工場から脱炭素へ。進化する省エネ油圧機器の実力

公開日2022.01.31

いま、ものづくりの現場にも省エネルギー化が求められていますが、設備の導入コストや労力が障壁となるケースもあります。工場で活用される油圧機器を見直すことは、効果的な省エネ対策につながります。油圧機器・システムを世界に供給してきた川崎重工が、脱炭素社会の実現に向けた新たなソリューションを提案します。

工場の省エネ化は重要な社会課題。
生産設備における「制御」「不要時の停止」などに着目

世界的にカーボンニュートラルの機運が高まるなか、2020年に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」では、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としています。

製造業、建設業、鉱業、農林漁業などの産業部門は、発電所に次いで多くのCO2を排出しています。中でも、社会インフラや工場等で使用される産業機械は、ライフサイクルが長く、製造段階と比べて使用段階でのエネルギー消費量が多いため、省エネルギー対策は重要な社会課題です。※1

出典 「日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」より川崎重工作成

製造業における工場の環境対策では、ファーストステップとして技術的なハードルの低い「照明」「空調」の省エネルギー化に着手するケースが多くみられます。

さらに省エネを進めるうえでは、下図のように「生産設備・他の設備」の改善も有効です。「回転数制御」「不要時の停止・運転時間の短縮」を行うことで消費電力量を大幅に削減(省エネ化)できます。

現在、電力の大半は化石燃料で賄われているため、消費電力量の削減がCO2削減につながり、産業部門のカーボンニュートラル実現に貢献できるのです。

工場省エネ診断・設備分類ごとの提案内容別件数
出典: 一般財団法人省エネルギーセンター「工場の省エネルギーガイドブック」 P13より川崎重工作成 

では、実際に油圧機器において「回転数制御」「不要時の停止・運転時間の短縮」を図る場合、どうすれば良いのでしょうか。

大きな効果が期待できる選択肢のひとつに、川崎重工の「エコサーボ(ECO SERVO®)」があります。

※1 経済産業省 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)」参照

電動機の回転数を制御し省エネ化する川崎重工の「エコサーボ」。ニーズに合わせたパッケージユニットとサブスクも誕生。

1999年に発売した川崎重工の「エコサーボ」は、アクチュエータ動作に応じて油圧ポンプと電動機の回転数を制御し、ムダなエネルギーを削減するという、従来にはない発想で生まれた画期的なシステムです。

「エコサーボ」には、以下のようなメリットがあります。

  • 消費電力量を最大で約80%削減
  • 運転時の騒音を大幅に低減
  • 油タンクの小型化による作動油量の低減(20分の1に)
  • 上記に伴う省スペース化(最大で設置面積が3分の1に)
  • メンテナンスも容易に

※ 川崎重工の試算による

「エコサーボ」の構成

「エコサーボ」をより手軽に導入する選択肢として、省エネ油圧パッケージユニットが存在します。異物の侵入を防止し作動油を安定吸入させるための密閉加圧タンク、オイルクーラなどがコンパクトに一体化しています。

ECO SERVO® エコサーボ パッケージユニット

さらに、2021年8月には、お客さまのニーズに合わせて機能別に標準化した「エコサーボ ライト」と「エコサーボ アヴァント」も発売されています。

ECO SERVO® Light「エコサーボ ライト」
ECO SERVO® Avant「エコサーボ アヴァント」
※従来製品と比較。川崎重工の試算による

「エコサーボ」導入方法の選択肢も広がっています。

2021年10月、「エコサーボ ライト」と「エコサーボ アヴァント」の新しい販売形態として、業界では画期的な「サブスクリプション」を導入した「ECO-SUB」の提供が開始しました。初期投資の低減や、ランニングコストの安定化、増産や減産などの生産変動にも柔軟に対応できます。

「エコサーボ」を長期的に利用する場合は「購入」を、初期費用の低減や月々のランニングコストの安定化を考えれば「ECO-SUB」を、といった形で、自社の状況に合わせて導入方法を選ぶことができます。

自動車のクラッチディスクでトップクラスのシェアを誇るダイナックス。「エコサーボ」導入で省エネ化を推進

「エコサーボ」の導入によって、具体的にどのような変化が生まれるのでしょうか。

北海道の雄大な自然に囲まれ、新千歳空港から車で約20分という利便性の高い地に本社を構える株式会社ダイナックス。2015年より「エコサーボ」を導入し、工場の省エネルギー化を実現しています。

ダイナックスは1973年に創業し、自動車や建設機械、農業機械の駆動系の専門メーカーとして国内外に知られる企業へと成長を遂げました。特にクラッチディスクにおいて独自の技術を構築し、国内1位、世界2位(46%)もの高いシェアを誇ります。

世界の著名な自動車メーカーや産業機械メーカーからの多彩なニーズに応え続け、千歳市と苫小牧市のほか、海外では中国、アメリカ、メキシコ、ハンガリーにも製造・販売のネットワークを広げています。

ダイナックスのコア技術であるクラッチディスク。写真右のクラッチプレート(鉄製の芯金)に特殊な摩擦材を接着して製作する

ダイナックスは地域社会に貢献したいという想いから、オートマチック車のクラッチディスクに不可欠な摩擦材において1980年代より脱アスベスト化を図るなど、環境問題にもいち早く取り組んできました。

ダイナックス 製造本部 保全部 部長の後藤 潔人氏は「エコサーボ」の導入理由について語ります。

「従来の油圧機器は大量の油を使用し、オイル交換の際も廃油が多く、工場内が油で汚れるのを抑えたいと考えました。油量削減を図るため油圧機器を見直すなか、『エコサーボ』は他社製品よりも圧倒的に使用する油量が少なく、電気代の削減効果も高いことから導入を決めました。当社のコア技術である、摩擦材をクラッチディスクに接着した後の製品板厚を仕上げると同時に、平面を平滑に仕上げるプレス工程において活用しています。

板厚品質はクラッチの性能に大きく影響する重要工程です。プレス機の設置台数も多いため、同機器を展開することで高い省エネ効果が得られました」。

クラッチディスクの接着工程

①搬入部 クラッチディスクをアームで掴み、プレス台へ運ぶ
②板厚仕上 摩擦材の板厚仕上げと表面を平滑に仕上げする。プレス機の動力源になっているのが「エコサーボ」
③搬出部 板厚仕上げされたクラッチディスクが搬出される 

現在、ダイナックスでは「エコサーボ」を、千歳工場で7台、苫小牧工場で15台、アメリカの工場で15台、ハンガリーの工場で9台、中国の工場で2台導入しています。

ポンプ容量80cm3と140cm3の「エコサーボ」と密閉加圧タンクなどを一体化したパッケージユニットを導入

「エコサーボ」の具体的な省エネ効果について、後藤氏は語ります。

「消費電力の削減効果が非常に高く、従来の油圧機器と比べて設備単体で約86%もの消費電力量を削減できました。CO2削減にもつながる素晴らしい性能だと感じます。省エネ機器は一般的にイニシャルコストが高く導入にハードルがありますが、長期的に見れば電気代の削減は大きなメリットといえます。

また、これまで千歳工場では大量の油を使用し毎年交換してきましたが、『エコサーボ』の導入により年間で約2,000Lもの油量を削減できるようになりました」。

※消費電力量の削減効果は、設備保有工場全体で2.1%、削減千歳工場全体で0.8%

メンテナンス性向上、低騒音など多くの魅力をもつ「エコサーボ」

ダイナックス 製造本部 保全部 千歳保全チーム チーム長の安倍 睦博氏は解説します。

「従来の油圧機器の場合、常にモータがマックスで動いていたので、温度変化などによって油が劣化しやすいという課題がありました。

『エコサーボ』は回転数制御で必要なときにだけ動くため、油の回る量も少なく、そもそもタンクに入れる油も少量に抑えられます。また、酸素に触れたり粉塵が混入したりすることで油は劣化しますが、『エコサーボ』パッケージユニットの密閉加圧タンクは、それらを防いでくれます。

機器が油で汚れず壊れにくく、一度調整をすればほぼメンテナンスが不要な『エコサーボ』は、頻繁な渡航が難しい海外工場の場合は特に助かります」。

後藤氏いわく、「『エコサーボ』は、地球環境やコスト面だけでなく、働く人にとってもやさしい油圧機器です。実際に体感するとよく分かりますが、本当に動いているのかと耳を疑うほど、作動音が従来の油圧機器と比べて静かです。

低騒音で発熱量も少なく、働く環境が改善されるのは、社員にとっても大切なことです」。

現在、ダイナックスではカーボンニュートラル委員会を立ち上げ、さまざまな取り組みを推進しています。

自動車業界全体で加速する電動化技術の開発のほか、ガスで発電すると同時に排出ガスの排熱を利用するコージェネレーションシステムや、バイオマス発電の工場への導入なども進め、脱炭素社会の実現に向けて前進しています。

幅広い分野における油圧機器・システムの多彩なノウハウと実績をもつ川崎重工は、油圧機器の省エネルギー化とともに、さらなる低騒音化、メンテナンス性向上など多くの価値をお客さまに提供いたします。

さらに、サブスクリプションの導入など、従来の方法を覆す柔軟な発想で、技術だけでなくサービスにおいても変革を続けていきます。

これからも幅広いニーズに対応しながら、脱炭素社会の実現と産業の持続可能な発展に貢献していきます。

身近なエレベータから、建設、工業、農業、船舶まで
あらゆる分野で活躍する「油圧機器」

油圧とは、「パスカルの原理」を利用して油の圧力を発生させ、離れたところに大きな動力を伝達する仕組みです。

「パスカルの原理」は、「密閉した容器中の静止している液体の一部に加えた圧力は、液体内の全ての部分に同じ圧力で伝わる」という原理です。

下図のように、異なる断面積の二つのピストンを管でつなぎ、油を閉じ込めます。小さなピストンを一定の力で押すと閉じ込められた液体に圧力が生じて、大きなピストンの断面積に比例した力が得られ、小さな力で大きな力を得ることができるのです。

パスカルの原理

油圧機器を用いた機械・装置は、電動機やエンジンで油圧ポンプを回転させて、油圧ポンプが吐出した作動油でアクチュエータ(油圧モータや油圧シリンダなど)を動かし、仕事をします。

油圧機器が活躍する場面は多岐にわたり、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • エレベータ、立体駐車場
  • 建設機械(油圧ショベルなど)
  • 産業車両(フォークリフトなど)
  • 農業機械(トラクタなど)
  • 一般産業機械(製鉄機械、プレス機械、射出成形機など)
  • 発電設備、舶用機械(舵取機、甲板機)での駆動源として

油圧機器メーカーのうち、多様な機械・装置に油圧機器・システムを提供している企業の1つが、川崎重工です。特に油圧ショベル用の油圧ポンプ、油圧モータなどの製造で世界トップクラスの実績を誇り、お客さまから圧倒的な支持を獲得しています。

川崎重工の油圧機器展開は多岐にわたる
株式会社ダイナックス
製造本部 保全部
部長
後藤 潔人
株式会社ダイナックス
製造本部 保全部
千歳保全チーム
チーム長
安倍 睦博
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