社会の大動脈・送電インフラを守れ! K-RACERが切り拓く空の物流革命とは?

公開日2026.03.18

電力の安定供給を担う送電設備の建設、保守、点検工事までを一貫して手掛ける総合エンジニアリング企業、株式会社かんでんエンジニアリング(以下、かんでんエンジ)。ヘリ物資輸送のリーディングカンパニー、エアロトヨタ株式会社(以下、エアロトヨタ)。そして、航空機メーカーである川崎重工業株式会社(以下、川崎重工)が手を取り合い、「空の物流革命」を起こそうとしています。

2025年3月13日、3社は「送電鉄塔向け物資輸送における協業検討に関する合意書」を締結し、同年12月1日、関西電力送配電株式会社の甲賀訓練場(滋賀県甲賀市)において、送電鉄塔への物資輸送を想定した「K-RACER実証試験ならびにデモフライト」を実施。送電鉄塔のメンテナンス事業における課題に対し、空飛ぶ軽トラック=K-RACERは新たな答えを導き出せるのか。K-RACERが切り拓く大空の未来について、3社の代表にお話しを伺いました。

かんでんエンジニアリング 執行役員 送電事業部長 
齊藤 真一
エアロトヨタ 代表取締役社長
加藤 浩士
川崎重工 執行役員
加賀谷 博昭

当たり前の電気を守るため、命がけで働く人たちがいる

普段、私たちが当たり前のように使っている電気。それは、全国に張り巡らされた24万基の送電鉄塔によって届けられています。日々の暮らしや産業を支える、まさに社会の大動脈。関西電力グループの一員であるかんでんエンジは、この電力インフラを80年以上にわたり守り続けてきました。

齊藤

我々は関西電力グループの一員として、関西にある約3万基の送電鉄塔の建て替えとメンテナンスを担当してきました。建て替えなどの大規模工事においては大型ヘリコプターやモノレールによる物流が確立していますが、小規模、かつ短納期のメンテナンス工事では、総重量1tにも及ぶ物資をすべて人が背負って運ぶという、旧態依然な運搬方法しかないのが現状です

送電鉄塔の多くはアクセス困難な山間地にあるため、メンテナンス用の物資輸送は100%人力輸送に頼らざるを得ません。50万ボルトの鉄塔一基を塗り替える場合、錆止め塗料の一斗缶(18L)が30缶、がいしなどの交換部材、そこにフルハーネスやロープといった装備類も加わってきます。もちろん、整備された道路はありません。

K-RACER実証デモフライトの舞台となった関西電力送配電株式会社の甲賀訓練場
K-RACER実証デモフライトの舞台となった関西電力送配電株式会社の甲賀訓練場
齊藤

3万基の送電鉄塔は、施工能力の関係で年間150基程度しか建て替えることができません。すべてを建て替えるまでに200年。その期間はメンテナンスで維持していく必要があります。重たい荷物を背負って山道を登り、目的地に着いたら今度は鉄塔に登って作業をする。このような方法では安全性の確保に課題がありますし、近年は少子化で人材も不足しています。山間地における小規模で効率的な物流の確立。これは持続可能な施工能力を維持するという観点からも、送電業界にとって喫緊の課題となっています

この課題を解決すべく白羽の矢が立ったのが、川崎重工のK-RACER。エンジンを搭載した無人ヘリコプターであるK-RACERは、高性能ドローンの耐風性能が10m/s程度なのに対し、18m/s。山間僻地特有の局地風にも負けることがありません。また一般的なドローンのペイロード(最大積載量)は最大30kg程度ですが、K-RACERは200kgという軽トラック並みの怪力も特徴です。

デモフライトで使用された機体は、K-RACER-X2。川崎重工が蓄積してきたヘリコプターの開発ノウハウとモーターサイクル開発で培った小型ハイパワーエンジンを組み合わせ、パワフルかつ高い安定性を実現しています。最大の強みは、荷吊り・荷降ろしを含めて無人での物資輸送が可能な点。ガソリンという汎用性の高い燃料でかつ、航続距離が100km以上ある点も、量産化に向けて大きな強みとなっています

【K-RACER-X2 基本仕様】

ローター径  :7.0m

全高     :2.0m

最大貨物搭載量:200kg

駆動方式   :レシプロ・エンジン

燃料     :ハイオクガソリン

最大速度   :約140km/h

航続距離   :100km以上

使用可能時間 :1時間

耐風性    :約18m/s

齊藤

K-RACERによる空の物流革命は、送電業界にとって未だかつてない取り組みです。近い将来、K-RACERが日本の空を飛び回る日が来れば、我々にとっても明るい未来が来るのではないか。そういう強い思いを持って、この3社での取り組みを行っているところです

デモフライト当日は、大勢の関係者が見守る中、K-RACERが荷吊りから荷降ろしまでの一連の飛行に成功しました

アクセス困難な山間地において、ヒト・カネをかけず資材を運べ!

送電鉄塔のメンテナンス工事にK-RACERを活用する。このアイデアは、長年かんでんエンジニアリングをサポートしてきた航空輸送のパイオニア、エアロトヨタの加藤社長から出たものでした。

加藤

かんでんエンジの齊藤さんから高齢の作業員の方が一斗缶を担いでいるという話を聞き、それはなんとかしないといけない、実はK-RACERがあるよと紹介したんです。ペイロードが最大200kgまで運べる。たまたま川崎重工さんとは同じタイミングで航空機の規制緩和に関する活動をしていたので、じゃあ一緒にやりましょうと。それが今回の取り組みのきっかけだと思います

国内の航空業界トップクラスの運航技術と計測・解析技術を持つエアロトヨタは、これまでにも鉄塔の解体・撤去、建設、更新工事等といった大規模工事からメンテナンス工事まで、有人ヘリコプターによる空輸を担ってきました。大型ヘリであれば3t、小型のものでも600kg近い物資を一度に運べますが、メンテナンス工事において有人ヘリコプターはオーバースペックになってしまうことも多いと加藤社長は言います。

加藤

メンテナンス工事を担当する方からすれば、物資は必要な時に必要な分だけを届けてほしい。ただでさえスペースのない山間の現場ですから、足元に余計なものを置かなくて済みます。つまり今回のチャレンジは、有人の大型ヘリで中継地点まで大きく運び、そこから必要な物資をK-RACERで小さく高頻度で運ぼうというものなんです

デモフライトの飛行距離は1km強。自動飛行で近隣の鉄塔や送電線を回避しながら安全に荷降ろし地点を目指す

大型ヘリの使用には向かない山間の現場に、無操縦者で自動運転のK-RACERが物資を運ぶ。これが実現すれば、荷揚げの負担がなくなることはもちろん、繁忙期が夏に集中してしまうメンテナンス工事において、悩みの種であった機体や人員不足の解消にもつながります。

加藤

繁忙期の対応能力にはどうしても限界があり、私たちが柔軟に対応できなければ工事日程にも影響を及ぼしてしまいます。だからK-RACERを使う上で重要なのは、オペレーションがミニマムであること。現実的には、出発地や目的地、現場の足元に配置する人員を必要最低限にしたい。そうすることで空輸にかかる総コストも下がるはずです。今は実証段階なのでたくさんの人員を配置していますが、2028年の量産化を見越し、このシナリオや具体的なオペレーションメニューをなるべく早く一緒につくり上げていきたいと思っているところです

離着陸地点から目視外となる荷降ろしの際は、モニターで確認しながら微調整を行い正確な荷降ろしを実現

「K-RACER」が切り拓く、空の物流・無人モビリティの新時代

2025年12月のK-RACER実証デモフライトでは、特殊地域(進入方向が一方向しか確保できない場外離着陸場)での離着陸許可を取得し、実際の作業現場に近い山間地でリアルな物資輸送が行われました。K-RACERは事前に設定した空間内のウェイポイント(GPS座標)に沿って、鉄塔や送電線などの障害物近傍を飛行します。

加賀谷

出発点からは目的地を目視することができず、飛行ルートには鉄塔や送電線が張り巡らされており、荷降ろし場は2m×2mという狭小地です。このような実環境に近い条件で、荷吊りから荷降ろしまで自動化してオペレーションできたのは非常に大きな収穫でした。風の強い山間地での荷降ろしには非常に高い精度が求められますが、この点に関してはタブレット端末による簡易操作で微調整が可能になっています

そう川崎重工の加賀谷執行役員が語るように、K-RACERは自動飛行だけでなく、荷物の上げ降ろしも独自開発の位置制御装置を装着した「自動結合システム」によって無人で行うことができます。これは、荷掛けにおいて必要だったフックマンの安全を守る意味でも意義のある発明です。

加藤

荷掛けのフックは静電気が帯電しやすく、外す時には火花が散ることもあります。何万ボルトもある送電線の近くで、これは非常に危険なこと。これまではフックマンが人力中心の従来手法で対応してきましたが、この危険性から解放されるのはとてもありがたいことです

奥に見えるのがK-RACERの「自動結合システム」。デモフライトでは、塗料の一斗缶、がいし(電線とその支持物とのあいだを絶縁するために用いる器具)、長尺な梯子などの装備を梱包したもの(ペイロード100kg以上)を、自動で荷上げ・荷降ろしをしました

また、K-RACERはローターの折りたたみができ、一般道を走れるトラックへの積載が可能です。専用の台車を使えば二人で運搬でき、展開までに要する時間は5分程度。機体のコンパクトさや展開の早さは、山間僻地では大きな武器となります。

K-RACERの運用は原則無人地帯の上空のみ。そのため、機体自体は発着点まで陸送しなければなりません。陸送の際には狭い一般道を通ることも想定されるため、4トントラックに積載可能なコンパクト設計となっています
加賀谷

全国に約24万基ある送電鉄塔の多くは高度経済成長期に建設され、更新時期を迎えています。しかし、労働人口の減少により一斉更新は困難な状況です。齊藤執行役員のお話を伺い、普段何気なく使っている電気が届くまでに多くの苦労があることを実感しました。現場で働く方々のご苦労を少しでもK-RACERで代替できるよう、一刻も早く実用化することが私たち川崎重工の使命だと考えています。今回使用した機体は実証機・K-RACER-X2ですが、今後は試験結果や先ほど加藤社長からもお話のあった人的オペレーションに関する課題も反映し、量産型の開発を進めてまいります。日本のインフラを支える活動の一端を担うべく、2028年の事業化を前倒しするくらいの気持ちで加速させていきたいと思っています

量産化までにはまだまだクリアしないといけない課題があるとした上で、加賀谷執行役員はさらにその先の可能性も見据えていると言います。

加賀谷

パイロットの確保が難しい有人ヘリや過酷な人による輸送。それは送電鉄塔工事だけではなく、山小屋などでも起こっている問題です。K-RACERを輸送手段として活用すれば、限られた人員で効率的な更新・維持活動を行うことができますし、エアロトヨタ様と進めている規制緩和が実現すれば、さらに飛行ルートも広がります。K-RACERの量産化・事業化が実現すれば、空飛ぶ軽トラックによる新しい空の物流を社会実装できると思っています

K-RACERによる空の物流革命。それを進める原動力は、実用性を超えたマシンとしての魅力によるところも大きいと加藤社長は付け加えます。

加藤

K-RACERはまず、デザインがいい。マフラーはバイクのものですし、工業製品としてかっこいいです。基本はバイクの構造で編成されており、大型ヘリに比べ部品点数も3分の1で済む。そういうメンテナンスフリーなところにももちろん期待ができますが、とにかくK-RACERは扱う私たちのモチベーションが上がる機体なんです

K-RACER-X2には、「Ninja H2R」用スーパーチャージドエンジンを搭載

かんでんエンジの齊藤執行役員も「かっこよさが憧れにつながり、この業界に人が集まるきっかけとなってほしい」としながら、K-RACERと送電業界への想いを次のようにまとめました。

齊藤

送電鉄塔メンテナンスは、たとえ過酷な環境であっても社会の大動脈を守るという気概を持った仕事です。持続可能な施工力を確保し、安全性と効率性を高める鍵は、このK-RACERが握っているといっても過言ではありません。K-RACERを起爆剤に送電業界の未来を変えていくためにも、川崎重工さんに対しては引き続き我々ユーザー側の意見を提示しながら、一緒に良いものに仕上げていきたいと思っています

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