実証段階を迎えた“Hydrogen Road" 〜水素社会への2nd Step〜

公開日2018.07.31

川崎重工が掲げる、水素エネルギーチェーンの「つくる・はこぶ・ためる・つかう」という4つのフェーズの構想が、今、各領域で確実に進展をみせています。
また、同時に水素エネルギーの実用化を目指す国内外のコンセンサスは広がりと深さを増してきました。

世界が水素の活用に向けて動き出した

世界が水素の活用に本格的に動き出したと断言してよいでしょう。2017年1月、エネルギーや運輸、製造の世界的なリーディングカンパニー13社が、水素エネルギーの実現に向けた理念と長期目標を共有するグローバル・イニシアチブ「Hydrogen Council(水素協議会)」を発足させました。

参加企業は、川崎重工、トヨタ自動車株式会社、本田技研工業株式会社、岩谷産業株式会社をはじめとする日本メーカーの他、エア・リキード(仏)、アルストーム(仏)、アングロ・アメリカン(英)、BMWグループ(独)、ロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭)などです。

同年11月、水素協議会は、世界初となる水素利用の具体的な調査報告書を公表しました。2050年までにエネルギー消費量の5分の1を水素が担うようになり、CO2排出量を年間約60億トン削減。この量は地球温暖化対策に必要なCO2削減量の約20%に相当し、温暖化を+2℃までに抑えることに貢献できると試算しています。また2.5兆ドルに相当するビジネスと、3,000万人以上の雇用を生み出す可能性も示しました。2018年3月には新たに3M(米)、ボッシュ(独)など11社も協議会に加盟しました。

グローバル企業が動き出したHydrogen Councilの設立 出所 : Hydrogen Council

さらにアメリカやEUでは独自の戦略づくりが進み、世界最大級のCO2排出国である中国でも、水素エネルギーの活用を含めた自動車開発を国家戦略にするなど、世界的規模での水素エネルギー推進体制が整ってきています。

日本国内では2017年12月、政府によって「水素基本戦略」が決定されました。水素エネルギーは再生可能エネルギーと並ぶ将来エネルギーと位置づけられ、取り組み目標も提示されました。

ここで掲げられたのは、①燃料電池自動車・バスと水素ステーションの普及促進②年間1,000万t程度(発電容量で約3,000万kW)の水素燃料の調達を目指す、③安価な原料である褐炭や海外の再生可能エネルギーの積極利用と、そのための国際的な水素サプライチェーンの開発、などです。

シミュレーションによる将来のエネルギー需要(エネルギー総合工学研究所による試算)

技術開発を主導するHySTRA

水素を巡る技術開発は、基本戦略の決定を先取りする形で進んでいます。2016年2月には、水素製造、輸送・貯蔵、利用からなるサプライチェーンを構築し、2030年頃の商用化を目指す技術研究組合「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA=ハイストラ)」が発足しました。

参加するのは川崎重工、岩谷産業、シェルジャパン株式会社、J-POWERの4社。HySTRAは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の水素サプライチェーン構築実証事業の実施主体となります。

HySTRAにおいて4社はそれぞれ次のような役割を担っています。①J-POWER=オーストラリア・ビクトリア州での褐炭を原料とする水素製造技術の構築、②川崎重工とシェルジャパン=液化水素運搬船の建造と運航技術の確立、③川崎重工と岩谷産業=液化水素荷役基地の建設と運用技術の確立。

オーストラリア政府とビクトリア州政府は、NEDOの実証事業と協調して水素製造設備や液化設備、荷役基地の建設を助勢する形で、水素サプライチェーンの一角を担います。

HySTRAの事務局であり、各種の技術開発をリードするだけでなく、オーストラリア政府との調整にも尽力しているのが川崎重工です。1970年代初頭から地道に続けられてきた極低温および水素関連の技術開発を、社会への貢献へと結びつける新たなステップに入っています。

世界初の調査が示した水素2030ビジョン

水素エネルギーのグローバル・イニシアチブである「Hydrogen Council」は2017年11月、マッキンゼー社と共同して世界初の水素利用の調査報告書をまとめ、公表しました。そこで示された導入ビジョンが下図です。2030年に発電・輸送およびビルの熱利用からエネルギー利用が立ち上がります。2050年に現在の10倍の市場に拡大し、産業熱利用や原料にまで用途が広がると予測されています。

川崎重工業株式会社
技術開発本部 水素チェーン開発センター
副センター長
西村 元彦

技術の独り歩きを戒め、社会と強調して「水素文化」を育てる

2009年に川崎重工が水素エネルギーの可能性に注目して研究を始めた頃、水素がクリーンエネルギーの本命になることを予想した人はごくわずかでした。実は、ほんの数年前までそうだったのです。しかし今や、世界の水素を見る目は期待に満ちています。多くの国の政府、世界をリードする企業、NPO団体などが水素エネルギーの可能性について検討を本格化させ、「世界中が水素へ」という流れが創生されました。

水素技術の世界はよく「仲間の多い世界」と言われます。一部のメジャープレーヤーが独占的に主導権を握るのではなく、多くの人々や企業が、それぞれの役割・立場で利用方法検討や技術開発に取り組むことができるからです。そして、この水素エネルギーの流れを牽引し続けてきた川崎重工は、水素の未来に誰よりも深い確信を持ち続けており、リード役であるとの自負もあります。

世界の水素への期待が高まると同時に、いくつかの技術が実証実験の段階を迎えるようになりました。かつてはひとつのコンセプトにすぎなかったものが、具体的な姿を現し始めているのです。私は「水素世界の仲間の一員」としてこの動きを大歓迎しており、「もっと早くいろいろなことを進めたい」と気持ちがはやっています。

しかし、多くの人たちが開発に参画して技術の実証が進むと、産業としては競争が激しくなり、技術を巡る安全要求が高度化し、人との関わりでより深い工夫が必要になります。私たちは技術が独り歩きをするのではなく、社会と歩調を合わせながら水素エネルギーを実用化するためのコンセンサスづくり、言葉を換えれば「水素文化づくり」に力を注がなければなりません。

そういった意味で、世界のシンクタンクから水素エネルギーについての可能性調査や環境性能についての比較指標などが編み出され始めたことは、水素への取り組みに多様性や深さ、広がりを与えるものになるでしょう。また、オーストラリアでの水素製造や、ポートアイランドでの水素ガスタービンによるコージェネレーションの技術実証などは、環境問題だけでなく雇用や地域創生、生活の快適さといった「人・エネルギー・技術の総合的な関わり」について多くの教訓を与えてくれるでしょう。

川崎重工はHySTRA参画各社と協力し、まずは20年にパイロット実証を通して水素エネルギーのサプライチェーンの稼働を目指しています。そして2030年を商用化の目標年として「水素文化」を育て、醸成に向けて努力を続けていく覚悟です。

この記事をシェアする