H3ロケット用フェアリング

公開日2021.08.06

2021年度中に試験機1号機の打ち上げが予定されている次世代の大型ロケット「H3ロケット」。ロケットの先端部にあり、搭載されている衛星を打ち上げる際の大きな音響や振動、大気中を飛行する際に生じる空力加熱などから守っている「フェアリング」を、川崎重工が供給しています。国産ロケットの進化の一翼を担う、技術力に迫ります。

衛星を守り、着実に宇宙空間に届ける

2021年度中の試験機1号機の打ち上げが予定されている次世代の大型ロケット「H3ロケット」。現在運用中のH-ⅡAロケットの後継機であり、より使いやすい衛星の打ち上げロケットとして「柔軟性」「高信頼性」「低価格性」の3つの要素を実現しています。

ロケットの先端部にあり、搭載されている衛星を打ち上げる際の大きな音響や振動、大気中を飛行する際に生じる空力加熱などから守っているのが「フェアリング」です。川崎重工は、1984年に当時の宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)からH-Ⅱ用フェアリングの開発を受託し、大型ロケット用フェアリングの国産化に成功。以後、大型ロケット用フェアリングでは国内唯一の供給メーカーとして日本のロケット開発と衛星保護をリードしてきました。H3ロケットでも供給を担い、毎年6機程度と見込まれる打ち上げを安定して支えています。

フェアリングには、①衛星環境(温湿度)を維持するための空調ドアの装備、②大音響や振動から衛星を守るための吸音材、③衛星を熱から守る断熱材、④宇宙空間に到達し、役目を終えた後に、自身を投棄するための分離機構などの基本的な技術要素があります。その上で、H3ロケット用では、構造体へのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の大幅な採用やコンポーネントの共通化など、柔軟で信頼性が高く、それでいてコスト削減効果が大きい新技術が開発され、国産ロケットの進化の一翼を担っています。

H3ロケットとは?

2021年度以降の20年間を見据え、日本が宇宙への輸送手段を確保するだけでなく、商業用衛星の打ち上げビジネスにおいても競争優位を確保できるように、大型液体ロケットエンジン(LE-9)などが新しく開発されました。

©JAXA
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Kawasakiの技① 自動積層装置(AFP)の導入と「OoA」接着技術の実用化

先端が2重曲面を持つオジャイブ形状に対応しつつ、コスト比率が大きなフェアリングの構体パネルの製作費を低減しているのがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の活用です。

H3ロケット用フェアリングでは、蜂の巣のようなアルミのハニカムコアの上にCFRPを自動的に積層する方法を採用。さらに縦の結合部もボルト/ナットではなく、CFRPでつくった板と接着剤でつなぎ合わせるという技術も開発しました。

CFRPを成形するオートクレーブ成形を行わないことから、「脱オートクレーブ(Out of Autoclave=OoA)方式」と呼ばれます。

Kawasakiの技② 大小の衛星に対応するコンポーネントの共通化

H3ロケットもH-ⅡAと同様に、大小の衛星を多様な軌道に投入できる柔軟性が求められます。そこで大小2つのフェアリングを提案。ロング(標準)形態の下部を外すとショート形態になるコンポーネントの共通化で、開発費用を抑えた生産を可能にしました。ちなみに下部の高さは約6mほど。

Kawasakiの技③ 技術の要となる分離機構

フェアリングの中で最も技術的な難易度が高いのが分離機構です。機体パネルを結合する構造要素であるため、空力荷重に耐える強度を有する一方、衛星に与える衝撃を小さくする(=分離時のエネルギーを小さくする)ため、強度を低く抑えるという相反する課題を解消しなければなりません。

川崎重工は、戦闘機の操縦席窓(キャノピー)の緊急分離装置に使われていた「ノッチ付ボルト(フランジブルボルト)方式」をベースに、日本独自の分離機構を開発。新機種にも適用できる信頼性の高い分離機構を実現しました。

分離の仕組み

防音ブランケット

エンジンや大気との干渉で生じる音響振動を下げるため、フェアリングの内面には、ガラスウールや発泡樹脂でできた防音ブランケット(吸音材)を貼り付けています。ブランケットは、衛星搭載空間の清浄度を確保するためにフィルタ付きのカバーで包まれています。

※画像はイメージです

断熱材

空力加熱による構体の温度上昇を防いで衛星周囲の温度を適切に保つため、フェアリングの外表面に貼られているのが断熱材です。軽量で断熱効果の高いシリコーンフォームが用いられており、フェアリングの表面が約300℃以上にもなる厳しい環境から衛星を保護しています。

電波透過窓

衛星が地上設備と通信するための窓です。

衛星搭載アダプタ

衛星を搭載する装置です。

空調ドア

打ち上げまで地上設備からフェアリング内に清浄な空気を取り込みます。

アクセスドア

衛星クルーが整備に使うドアです。

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川崎重工業株式会社
航空宇宙システムカンパニー
航空宇宙ディビジョン
防衛宇宙プロジェクト総括部
宇宙システム設計部
宇宙輸送機器設計課
基幹職
佐藤 一寿
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川崎重工業株式会社
航空宇宙システムカンパニー
航空宇宙ディビジョン
防衛宇宙プロジェクト総括部
宇宙システム設計部
宇宙輸送機器設計課
宮崎 卓真

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