水や熱媒を加熱して蒸気を発生させるボイラは、多くの産業においてもはや無くてはならない存在です。だからこそ、その性能の向上が環境やものづくりの発展に与える影響は計り知れません。1880年以来長年ボイラづくりに携わってきた川崎重工が、製油所向けに満を持して開発した大型ボイラ、「川崎VF型ボイラ(U-KACC)」。従来ボイラの約2倍の環境性能を実現した逆転の発想をご紹介します。
ボイラの常識を変える
水や熱媒を加熱して蒸気を発生させるボイラ。蒸気は工場のプロセス蒸気に使われたり、発電機などのエネルギー源として活用されています。ボイラの大きさは、高温・高圧の蒸気の蒸発量で測られ、大型のものでは毎時3,000tにも達します。
川崎重工のボイラの歴史は1880年に始まります。火焚きボイラは、これまで中・小型の一般産業向けを中心として約1,000缶の納入実績を持っています。蒸気を消費する設備からもたらされる蒸気圧力の変動を吸収できる安定性や、石炭を燃料にする場合であれば産炭地の違いに対応できる汎用性、そしてなによりも故障が少ないことなどが安全・安定運転を実現し、高い評価を得ています。
そして現在、川崎重工のボイラ技術者たちが満を持して取り組んでいるのが、2017年に製油所の蒸気供給と発電用ボイラとして引き渡し予定の「川崎VF型ボイラ(U-KACC)」の製造です。「カワサキ・アドバンスト・クリーンコンバッション(KACC)」シリーズの4号機で、蒸発量は毎時295t。これまでのシリーズ機とは発想を逆転した技術革新が盛り込まれています。それは燃料として重油ではなく、石油精製でもうこれ以上は精製できない難燃性の残渣であるアスファルトピッチを使うためです。燃料コストも安く、化石燃料を無駄なく使いきる最先端ボイラなのです。
そもそもKACCシリーズは、従来の低NOx燃焼方式のボイラに比べてNOxを3~5割、煤塵を6割も削減できます。U-KACCでは、この優れた環境性能に加え、各種の腐食を徹底的に防止する多くの技術が組み込まれています。それだけ安全で長寿命の運用ができるのです。
Kawasakiの技!密着二重菅の使用
U-KACCでは、高温還元領域での高温に伴う硫化還元 腐食を抑制するために、水冷壁管に密着二重管を採用しています。内層には強度のある炭素鋼、外層に腐食に 強いステンレス鋼を用いることで、腐食を防止しています。
密着二重管同士の溶接は高いレベルが要求されるため、密着二重管水冷壁パネルの製造は、川崎重工播磨工場が担っています。
低NOx、低煤塵燃焼を実現するKACCの発想
従来型の低NOxボイラと比べ、NOx3〜5割減、煤塵(ばいじん)を6割カット!
高温還元ゾーン(上部燃焼室)
燃焼のために必要な空気(酸素)を十分に入れないゾーン。燃料中のN分は一度N系中間生成物(NO、HCNなど)になったあと、NOは残りの中間生成物から酸素を奪われてN2になるため、NOxの発生を抑制します。
燃料中の炭素(C)は、高温のためガス化します。
低温酸化ゾーン(下部燃焼室)
空気(酸素)を十分に入れて燃焼。二段燃焼空気の投入により、低温酸化燃焼させます。低温燃焼のため、NOxの発生を抑制できます。
ガス化した炭素を燃やしつくし、煤塵の原因となる未燃の炭素の発生を抑制します。
耐火材
高温還元領域の内壁に貼られています。
ノーズ
高温還元領域と低温酸化領域を仕切るくびれ。排ガスの自由な往来を制限し、高温域と低温域を分けています。
ドラム
水と蒸気を分離します。
水冷式バーナ
パウダー状のアスファルトピッチが付着するのを防ぎ、安定して燃やすバーナ。
灰分離と灰の回収
低温酸化領域の反転流で排ガスから分離された灰が排出口に落ちます。
第2煙道
空洞の煙道を備えているのもU-KACCの大きな特徴。火炉からの排ガスはU字型に反転し、灰を分離させてから第2煙道を上昇し、ガス温度を適度に低下させます。過熱器で発生する高温腐食を抑制するためのアイデアです。
過熱器
蒸気を過熱するSH(スーパーヒーター)は三段階。各SH間には、注水式の蒸気温度調整装置(過熱低減器)を設置し、ボイラ出口の蒸気温度を一定に保つように制御します。
ボイラは腐食との戦い
ボイラは、燃料を高温で燃やし、高温の排ガスで水を加熱して蒸気を発生させます。燃料に含まれる硫黄分や腐食性重金属により、ボイラの内部では硫化還元腐食やバナジウム灰による高温腐食などさまざまな腐食現象や灰付着が発生。これをいかに抑制(制御)するかがボイラの安全・安定運転を左右します。
U-KACCには、考え抜かれた腐食対策及び灰付着防止対策が、ボイラ全体に数多く施されているのです。
プラント・環境カンパニー
エネルギープラント総括部
ボイラ設計部 設計一課
課長
プラント・環境カンパニー
エネルギープラント総括部
ボイラ設計部 設計一課