工場などで活躍する「油圧機器・システム」では、消費電力や油量を削減する省エネルギー化や、初期投資を抑える「サブスクリプション」の導入などの変革が進んでいます。油圧ポンプの回転数を制御する画期的な「エコサーボ」を開発し、業界を牽引する川崎重工が提案する油圧機器・システムの進化と、新たなサービスを探ります。
省エネ・コンパクト化・低騒音実現のカギは「油圧ポンプの回転数制御」
川崎重工の画期的な油圧システム「エコサーボ(ECO SERVO®)」の初号機が生まれたのは、今から20年以上前の1999年でした。
従来の油圧システムは、アクチュエータが停止している時も絶えず電動機および油圧ポンプが回転し続けるため、機械が作業をしていないときでも電力を消費していました。
「エコサーボ」は、アクチュエータの動作指令に応じて電動機および油圧ポンプが動作に必要なだけ最適に回転数を制御することで、ムダなエネルギーを削減できるのです。
川崎重工 精密機械ディビジョン システム技術部の小川 恭右主事は、エコサーボ開発の背景についてこのように語っています。
「川崎重工はこれまで、建設機械・産業機械・舶用機械など、多様な機械・装置に油圧機器・システムを提供してきました。アクチュエータが動作する時だけポンプ・電動機が回転する、という技術も、省エネ技術、制御技術の知見があったからこそ生まれた発想でした」。
「油圧ポンプの回転数制御」とそれに伴う「油圧回路の簡素化」という新発想は、以下のようなメリットをもたらしました。
- 油圧ポンプと電動機の最適制御 →消費電力量を最大で約80%も削減し、運転騒音も大幅に低減
- 動力損失による発熱量を低減 →作動油量を低減しメンテナンスも容易に
- 油圧回路を簡素化 →最大で設置面積を3分の1、タンク油量を20分の1に低減(当社試算)
工場内で油圧機器を使用する際に発生する「騒音」や「振動」も、現場の作業者にとっては大きな負担となっていました。「エコサーボ」は、油圧ポンプと電動機、制御装置で構成されており、電動機を必要最低限の回転数に制御することで運転騒音を低減できます。
また、制御装置は高精度、省エネ、高応答を実現。さらに、高剛性の構造体(ブラケット)と弾性支持体を採用することで油圧ポンプからの振動伝搬を減らし、低騒音を実現しています。
幅広いポンプ容量をラインアップ。多彩なシステム構築も可能に
「エコサーボ」は発売以来、工場のプレス機械や射出成形機などさまざまなシーンで活用され続けるロングラン製品となっています。
2018年にはポンプ容量500cm3も登場し、幅広いラインアップで小型機械から大型装置まで対応できるのも特徴です。最高使用圧力32MPa、ポンプ1台あたりの最大吐出量600ℓ/min(ポンプ容量500cm3)と、高圧、大容量を必要とする油圧システムに適応しているのも大きな特徴と言えます。
また、アクチュエータ速度や出力を電動機回転数で制御する「オープン回路」、さらにアクチュエータ動作方向、位置も電動機回転方向、回転数で制御する「クローズ回路」、制御性能に優れた「サーボモータドライブ」、コストパフォーマンスのよい「インバータモータドライブ」など、多彩なシステムを構築できるので、現場のニーズに合わせて最適なシステムを選択することができるのです。
省エネ油圧パッケージユニットをより導入しやすく。「エコサーボ ライト」「エコサーボ アヴァント」登場
2015年、「エコサーボ」の省エネ油圧パッケージユニットも登場しています。密閉加圧タンク、オイルクーラなどがコンパクトに一体化されているので、省エネ油圧ユニットをより手軽に導入できるようになりました。
また、この密閉加圧タンクによって、メンテナンス性が大きく向上しています 。従来の油タンクはエアーブリーザを介してタンク内の油が大気と接していたため、設置環境によっては粉塵の混入などが作動油の汚染原因となっていました。密閉タンクでは大気との接触を遮断することで作動油の清浄度を良好に維持します。その結果、異物による油圧機器の動作不良を大幅に低減しています。
そして2021年8月、現場のニーズに合わせて選べるように、機能別に標準化された「エコサーボ ライト」と「エコサーボ アヴァント」が発売されました。
小川主事は発売の背景についてこう語ります。
「今後、ますます設備の省エネ化やCO2削減のニーズが高まると予想されます。お客さまが設備の必要機能に応じて、容易に省エネ化を実現できるよう、機能別に標準化した省エネ油圧パッケージユニットをラインアップする事にしました」。
「エコサーボ ライト」は流量と圧力制御に特化した省エネユニットで、「オープン回路用ポンプ」と「インバータドライブ」を採用することで操作性を向上。
消費電力削減のベーシックツールとして省エネルギー化を容易にはかることができます。
一方、「エコサーボ アヴァント」は「エコサーボ ライト」の機能に加えて、位置制御、高サイクル運転が可能な高機能省エネユニットとなっています。
「クローズ回路用ポンプ」を採用し、アクチュエータの動作方向はモータの回転方向を変えて直接コントロールすることで、動力損失をより低減でき、高効率化とコンパクト化にもつながります。また、「サーボドライブ」を採用することで、より高応答で高精度な制御が可能になります。
対象設備に応じて、「オープン回路用ポンプ」、「クローズ回路用ポンプ」を導入できるのは、川崎重工が長年培ってきた、豊富な油圧ポンプの技術とノウハウがあるからと言えます。
油圧機器に「サブスク」という新発想。ニーズや予算によってプランを選択
いま、食品や日用品、音楽や映像などデジタルコンテンツをはじめ、家具・家電、乗用車などサブスクリプションの国内市場規模は成長を続け、2023年、国内サブスク市場は1兆1,021億円に達すると予測されています。※1産業分野のB to B向けサービスにおいても、工作機械やスマート工場のノウハウをサブスクリプションで提供されるようになり、業界の注目を集めています。※2 ※3
そして、2021年10月、油圧機器において画期的な「サブスクリプション」を「エコサーボ ライト」と「エコサーボ アヴァント」に導入した「ECO-SUB」のサービスが開始されました。省エネ油圧ユニットを「所有せずに使う」という選択が新たに可能となり、必要なメンテナンスや予備品を組み合わせたプランを定額で利用できるようになったのです。
サブスクリプション開始の背景には、自社工場で感じていた課題感もあったと、同ディビジョン システム営業部の津川 大介課長は語ります。
「設備を抱えると経営上の重たさに加えて、保全費用という問題もあります。保全費用は大きいだけではなく、一定ではないため、予算計画を立てづらい点も悩みでした。そういった生産のお悩みをお客さまもお持ちだろうと考えたときに、『サブスクリプション』、『所有』しないで『使用』するという選択がないかと思ったのです」。
設備のライフサイクルが長くエネルギー消費量が多い産業機器において、設備の省エネルギー化は課題です。しかし、高額な初期投資やメンテナンスにかかるランニングコストが、省エネ設備導入の壁となるケースが多く見られます。
サブスクの「ECO-SUB」を導入すれば、初期投資を低減でき、ランニングコストの安定化、増産や減産などの生産変動にも柔軟に対応できます。また、契約期間、アフターサービス、予備品に関して数種類のプランを設定し、ニーズや予算によってプランを組み合わせて契約できるのも魅力です。利用が終了した製品は、川崎重工で再利用できる状態に再生され、環境にも十分配慮されています。
「エコサーボ」を長期的に利用する場合は「購入」を、初期費用の低減や月々のランニングコストの安定化を重視する場合は「ECO-SUB」を選ぶなど、さまざまなニーズに対応できるよう、省エネ油圧機器はサービスにおいても選択肢は広がっているのです。
カーボンニュートラルの取り組みが進むなか、工場設備の省エネルギー対策も求められています。省エネ油圧機器・システムを導入することで、電気代や油量を削減し、低騒音、コンパクト化など多くのメリットも実現。さらに、新たな販売形態を活用すれば、初期投資費用を抑えることも可能になります。
川崎重工はこれからも柔軟な発想で、技術はもちろんサービスにおいてもイノベーションを加速し、社会課題の解決とお客さまのニーズに応えていきます。
精密機械・ロボットカンパニー
精密機械ディビジョン 技術総括部
システム技術部 産業装置課
主事
精密機械・ロボットカンパニー
精密機械ディビジョン
営業総括部 システム営業部 産機CS課
課長