川崎重工には、社内で新規事業を公募する「ビジネスアイディアチャレンジ」制度があります。社内ベンチャーを育てていくために、どんな工夫・支援を行っているのか。イノベーション部のメンバーに聞きました。
企画本部 イノベーション部
主事
船へのあこがれから川崎造船へ入社。船舶の設計などを経て、2017年からイノベーション部。ビジネスアイディアチャレンジの運営はもちろん、社外との交流によりイノベーションを生み出す試みなど、幅広い施策を検討中。
企画本部 イノベーション部
主事
小さい頃から持っていた宇宙へのあこがれを仕事にするため、川崎重工へ入社。ロケットフェアリングの熱設計、新規事業創出活動などを経験後、現在はイノベーション部所属。ビジネスアイディアチャレンジをはじめ、新たな価値の創造に向けオープンイノベーションを推進する活動を行っている。
企画本部 イノベーション部
部長
FA・ロボット、産機・鉄構、車両、モータサイクル&エンジンなど多様な新事業、新製品の立ち上げおよび営業に携わった後、イノベーション部へ。
既存事業の枠にとらわれない、新しいチャレンジを探せ
川崎重工が社内ベンチャーを支援する制度として「ビジネスアイディアチャレンジ」を開始した背景を教えてください。
市場環境・顧客ニーズの急速な変化に対応するため、既存事業と新規事業を両輪で回していくことが、これからの経営には必要だと考えたのがスタートです。創立125周年を迎えた川崎重工は、船舶や航空機、鉄道車両など、参入障壁が高い事業を行っている企業です。だからこそ、既存事業、つまり自分たちが得意とする分野に集中することがこれまでは重要でした。一方で、自社の資源・技術だけで製品を作ろうとする自前主義からの脱却や、事業領域が異なるカンパニー間の連携などが課題となっていました。
既存事業を発展させることはもちろん大切ですが、もっと新たな分野へのチャレンジや所属部門の事業にとらわれない姿勢、また、社外パートナーとの協業などにより可能性を拡げることも大事にしたい。そういった考えに基づいた制度として生まれたのが、ビジネスアイディアチャレンジです。
社内には、自分のアイディアを形にしてみたいと志をもつ人はきっといるはずだと考えていました。そのような人たちの志に大きな期待を寄せています。まずは、社内ベンチャーとして事業を運営し、ゆくゆくは川崎重工から独立することも実現したいと考えています。実際にアイディアを募り始めたのは、2020年4月から。それまでにも部門ごとの新規事業の立案プロジェクトや研修などはありましたが、全社横断で推進するために、本社のイノベーション部が主導して開始しました。
ビジネスアイディアチャレンジとは?
オープンイノベーション活動のさらなる加速や、社内に眠っている事業アイディアの発掘・活用を目的として、川崎重工が2020年4月に開始した制度です。市場環境・顧客ニーズの急速な変化に対応するため、既存の製品・事業にとらわれないアイディアを広く募り、応募者自身や川崎重工の強みを活用するとともに、必要に応じてスタートアップや大 手企業など他社との連携も図ることで多様な製品・事業を生み出します。企画と検証を短期間で繰り返す機動的な手法(アジャイル型)により、効率的かつスピーディーに新たな価値を創出します。また、人財育成を目的としてビジネスモデルの創出に必要な財務会計や経営戦略などの教育をビジネスアイディア応募者に対して実施し、企業としての持続的な成長を目指します。
制度の運用にあたり、工夫したことはありますか?
質の高いアイディアを集め、事業化につなげるために、大きくふたつの工夫をしました。
まず、アイディアを事業化できる可能性が高いことを訴求しました。具体的には、応募してもらったアイディアは常時スピーディーに審査を行い、実現可能性が判断できればすぐにでもプロジェクトを始動。実際に予算もつけてチャレンジしてもらいます。「本当にできるんだ」と受け止めてもらうことが狙いです。
ふたつ目は、所属部門にとらわれないチャレンジができる点を意識しています。たとえば業務の中で何かアイディアをひらめいたとしても、担当部門が管轄していないビジネス領域の場合は実現が難しいかもしれませんし、既存事業には役に立たないことのように見えてしまうかもしれません。そのため、既存事業や通常業務とは切り離し、イノベーション部が独立した形でアイディアの募集から具現化判断までの運営を一貫して行っています。個人の部署・部門にとらわれない、想いやアイディアの受け皿として、ビジネスアイディアチャレンジを活用してもらえたらいいですよね。
新しいことは、1人ではできない。だからこそ、イノベーション部がいる
みなさんから積極的に応募してもらうため、どのような工夫をされていますか?
入口のハードルを下げようと意識しています。いつでも、何でも、誰でも、ビジネスのアイディアを応募できるのがポイントです。期間限定で指定のテーマを設けることもありますが、基本的に、テーマは自由。川崎重工でやるべきだと考えるアイディアならば、いつでもイントラネットから応募ができます。
最初はどうしても通常業務と並行するので、困難が伴いますよね。
社長直々に、「新規事業立案を積極的にやろう」と社内へメッセージを発信しています。トップの前向きなメッセージがあれば、マネジメント層も現場社員も前向きにチャレンジすることができます。積極的にチャレンジしよう、あるいは周りも、チャレンジする人を応援しようといった雰囲気の醸成につながっているのではないでしょうか。
アイディアを応募したのち、プロジェクトとして動き始めると、どのようなサポートを受けられるのでしょうか。
イノベーション部は、社内外のネットワークの仲介役となることに特に力を入れています。何かアイディアを実現したい人がいたときに、例えば社内に関連事業の経験者がいれば連絡をとったり、社外の協力会社さんを紹介したり。一人きりで事業を作ってもらうのではなく、誰かに聞いたり協力してもらうのが大事です。その助けとなるものは、社内外にまだまだ眠っています。そのようなアセットを活用できるよう、私たちもサポートしていきたいと思います。
2年間で届いたアイディアは約300件。これからは事業とともに、人の成長を
2020年に開始されたビジネスアイディアチャレンジですが、現在どのような成果を見せていますか?
現在(2022年3月)までの応募総数は293件となっており、多くの従業員が参加してくれています。「ヘリコプターWeb手配サービス」や電動三輪ビークル「noslisu」、屋内位置情報サービス「iPNT-KTM」のように、実用化目前のものもあるんですよ。
今後、どのようなことを目指しているか教えてください。
ここから多くの社内ベンチャーが生まれてくれたら、という想いが強くあります。一方で、人財育成や、失敗を恐れず挑戦する企業文化の醸成にも期待が持てるのではないでしょうか。たとえばビジネスアイディアチャレンジを経験したことによって、通常業務とは異なる学びはたくさん得られるはず です。これまで技術者として技術とだけ向き合っていた人が、新規事業を考える過程でファイナンスについて学ぶことができるかもしれない。いつもは社内の人としか接しない研究職の方が、新規事業立案にあたりユーザーインタビューを自ら行えば、新鮮な意見に気づけるかもしれない。ビジネスアイディアチャレンジへ挑戦する志の高い人同士のつながりができれば、そこでまた新たなシナジーが生まれるかもしれません。学ぶ姿勢や新たな事業に関心のある人財が育ってくれたらいいと思います。そして、そうやってチャレンジしよう、チャレンジはいいものだ、と思ってもらう社内の空気、カルチャーへと育ってくれたらいいでしょう。
これから多くの人と事業が育つこと、楽しみですね。
社内ベンチャーとして一定の成果を出したのちは、川崎重工からカーブアウト、スピンアウトして独立するぐらいの気概で取り組んでほしい。「社内起業家になりませんか?」と呼びかけるような姿勢でやっています。また、新たなビジネスを作るなんて難しそうだと感じる方がいるかもしれませんが 、当社が持つ幅広い知見、技術、人などのリソースを活用できるので、全くゼロからということにはなりません。もちろん、市場環境や顧客ニーズが急速に変化しているなか、新しい価値を創造すること、新事業を立ち上げ運営していくことは決して簡単なことではありませんが、マーケットインの思想で失敗を恐れず、スピード感ある姿勢が、グループビジョン「つぎの社会へ、信頼のこたえを」につながっていくと信じています。川崎重工だからこそできる、新たなチャレンジにぜひ飛び込んでほしい。そして、一緒に成長を加速させていきましょう。