一刻を争う命のもとへ駆けつけるドクターヘリ。火災や災害の発生現場に日夜出動する消防・防災ヘリ。さまざまな分野で活躍する多用途ヘリコプターBK117シリーズは、1982年に川崎重工が送りだした国産初のヘリコプターです。同シリーズの最新モデルD-3型に込められた技術に迫ります。
振動を減らし、搭載量はグンとアップ
川崎重工とエアバス・ヘリコプターズ社が国際共同開発を進めてきた多用途ヘリコプターBK117シリーズの最新モデル「BK117 D-3型」が、欧州当局の型式証明を取得し、2021年春には国産初号機が納入されます。
D-3型は、前モデルのD-2型の高高度におけるホバリング性能や最新の航空電子機器搭載などの高機能を引き継いだうえで、①メイン・ローターを4枚から5枚ブレードに変更、②メイン・ローターを取り付けるローターハブの部分を、ベアリングを使わない「ベアリングレス構造」に変更、③有効搭載積載量を150kg増加、などの機能性向上を実現しています。
メイン・ローターが5枚ブレードになることで機体の振動は軽減され、ベアリングレスでハブ構造がシンプルになることにより、点検・整備の間隔を長くすることができます。
ベアリングレス構造の採用は重量減にもつながり、機体重量が約50kg減少。さらに最大離陸重量を約100kg増加させたことで、有効搭載積載量が合計で約150kgも増えました。より多くの人、ものを搭載できるので、運用者のメリットも大きくなっています。
BK117は、救急医療や消防・防災などで活躍する中型双発機で、1983年の初号機以来、改良を重ねた優れた技術力と高い信頼性から、シリーズ通算では川崎重工とエアバス社の合計納入分が全世界で1,600機以上を誇るベストセラー機となっています。
メイン・ローター・ブレードの5枚化で振動が少なく快適性が向上
ローター・ブレードは回転に伴って固有の振動を生み、1回転あたりではブレード枚数分の周波数がヘリコプターの主振動となります。
ブレードを4枚から5枚に増やしたことによる振動周波数の変化や新型のローター・システムの採用などにより、固有の振動を最適化し、体感的にも快適性が向上。操縦に対する応答性についてもパイロットから好評を得ています。
BK117への5枚ブレードの採用は、エアバス社が基礎研究を重ねてきたものです。それによって誘引される軽量化のメリットも大きく、D-2型の機体底部にあった防振装置も不要となりました。
ローター・ブレードを折り畳んで、コンパクト格納
新規オプションとして現在開発中なのが、5枚のローター・ブレードを折り畳めるようにすることです。全長・全幅をコンパクトにし、狭いハンガーでも格納できるようになります。
シンプルだが強く、整備も簡素化できるベアリングレスのハブ構造
BK117では、エンジンの力を伝え、メイン・ローターを回転させるハブの部分に、一貫してベアリングを使う方式を採用してきました。
ローター・ブレードは通常、ベアリングの潤滑により角度を変えて揚力を発生させます。しかしD-3型では、5枚ローター・ブレードで振動を低減し、かつ部品点数の削減を狙いベアリングレスとしました。ローターの付け根部分の内側には「フレックス・ビーム」という軟らかくも強度のある複合材製構造となっており、この部位が角度を変えることで揚力を得ることができます。
ベアリングがなくなることでハブ部分の構造はシンプルになり、ベアリングの潤滑油補充や分解整備も不要になります。これが点検・整備の間隔を長くできる理由で、さらに機体重量も軽くなりました。
川崎重工のヘリコプターでは既に「OH-1」で同様のベアリングレス構造が採用されています。
Kawasakiの技!BK117シリーズの代名詞「広いキャビンと観音開きドア」
キャビンとカーゴルームが一体型で、フルフラットな床と広々とした客室空間を、骨組みとボディ板の最適な構成で実現。薄い壁の内側に電気配線やオイル配管などを盛り込むのが川崎重工ならではの技です。後部の観音開きドアによるアクセス性は、ドクターヘリで高く評価されています。
運用方法へのバリエーションも拡大!有効搭載積載量は150kgアップ!
最大離陸重量(機体や搭乗者、搭載物を含めた飛行できる総重量)を約100kg増加。さらにハブ構造の見直しなどで機体重量を約50kg軽減したことにより、有効搭載積載量は約150kgも増加しました。
これにより、防災運用では救助者をより多く乗せたり、ドクターヘリでは医療設備やスタッフを増やせます。また増加分を燃料の増量にあてることもでき、運用者の自由度が広がっています。
航空宇宙システムカンパニー
航空宇宙ディビジョン
ヘリコプタプロジェクト総括部
ヘリコプタ設計部 ヘリコプタ計画三課
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