鋼鉄製の胴体に取り付けられたカッターが回転し、地中を掘り進むシールドマシン。発明から約200年もの歴史があり、現代では2台並べて掘り進む「H&V工法」も実用化されています。2013年から始まった東京・品川の立会川雨水放流管整備事業(東京都下水道局)では、世界で初めて「H&V工法によるスパイラル施工」を採用。その立役者は川崎重工でした。約1,400台のシールドマシンを送り出してきた川崎重工の確かな技術がまたひとつ、世界初をもたらしたのです。
H&V工法によるスパイラル施工を世界で初めて実現
鋼鉄製の胴体に取り付けられたカッターが回転し、地中を掘り進むシールドマシン。発明から約200年もの歴史があり、現代では2台並べて掘り進む「H&V工法」※も実用化されています。
2013年から始まった東京・品川の立会川雨水放流管整備事業(東京都下水道局)では、「H&V工法によるスパイラル施工」が世界で初めて採用されました。スパイラル施工とは、最初は横2列で進んでいたシールドマシンが、進む中でねじるように姿勢を変えて縦2列に変化する、もしくは縦2列から横2列に変化する工法です。今回のマシンでは横2列から縦2列に変化させて掘進しました。土を掘るマシンの外径は5.85m、マシン1台の重さは約400t。これだけ巨大なマシン2台が、わずか9cmの距離を維持したままスパイラル施工を行って、しかも川の蛇行に合わせて掘り進んだのです。
成功のポイントは、2台の後胴部分をピンでつないだ「揺動部」。従来は剛結していましたが、ピン接合にすることで自由に動ける「余裕」が生まれ、螺旋状の動きが可能になります。
川崎重工は、これまでに約1,400台のシールドマシンを送り出してきました。英仏ドーバー海峡鉄道トンネルの掘削では、米国土木学会による「20世紀最大の10大プロジェクト」の「鉄道部門」に選定されています。その確かな技術がまたひとつ、世界初をもたらしたのです。
※H&V:Horizontal(水平) & Vertical(垂直)
Kawasakiの技!スパイラルを可能にした「ピン接合」の揺動部
今回のマシンでは、右側のマシンが斜め左上に掘進することで、2台のマシン姿勢が徐々にねじれて横2列から縦2列へ変化します。マシンが3.9度中折れし、かつ3次元的に動くため、特殊なピン接合の揺動部構造が不可欠でした。横2列で立坑から発進したマシンは、約137mにわたってスパイラル施工を行い、縦2列へと姿勢を変えてその後の約600mを掘削しました。
カッター
マシンが掘る場所の地質や固さに合わせて、面板の形や地山を削るカッターの形状が設計されます。カッターには超硬チップの刃が埋め込まれており、まさに現場の地質や固さ、圧力を物語るモニュメントです。
シールドジャッキ
シールド工法では掘り進むのと同時に、後胴で「セグメント」と呼ばれるトンネルの外壁となる構造物を組み立てていきます。組み立てられたセグメントに力をかけ、マシンを前へと押し出すのがシールドジャッキです。
旋回ベアリング
カッター駆動用モータの力をカッターヘッドに回転可能に伝達します。
中折れジャッキ
マシンの前胴部を曲げることでカーブしたトンネルを掘削しやすくします。
作業台
マシンの胴内に設けられた作業台では、セグメントの組立作業などを行います。スパイラル途中でマシンが回転している間も足場が水平を保てるよう、90度まで随時回転します。
カッター駆動用電動モータ
立会川雨水放流管工事用シールドマシンには、6つの減速機付きカッター駆動用モータが設けられています。このモータでカッターを1分間に0.82回転させます。
送泥管と排泥管
前胴部前面には隔壁があります(密閉式)。泥水式シールド工法では、地上プラントで調整された泥水をチャンバー部に送り出し(送泥)、地山の土水圧に対抗させて地山を安定化して掘削します。掘削された土砂は、マシン後方の台車に搭載しているポンプによって吸い上げられて地上へと排出されます(排泥)。
都市の制約に対応した難工事
立会川の下に直径5mの放流管を2本作る立会川雨水放流管整備事業の工事区間は、全長約778m。放流管は、 立会川に放流されてきた雨水を取り込んで周辺エリアの浸水被害を防いだり、合流式下水道から流入する汚水による河川の水質悪化を防ぐために設置されます。発進立坑付近には運河の護岸杭があり、その下をくぐり抜ける必要がありますが、立会川の下を掘進する際は約8mの川幅からはみ出さないことが求められました。多くの制約が伴う難工事でしたが、スパイラル施工を可能にする川崎重工のシールドマシンと清水建設の綿密な施工管理により、2018年3月から始まった掘進は、2019年7月に完了しました。
エネルギー・環境プラントカンパニー
品質保証本部
プラント品質保証部 品証三課
基幹職
(元プロジェクトマネージャー)
エネルギー・環境プラントカンパニー
産機プラント総括部
土木機械部
設計一課