ANA×川崎重工の飛行機グッズに宿る技術のチカラと人々の想い

公開日2023.09.25

ANAと川崎重工がタッグを組み、実現したアップサイクルプロジェクト。1年半の準備期間を経て完成したのは、ボーイング737のエンジンブレードを使ったキーホルダーや、ボーイング767や777の胴体製造時に出る端材・余剰材を使ったパスケースにタブレットスタンド、名刺入れでした。私たちの日常に馴染みのあるアイテムばかりですが、見れば見るほど、触れれば触れるほど、独特の凄みを感じることができます。この小さな商品には、大空に翼を広げ数万海里を旅する巨大な航空機を作る技術が宿されているのです。
(この記事は「廃棄されるモノに新たな価値を。ANA×川崎重工が技術力で挑むアップサイクル」の続きです。)

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全日本空輸株式会社
整備センター 部品事業室
サプライチェーンマネジメント部
物流サポートチーム マネージャー
碇 浩司
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全日本空輸株式会社 
CX推進室業務推進部価値創造チーム リーダー
小島 一哲
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川崎重工 航空宇宙システムカンパニー 
航空宇宙生産本部 生産総括部 
部品生産技術部 部品技術一課 基幹職 
藤原 英世
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川崎重工株式会社
航空宇宙システムカンパニー
民間航空機ディビジョン 
民間航空機事業管理総括部
民間航空機事業管理部 民間機業務一課 基幹職
木村 隆史
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川崎重工株式会社
航空宇宙システムカンパニー
民間航空機ディビジョン 
民間航空機事業管理総括部
民間航空機事業管理部 民間機業務一課
橋本 由布子

ホンモノの航空機づくりの技術から生まれた商品

このプロジェクトを提案したANAの碇さんは、パスケースのリベット(鋲)部分を指してこう説明します。

航空機の機体は、空気抵抗を低減して燃費を向上するために凹凸をできる限り無くしています。こちらのパスケースも、触ってみるとよく分かりますが、アルミ合金の板面とリベットの頭が段差無くおさまって、完璧に平面に揃っているのです

ベニヤの板に釘を打ち込む様子を思い浮かべていただければ分かる通り、母材表面から釘の頭部を出さずにぴたりと収めるのは極めて難しいことです。少々の出っ張りを許すか、あるいは打ち込み過ぎて凹んでしまうか。完全にフラットな平面を実現するためには、高精度の加工技術が求められます。しかも素材が金属となれば、難易度はさらに上がります。「ツルツル」になるほどリベットの頭部と母材表面が綺麗にそろった造形は、航空機の部品づくりを生業にしている企業だからこそ成せる業なのです。川崎重工の藤原さんは語ります。

藤原

航空機の部品は何百万点にもおよび、川崎重工1社だけではできません。非常に多くのパートナー企業の協力があってはじめて航空機部品の製造ができています。今回の商品の製作にあたっても、普段から私たちとともに航空機の部品づくりを行っている仲間の協力が得られたというのは大変意味のあることなのです。

例えば、キーホルダーの材料となったエンジンブレードの加工には、ナベヤ製作所の高精度な3Dデジタル化技術や治工具製作や難削材加工で培った製造技術が。また、パスケースや名刺入れの製造には、軽合金・複合材などの部品加工から表面処理・塗装、そして機体組立までを一貫して行っている天龍エアロコンポーネントのノウハウが生かされています。

開発されたアップサイクル商品。左上から時計回りに、B767タブレットスタンド、B737エンジンブレードキーホルダー、B767/777名刺入れ、B767パスケース

碇さんと共にプロジェクトを率いた小島さんも続けます。

小島

ボーイング767の機体のリベットも人が手打ちでやっているということを聞きました。じゃあこの商品のリベットも同じ人が打ったのかも。そんな風に思うとなんだか感慨深いし、純粋に「すごいことだな」と思いました。

アップサイクルがもたらした、想定外の「効能」

川崎重工だけでなくその協力企業までもが、商品のアイデア出し段階から関わっていたというのも、今回のプロジェクトのユニークな点です。通常の仕事の進め方とは異なる今回のプロジェクトについて、川崎重工のメンバーはこう語ります。

木村

通常の仕事であれば、「図面の部品を図面通りに作ってください」とお願いするのですが、今回は「この材料を使って何か作ってみてください」とお願いすることになったわけです。普段とはまったく異なるアプローチに、強い興味を持って賛同していただいただけでなく、普段の仕事のモチベーションアップにもつながったという話も聞いています。

先述のリベット止め部分についても、フラットな面を作り出すための工夫について、天龍エアロコンポーネントからのアイデアも多数盛り込まれています。そうしたアイデアを出し合う中で、余剰材についての考え方も変わっていきました。

橋本

みなさん目を輝かせながらいろいろとアイデアを出してくださいました。それに、私自身も端材や余剰材を見る目が変わりました。あ、これも捨てずに使うことができるんじゃないか?と、今後の商品の可能性を模索するようになったのです。今回のプロジェクトは、商品だけでなく、私たち航空産業で働く人間の仕事にも付加価値を生んでいるのだと思います。

アップサイクル商品づくりを通して、環境問題へ貢献し、航空ファンを楽しませ、そして、航空産業そのもの、さらに航空産業を支える地域まで盛り上げたい。そんな思いから始まったプロジェクトは、自分たち自身が奮い立つきっかけにもなりました。

木村

基本的にB to Bのビジネスを行っている我々は、一般のお客さま向けの商品を取り扱うことはほとんどありません。図面通りのモノを正しく作る、という普段の仕事とは異なり、一般のお客さまが喜ぶものとは何かを考える、これまであまり意識していなかった視点で物事を考えるきっかけが生まれました。これは我々にとっての財産だったのかなと思います

橋本

今回の我々の活動を通じて、少しでも多くの方に川崎重工や協力会社が普段どんなモノを作っているのかということに興味を持っていただき、「おもしろそうなことをやっているな」と思ってもらえたら嬉しいです。これからもANAとのパートナーシップを強化していきながら、次の新しいことを目指していけたら、きっともっとおもしろくなるはずです。

次のフェーズについて、発起人の碇さんはすでに具体的な展望を描き始めています。

私たちは単なる交通機関としての役割だけでなく、移動する需要を喚起する、旅をしたくなる『仕掛け』を創りだし、交流人口の増加を目指したいと考えています。本商品が岐阜県の各務原市で製造されていることをきっかけに、当地を訪問する方が増えることを期待しています。また、次のフェーズとして、各務原に行かずとも各務原を感じていただける仕組みとして、本商品のふるさと納税返礼品での展開も構想しています。これからも、航空会社ならではの地方創生を目指し、さまざまな「仕掛け」を創っていきたいですね。

ANAと川崎重工が挑むアップサイクル事業は、モノを作る人、モノを使う人両方に多くの価値をもたらす可能性を秘めていました。彼らの挑戦はいま、まさに始まったばかりです。航空業界の立場を超えて創り上げた新しい翼は、これからもっと広い空に向けて羽ばたいていきます。

<商品再販決定のお知らせ>販売開始から即日でほぼ完売したアップサイクル商品の再販が決定しました。2023年9月29日(金)より「ANA mall」にて販売されます。詳細は「ANA mall」のサイトをご覧ください。

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