改善や、円安といった外部環境の追い風もあり、事業利益は808億円(前年同期287億円)と大幅な増益を達成することができました。また純利益(親会社の所有者に帰属する四半期利益)も525億円と第3四半期としては過去最高の水準で着地することができました。

2022年度(通期)決算の見通しについて、ポイントを教えてください。

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清水

当社グループは2022年度の業績予想について発表し、事業利益の見通しを760億円から860億円に上方修正しました。これはコロナ前(2019年度)を超える水準となっています。全体の事業利益のうち、680億円が「パワースポーツ&エンジン」、100億円が「精密機械・ロボット」となっており、利益構成ではこの二つの量産系事業が9割以上を占め、収益を支えるという見通しを立てています。

また、為替変動も業績を左右する重要なポイントです。一般的に円安はドル建て売上の大きな輸出企業にメリットがありますが、今期の円安は国内のコスト高とも密接に関連しています。為替によるメリットをコスト高が打ち消してしまう企業もあるなか、当社グループは適正な価格改定やサプライチェーンにおける創意工夫といった取り組みを続けることで、円安の恩恵を残せると見込んでいます。

さらに来年度以降は、モーターサイクル市場の需要が少し落ち着くとみていますが、一方で「航空宇宙システム」では、航空需要の回復にともなうボーイング787の機数増加や、「車両」では収益性が高いと期待されるニューヨーク地下鉄(R211)の本格的な売上計上が予想されます。これら大型受注プロジェクトを中心とする事業の本格回復にご期待ください。

高い企業価値を実現する “コングロマリット・プレミアム”

コロナ禍の大きな危機から短期間で脱出しましたが、川崎重工の真の強みはどういうところなのですか?

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清水

昨今、資本市場は事業の「選択と集中」による効率的な経営を求める傾向が強く、多角化した事業形態を持つ会社には、厳しい目が向けられています。これはコングロマリット・ディスカウントと呼ばれ、当社もその評価を受けていますが、当社は“コングロマリット・プレミアム”という方針を打ち出しています。グループが保有する、「エネルギー・環境ソリューション」「モビリティ」「ロボティクス」といった多様な技術と事業基盤のシナジーを結集し、世界的に困難をもたらしている社会課題に応えるソリューションをタイムリーに提供できる企業体質へ変革していく方針です。それによって、社会的価値を実現するプレミアムなコングロマリットを目指すのです。このような考え方は、重工各社の中でも唯一の方針であると思います。

多様な事業を展開する川崎重工ならではの取り組みですね。具体的にはどのように“コングロマリット・プレミアム”への道筋を描いていますか?

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清水

グループビジョン2030における3つの注力フィールドへの取り組みで、当社グループがステークホルダーから高い競争力と将来性を発揮できると大いに期待されている事業があります。それは、次世代エネルギーとして注目されている水素事業です。世界的な気候変動などの問題解決に向けて、世界でカーボンニュートラルに向けた動きが活発になっており、さまざまな国や企業がソリューションを模索しています。そのなかで、燃やしても二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして水素に大きな期待が集まっています。水素は地球上で最も軽い気体で、-253℃まで冷やすことで液体(液化水素)になります。液化水素の体積は気体の約800分の1となりますが、それだけ低い温度にするには高度な技術が必要で容易ではありません。40年以上前の1981年にアジアで初となるLNG(液化天然ガス)運搬船「Golar Spirit」を建造し、エネルギーの大量輸送に貢献してきた当社グループだからこそ、これまで培ってきた極低温技術を活かし、これからの世界を支えるエネルギーソリューションとして水素を大量かつ安価にみなさまへ供給できる、と考えています。

また、当社はエネルギーを運ぶ船だけでなく、液化機、LNG(液化天然ガス)貯蔵タンク、ガスタービンやガスエンジンなどの発電設備、航空機・鉄道車両・二輪車などのモビリティといった複数の技術を保有しています。これらすべてに水素エネルギーを活用することで、「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」というすべてのステップを一気通貫で当社が担い、水素を大量に使えるようにするための水素サプライチェーンを構築しようとしています。アジアのようにパイプラインのない地域ではLNGと同じように港に船で運ぶ、また、自動車や発電の燃料として使うなど、水素を必要とするところに水素を届けること、そこに当社の社会的使命があります。すでに当社は国際的な液化水素サプライチェーンの構築に向けた技術実証を進めており、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が国際間の長距離輸送を実現しています。また、大量かつ安価な水素を皆さまにお届けし、広く使っていただくため、水素サプライチェーンの大型化にも取り組んでいます。液化水素の出荷・受入基地や大型液化水素運搬船などの商用規模の機器供給を通じて、水素の社会実装に向けた期待に応えながら、“コングロマリット・プレミアム”へと変貌を遂げていきます。

2030年に向けて、今後、どのように収益力強化を図っていきますか?

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清水

2030年に向けては、既存の事業の収益最大化を図りながら、当社が得意とする中小型のガスタービンや二輪車・船舶・鉄道車両などのモビリティで水素を使えるようにすることで、水素を供給するためのインフラから水素を燃料としてつかうモビリティに至るまで幅広いプロダクトを提供していくとともに、知財やライセンスによる新たな収益源の拡大を図っていきます。

足元では、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金に採択された事業規模約3,000億円の「水素サプライチェーンの商用化実証」が進捗しており、今後は水素関連のプロジェクトが徐々に売上や利益に貢献してくるでしょう。

このように、水素の社会実装、そしてグループビジョンの達成に向けて、川崎重工は着々と歩んでおり、ステークホルダーの皆さまの大きな期待に応えていきたいと考えています。

※本記事に記載されている業績見通しなどの将来に関する記述は、2023年2月10日の第3四半期決算発表の情報に基づいたものです。実際の業績は、当社の事業領域をとりまく経済情勢や対米ドルをはじめとする円の為替レートなどさまざまな要因の変化により、記載の予想と異なる結果となることがあります。

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