コベルコ建機×川崎重工。油圧ポンプが広げる、未来の建設機械の可能性

公開日2023.04.14

皆さんは油圧機器をご存知でしょうか。油圧機器とはパスカルの原理(※1)に基づき、小さな力を集めて大きな力に変換する仕組みを利用した機器のこと。油圧機器は建設現場や工場で働く機械をはじめ、船舶や航空機に至るまで、巨大な機器には必ずと言っていいほど搭載され、その動きを制御し、社会で幅広く利用されています。川崎重工では、1924年の電動油圧舵取機の発売を皮切りに油圧機器事業を展開しています。事業を始めて約100年、各業界で省エネや労働力不足が叫ばれる時代になり、油圧機器に求められる役割も大きくなっています。現在も様々な社会課題の解決を縁の下で支える油圧機器の役割と、未来に向けた進化をご紹介します。

長きにわたる年月の中で進化を続ける油圧ポンプ

大きな力と精密な制御を可能とする油圧システムにおいて動力を生み出す役割を担うのが「油圧ポンプ」です。川崎重工は今からおよそ半世紀前の1968年に純国産油圧ショベル初号機用の油圧ポンプである「KVシリーズ」を発売しました。1981年には新モデルである「NVシリーズ」をリリース。ピストンの加工形状の変更や摺動面の素材開発、2つのポンプを直列に結合するアイデアの採用などにより高圧・高速・小型化を実現し、定格圧力は最終的に32MPa※2を達成しました。

1988年には新モデルである「K3Vシリーズ」を発表。部品点数を30%削減して価格競争力を強化することで、日本製の油圧ショベルが世界を席巻する原動力となりました。そして2014年、満を持して投入された最新モデルが「K7Vシリーズ」です。「K7Vシリーズ」では、ポンプの主要部品の設計を全面的に見直すことで、定格圧力35MPaを達成。従来のK3Vシリーズよりも高い効率を得ながら信頼性も向上させ、長寿命化を実現しています。

みかけこそ大きく変わりませんが、川崎重工の油圧ポンプはおよそ50年もの月日をかけながら着実に進化を遂げています。

※1:フランスの哲学者パスカルが証明した「密封した容器中の静止している液体の一部に加えた圧力は、液体内のすべての部分に 同じ圧力で伝わる」という原理

※2:定格圧力とは、油圧によって運転される装置の積載荷重を作用させて、連続して使用できる最高圧力のこと。その数値が高くなるほど、大きな力を出すことができ、効率よく仕事をすることが出来ます。それと同時に、負荷にも強く壊れにくいことを示しています

純国産ショベル初号機に搭載された、川崎重工の「KVシリーズ」

高効率・長寿命の油圧ポンプK7Vはいかにして実現したのか

油圧ポンプの開発において、エネルギー損失を抑える高効率化は長年の命題です。効率が上がれば省エネになり、CO削減につながります。加えて市場のグローバル化により、油圧ショベルは海外の過酷な環境で稼働する機会が増え、油圧ポンプにはより高い信頼性も求められるようになっています。

川崎重工では、ポンプ内部で生じる微小なエネルギー損失を高精度で予測計算するプログラムを開発し、部品の干渉や強度などの制約条件の中で効率が最大となるポイントを求めています。長寿命化については、例えばポンプの構造を支える「ハウジング」を厚くして頑丈にすることが考えられますが、ポンプ本体が大きくなれば建機に収まらなくなってしまいます。このトレードオフの関係性のなかで、いかにポンプの性能を上げていくか油圧ポンプ設計の腕の見せ所。シミュレーションツールを駆使し、大きさと性能の最適なバランスを求めて開発を行っています。

また、長寿命化の実現に向け、可動部品であるピストン・シリンダブロックや軸の設計がポイントになります。ピストン・シリンダブロックの設計では、マイクロメートル単位で接触部品に「逃げ」をつくり、点ではなく面で負荷を受ける形状にすることで破損リスクを低減しています。また、軸を太くすることにより遠心力による変形を抑え、内部部品の姿勢を安定させることで長寿命化に貢献しています。

長年の取り組みによる高効率化で、今や油圧ポンプの効率改善は乾いた雑巾を絞るようなものになっています。1988年に発売したK3Vでエネルギー効率が91%程度、26年後に発売したK7Vでは93~94%。数字だけでみれば30年弱で2~3ポイントの改善ですが、この「数パーセント」がユーザーにとっての価値であり、また、建機の環境負荷低減や、操作性の向上などに大きく貢献するのです。

そこにはこれまで積み上げてきた先人たちの叡智が結集されています。このようにして開発されたK7Vは、2030年カーボンニュートラル実現という目標を掲げる川崎重工の中で、製品自体の環境性能向上と生産過程での環境負荷低減の両面において特に優れた製品「Kawasakiエコロジカル・フロンティアズ」として認定・登録されています。

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長宗

開発当初から現在までK7Vの開発に携わるなかでいつも感じているのが、製品の開発は個人戦ではなく団体戦であるということです。設計部門だけでなく、製造部門から営業部門までみんなでどうすればよりよいものが作れるか、時には意見が衝突することもあります。しかし、いい製品を作りたい、お客様に喜んでもらいたいという思いは同じなので、会社として一体感を感じながらチームで成果を上げていくことが面白さであり、やりがいだと感じています。

「K7V」の模型を手に語る長宗さん。この模型は実寸比1/2.5のサイズで、実物は、質量145㎏、全長約70㎝になる

強固なパートナーシップで優れた製品を作り出す

油圧ポンプは単体では何の役割も果たせません。システムの一部として機能を担うことで、はじめて役割を果たすことができます。その意味で、建設機械メーカーとのパートナーシップは非常に重要なものとなります。

K7Vの開発において、共同開発のパートナーとなったのがコベルコ建機です。1968年に発表した油圧ポンプ製品第一号である「KVシリーズ」から川崎重工にとっての重要なパートナーであり、その後半世紀以上にわたって様々な製品を開発しながら強固なパートナーシップを築き上げてきました。川崎重工側の主な役割は、油圧ポンプ単体の開発と製品に組み込む際の細かな仕様に関する調整。一方、コベルコ建機側はショベルシステムの最適設計、油圧ポンプを搭載したショベルによる性能評価試験を実施します。そして、そのテストで顕在化した課題を両社の技術を用いて解決していきます。

油圧ポンプをショベル実機に組み込んで試験を行うことで、ポンプ単体では見えなかった課題が顕在化します。今回の共同開発において困難を極めたのがハンチング現象の解消です。ハンチング現象とは位置や速度が目標値の付近で安定せず変動してしまう現象のこと。ショベル実機での試験運転で低温時と高温時にショベルの動作が不安定になるという2パターンのハンチング現象が発生しました。

例えば、実機で生じる現象をポンプ単体で再現できるのかなど、原因究明と対策案を両社で協議し、高温時と低温時それぞれのハンチング現象を解決に導いていきました。機器設計とシステム設計双方の密なパートナーシップがあってこそ、今回の開発はうまくいったと、コベルコ建機の寺内さん・上田さんは開発当時を振り返ります。

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上田

私たちの製品の大きなアピールポイントが「省エネ性能」であり、その実現において重要になるのが、ショベルの心臓部である「油圧ポンプ」です。効率を向上させようとすると、様々な弊害が出てきます。そのトレードオフの部分について、開発期間の中でどのくらい解決できたかどうかが製品の優劣を左右します。今回も川崎重工には、多くの改善をリクエストしましたが、スピーディかつ的確に私たちの製品に合わせたチューニングをしてもらうことができ、大変心強かったです。

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寺内

今回の開発では耐久性についてかなり多くの要求をさせていただきました。ショベルにとってポンプは心臓です。エンジンが動いていようが、ポンプが壊れてしまうと、何の動作もできなくなってしまうだけではなく、壊れた部品が油に交じるため、油圧ポンプ周辺の部品を道連れに壊してしまいます。だからこそ一番壊れると困るパーツであり、その耐久性はマーケットの評価に影響を及ぼすため、私たちとしては新モデルが出るたびに、従来モデル以上の耐久性を目標に設定しています。現在のところ耐久性とともにコスト・スペックを高い次元で両立する油圧ポンプのベンダーさんは他におらず、結果的に川崎重工さんが当社の主要ベンダーとなっています。

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長宗

コベルコ建機さんのものづくりの姿勢として強く感じるのが「ユーザーの願いを叶えたい」という顧客第一の姿勢です。K7Vの開発においても、コベルコ建機さんは常にユーザー目線で、明確にあるべき姿を示してもらえました。今回の開発では自社製品をシステムの一部として捉え直すことができ、技術者として普段の仕事ではなかなか見えなかった部分を確認することができ、あらためてお客様の満足を得ることの大切さを学ぶことができました。

未来に向けて、建設機械と油圧機器が追い求める「こたえ」

現在、日本の土木・建設業界は数多くの課題を抱えています。まず一つ目が、環境問題への対応です。国内の産業部門のCO2排出量のうち1.4%が建設機械に起因しており、これは日本全体のCO2排出量の0.5%にあたります。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、より性能を高めた建設機械の実現が必要となります。コベルコ建機・川崎重工では油圧機器の開発だけでなく、機能拡張に対応可能な油圧機器システム開発や電動化、水素活用など様々な新技術との融合を視野に入れた取り組みを進めています。

また土木・建設業界においては働き手の減少や熟練オペレーターの高齢化などが課題となっており、それらを解決する手段として建設機械のスマート化も求められています。つまりは運転席に誰も乗らず、リモートや自動で工事現場において稼働するショベルの実現です。

コベルコ建機が開発を進める「K-DIVE」システムでは、自宅にいても工事現場の建機を操作することが可能
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上田

コベルコ建機はショベル関連において、ICT技術を積極的に取り入れ、快適に遠隔操作ができるシステム「K-DIVE」の開発に力を入れています。ICT施工や遠隔施工が可能になれば、工事の無駄も少なくなり、遠隔の現場や足元が悪い現場に人が行かなくても工事が実施可能となり、建設業界の可能性も大いに広がるはずです。技術の進展で環境問題や労働力不足など、建設業界が抱える様々な問題を解決するソリューションになると考えています。

コベルコ建機の久保さんは、女性の視点からも、「K-DIVE」の普及でより多くの人が建設業界で働けるようになると語ります。

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久保

この『K-DIVE』によって、コベルコ建機のビジネスは『モノ』から『コト』、つまり製品だけを供給するのではなく、製品を通じて課題解決を実現するものへと進化を遂げようとしています。今後、労働力人口が減っていく中で、現場に行かずに建設機器の操作ができるような技術を実現することで、建設業界は女性をはじめもっと多様な人々が働ける業界になるはずです。

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寺内

遠隔操作を実現しようとすれば、油圧機器にはこれまで以上に信頼性が求められます。さらに施工精度向上に向けては、指示通りの出力に油圧機器が制御できることが理想的です。私たちが目指すICT施工を実現するためにも、ロボットの分野でも高い技術を誇る川崎重工の油圧機器には、非常に期待を寄せています。

近い未来において必ずや求められる、建設機械の自動化や無人化、ICT/IoT技術との融合。それが実現すれば、建設業界の未来の景色が見えてきます。

その重要なパーツとなるのが、多様な技術を持つ川崎重工の総合力によって進化を遂げた、つぎの時代の油圧機器なのです。

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川崎重工業株式会社
精密機械・ロボットカンパニー
精密機械ディビジョン
ICT開発総括部
制御システム開発部
主事
長宗 和也
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コベルコ建機株式会社
技術開発本部 ゼロエミッション開発部
部長
豊橋技術科学大学 客員教授
寺内 謙一
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コベルコ建機株式会社
技術開発本部 システム・コンポーネント開発部
部長
上田 浩司
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コベルコ建機株式会社
グローバルプロダクションコントロール(GPC)部
機能部品グループ
久保 晴香

※文中に登場する数値・所属などは取材当時の情報です。

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