廃棄されるモノに新たな価値を。ANA×川崎重工が技術力で挑むアップサイクル

公開日2023.09.25

廃棄前の製品を使い、異なる製品として蘇らせる「アップサイクル」。リサイクル(再利用)やリユース(再使用)とは違い、新たな価値を与えることに重点を置いて再生することから、「創造的再利用」とも呼ばれています。その中でも今回、全日本空輸株式会社(ANA)と川崎重工はユニークなアップサイクルプロジェクトを敢行。航空機を「飛ばす」航空会社と「作る」重工メーカーがワンチームとなって作ったのは、飛行機づくりの技術を生かしたグッズの数々。そこに詰まっていたのは、サステナブルな商品で環境に貢献しようという精神と、航空ファンを喜ばせたいという思い、そして、コロナ禍からの再出発や地域創生まで広く大きな価値を創造しようという意志でした。

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全日本空輸株式会社
整備センター 部品事業室
サプライチェーンマネジメント部
物流サポートチーム マネージャー
碇 浩司
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全日本空輸株式会社 
CX推進室業務推進部価値創造チーム リーダー
小島 一哲
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川崎重工 航空宇宙システムカンパニー 
航空宇宙生産本部 生産総括部 
部品生産技術部 部品技術一課 基幹職 
藤原 英世

航空産業全体を再び盛り上げるために

2020年に端を発するコロナ禍は、航空業界へ大打撃を与えました。「いま自分たちに何か出来ることはないか」――パンデミックという未曾有の危機の中で高まった現場の気運から生まれたのが、今回のアップサイクルプロジェクトでした。

ANAはこれまでにも、本来廃棄されるはずだった木屑を利用した御朱印帳や、客室のシートカバーから作ったルームシューズといったアップサイクル商品を手掛けてきました。それらグッズの提案者であるANAの碇さんが次に作りたいと考えていたのは、「ファンを唸らせる商品」。

例えば、航空機の整備の際に取り外された部品を加工した商品であれば、マニア心がくすぐられるのではないか。そう考えましたが、それだけではすでに先例がありました。そこで、他とは違う、これまでにない付加価値を付けるために企画したのが、実際に航空機部品を作っているメーカーとの連携だったのです。

「30年使って寿命を迎えた機体を解体して、そこからアップサイクル商品を作るという例は昔からありました。でも、まさに今運用されているボーイング737や767、777といった“生きている“機体の一部であった部品を活用できれば、ファンの方も「これがあの飛行機の!」とさらに喜んでいただけるのではないかと思ったのです。くわえて、航空機部品を実際に作っている工場で、日頃航空機に関わる技術者に航空機の加工精度で加工してもらうことができれば、商品のクオリティが上がることはもちろん、航空ファンの方にもより喜んでいただけるのではないか。産業全体が盛り上がる試みにもなるだろう、と今回のプロジェクトを企画しました」

必要だったのは航空機づくりの技術

本プロジェクトの発足にあたり、碇さんが書いた企画書に躍っていたのは、「買って応援」の文字でした。碇さんと共にプロジェクトを牽引してきたANAの小島さんは、その企画書をはじめてみた当時のことをこう振り返ります。

小島

航空機の廃材や端材で作った商品を買って誰を応援するのだろう、と少し考えてしまいました。でも、すぐに分かりました。岐阜の航空機部品工場で作られたものを一般の方々に買っていただき、地元の活性化につなげましょうという意図なのだと。

今回のアップサイクル商品の実現に必要だったのは、航空機の素材を加工できる技術でした。となると、タッグを組むべきパートナーは、飛行機づくりの知見をもつ企業でなくてはなりません。そこでANAが声を掛けたのが川崎重工だったのです。

川崎重工の航空部門は、ボーイング767や777、787の分担製造を担っており、その拠点がある岐阜県には同社以外にも航空機部品を製造する企業がたくさん存在します。そういった現場の方々に協力してもらうことができれば、我々のアップサイクル商品を通して、その技術力を広く世の中に紹介することが可能になるわけです。背景にあったのは、日本の航空産業が誇る技術を、1人でも多くの方に伝え、興味や関心をもってもらいたいという思いでした。

地域の魅力的な特産品を多くの人が購入することでその産地を活気づけたい。今回のアップサイクル商品づくりを通じて、航空産業全体、特に宇宙分野も含めた日本の航空宇宙産業の一大拠点である岐阜県を元気にしたい。そうしたANAの思いがプロジェクトを推進する原動力となりました。

しかし、通常は機体メーカーをお客さまとして航空機部品の製造・納入を行っている川崎重工の航空宇宙部門にとって、一般消費者向けの商品を手掛けることははじめてのことでした。これまでにない相談を受けて、川崎重工の藤原さんは不安よりもワクワクを強く感じたと語ります。

藤原

顧客が設計した図面をもとに部品を製造するのが私たちの主な仕事ですから、商品アイデアの構想、そして製品化に向けた検討といったプロセスに携わるという点には新鮮味を感じました。私たちにとってはまったく新しい挑戦であり、いかにもおもしろそうな企画だと思いましたね。

ANAと川崎重工。2社に共通しているのが、自他を問わず柔軟にリソースを活用し、革新的なモノや価値を生み出すオープンイノベーションという考え方を強く推進していること。今回のアップサイクルプロジェクトも、思想の部分で共鳴したからこそ好発進を切ることができたようです。小島さんはこう説明します。

小島

ANAは航空機にまつわる各種部品の製造・修理を、国内外の企業に委託しています。ANAが自社で分解したエンジンの一部の部品修理を委託しており日常的に接点のある川崎重工は、『新たな価値を創造する社風』を肌で感じることが多く、弊社のワクワクで満たされる世界を目指すというビジョンと軌を一にすると考えました

航空ファンのために、コロナ禍から盛り返そうとしている航空産業のために、そして航空産業に携わる地域と人々のために。ANAと川崎重工の新しいプロジェクトが、いよいよ動き出したのです。

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