日本で最も巨大な液化水素タンク。 -253℃を維持し続ける、その難しさ

公開日2017.02.01

種子島宇宙センター内にある液化水素貯蔵供給所には、打ち上げの数時間前まで、ロケットの燃料である液化水素が貯蔵されています。しかし、液化水素を蒸発させずに液体の状態で長期間貯蔵するには、-253℃という極低温状態を維持しなければなりません。ロケットの打ち上げを支える、川崎重工の技術について、川崎重工 プラント・環境カンパニー 低温貯槽プラント総括部の佐藤 裕人に聞きました。

ロケットの燃料を貯蔵する液化水素タンク

ロケットの燃料である液化水素(LH2)を種子島宇宙センター内で貯蔵・供給する設備、LHS(液化水素貯蔵供給所:Liquid Hydrogen Storage)。その中にある液化水素タンクは、国内最大規模の大きさを誇っています。ロケット打上げの数週間前にコンテナ(タンクローリー)へ積み込まれ、陸路と海路を経由し輸送されてきた液化水素は、ロケットに充填される打上げの数時間前まで、このタンク内で貯蔵されます。しかし、液化水素を蒸発させずに液体の状態で長期間貯蔵するのは至難の技です。打上げに必要となる膨大な量の液化水素を、蒸発を抑えて貯蔵する技術。そこには川崎重工業ならではの技術力が活かされています。

膨大な量の液化水素を、-253℃で貯蔵する技術

佐藤 「我々、川崎重工業は、VABの他、種子島宇宙センター内の様々な設備の運用を担っています。設備を開発するだけでなく運用面までフォローしているというのは、川崎重工業としても珍しい事例ではないでしょうか。その中でも、運用にあたって設計時に特に高い技術力とノウハウを求められたのが、この液化水素タンクです。水素を液体の状態で保持するためには-253℃という、極低温で貯蔵する技術が必要となります。しかし、この膨大な量の液化水素を常に冷却すると運用コストが増大してしまいます。そのため、いわば巨大な魔法瓶のような保冷構造を持つ設計を行いました。つまり液化水素を受け入れた直後から、温度上昇を抑えて貯蔵しつづけるということです。それを可能にする技術こそが、川崎重工業が誇る低温貯槽の断熱保冷技術なのです」。

蒸発率の低減を実現した断熱保冷性能

LHSに設置された液化水素タンクの特筆すべき能力は、その断熱保冷性能にあります。水素を液体で保持するためには-253℃という極低温状態を維持しなければなりませんが、通常の容器に液化水素を充填すると水素は急速に蒸発してしまいます。そして、蒸発した水素はタンク内の圧力上昇を防ぐため、大気中へ放出させるしかありません。そのようなロスを限りなく低減させることができた理由が、タンクの設計にありました。外見からはわかりませんが、タンクは2重構造になっており、その外槽と内槽の間は真空状態が維持されています。そして、その空間にはパーライト断熱材が充填されているのです。この2つの工夫により、外部からの入熱が内槽まではほとんど伝達しない設計が施されています。また、2重構造のタンクを建造するためには、内槽を外槽から支持する構造が必要となりますが、外部からの入熱はこの支持構造からも伝導し、その入熱が大きすぎると蒸発率は高まってしまいます。そのため、熱伝導面積が最小限となるよう考慮して支持形状や配置を決定しています。これらの技術を集約した結果、当初の設計計画値以下の蒸発率を達成することができたのです。

30年が経過しても、劣化は見られず

佐藤 「この液化水素タンクは1987年に建造されてからずっと運用されていますが、断熱保冷性能は未だに全く劣化していません。約30年が経過して尚、この能力を維持していることは本当に凄いことです。先人たちへの感謝と共に尊敬の念を感じずにはいられません。外部からの熱伝達や熱伝導を低減する構造設計、長期間真空を維持する高度な溶接等の製造技術を駆使して、この液化水素タンクは作られました。液化水素の蒸発率も当時から変わっておらず、今も安定した運用が行われています。この大きさでこの能力。しかも何十年にも渡って性能を維持できるというのは世界トップレベルの技術だと思います。そうした高い技術を先人から受け継ぎつつ、これからは自分が新しい技術を生み出していくのが目標です。そして、いつまでもお客様に喜んでもらえる製品を作り続けていきたいと思っています」。

05_sato.jpg
川崎重工業株式会社
プラント・環境カンパニー
低温貯槽プラント総括部
低温貯槽プラント部 設計二課
佐藤 裕人

新着記事

ランキング

  • 1
  • 2
  • 3
この記事をシェアする

ニュースレター

ANSWERS から最新情報をお届けします。ぜひご登録ください。