大阪・関西万博でまったく新しい水素モビリティ「CORLEO(コルレオ)」と「ALICE SYSTEM(アリスシステム)」を披露したKawasakiはどんな未来社会を思い描いているのか? 世界で唯一「つくる、はこぶ・ためる、つかう」という水素サプライチェーンを有するKawasakiだからこそできる未来への取り組みとは?
「Hydrogen Council(水素協議会)」でも共同議長を務めた川崎重工の金花芳則取締役会長と、「カワサキ水素大学」のナビゲーターとしても活躍中のトラウデン直美さんに、これからの水素エネルギーについて語り合っていただきました。

兵庫県出身。1976年入社、2021年より現職。22年から2年半「Hydrogen Council(水素協議会)」共同議長を務める。

川崎重工ブランドアンバサダー
京都府出身。環境問題に関心を持ち、報道番組に出演するなど活躍の幅を広げている。特技は馬術。
技術と夢に満ちた万博。未来はそこから 生まれていく。

先日、大阪・関西万博でKawasakiのCORLEOとALICE SYSTEMを見てきました。初めて万博を体感したのですが、すごい高揚感ですね!

CORLEOは世界中でバズっているようで、「本当に走るの?」と問い合わせも来ているんですよ。

私は乗馬をやっているので「乗りたい!」とうずうずしてしまいました(笑)。


この大阪・関西万博は、私にとっては2度目の万博なんです。1度目は1970年の大阪万博で、高校生だった私は10回くらい行きました。海外に接する機会が少ない時代だったので、パビリオンの外国人スタッフと生の英語で話せるのが嬉しかったんです。万博に世界の全てがあるかのような感覚でした。

どんなところが印象に残っていますか?

2時間並んで月の石を見たり、動く歩道に乗ったり、ワイヤレス電話に驚いたり。今ではどれも当たり前ですが、当時最先端の技術にワクワクしましたね。


やはり会場に行って生で見るとインパクトがありますよね。

そうなんです。だからこそ万博は小さいお子さんに見てほしいと思っています。子どもたちに夢を持ってもらえる場になるよう、今回のKawasakiのブースは実寸大展示にこだわりました。
25年後の未来を見据えたCORLEOとALICESYSTEM
動力源はCO2フリーのエネルギー「水素」

実際に私たちの展示を見て、トラウデンさんはどう感じましたか?

あらゆる人がインクルーシブに、ボーダレスに移動できるALICE SYSTEMは、多くの人に希望を与えてくれる公共交通システムだなと思いました。乗り換え自体を旅の醍醐味として楽しむ方もいると思いますが、乗り換えがなくなることで旅行が可能になる人もいるはずです。旅の新しい選択肢として、実現する未来が来たらいいですよね。

ALICE SYSTEMには、陸・海・空すべてのモビリティをつくってきたKawasakiならではのアイデアが詰まっています。2050年の未来を見据えて設計していますが、そう遠くないうちにやって来るかもしれません。


CORLEOで驚いたのは、タイヤではなく、4脚にすることで道なき道を行けるという発想です。自然の中に道をつくること自体が環境破壊になりうる、という考え方にも気付かされました。乗る人を選ばず、ありのままの自然を体感できる設計に好感が持てましたし、感覚的に操作できるところもなんだか動物的で、馬好きな私には刺さりました!

CORLEOは、当社のモーターサイクルの基本理念である”Fun to Ride(走る悦び・操る楽しさ)”を追求したモビリティですが、安全性にもこだわっています。まだ構想段階ですので、実際に商品化するかどうかは未定ですが、もし実現したら、災害時の救助活動に役立つのではないかと期待しています。水素のカセットを交換するだけでエネルギー が満タンになるので、充電設備が不要なんです。

EVなどは「充電がなくなったらどうしよう?」という不安がありますが、カセットを交換するだけでよいなら安心して走り続けられますね。
水素社会の足音は静かに、、、だが確実に。世界は今、水素を中心にうごめいている。

トラウデンさんにひとつ問題です。この宇宙に水素はどれくらいあると思いますか?

え……、どれくらいでしょう?

実は、原子レベルでは宇宙の90%が水素なんです。つまり、水素はあらゆるものの根源であり、究極のエネルギーと言うこともできます。私が昨年まで共同議長を務めていた世界初の水素に関するグローバル・イニシアチブ「Hydrogen Council(水素協議会)」は、設立時は13社のメンバーでしたが、今はなんと約140社にまで増えました。世界中の名立たる 大企業が参加していて、「みんなで水素をエネルギーとして利用しよう」という雰囲気が広がりつつあります。


最近は街中でも水素で走るバスを見かけますね。

あれは高圧水素(圧縮した気体の水素)で走っているのですが、我々が目指すのは、液化水素(気体の水素を冷却し体積を800分の1にした状態)でモビリティを動かすこと。水素を新たなエネルギーとして普及させるためには、液化水素を使用した場合と既存エネルギーを使用した場合のコストが同等か、またはそれ以下になる状態、つまり「コスト パリティ」の実現が求められますが、今一番実現しやすいのがモビリティ領域と言われているんです。
具体的な取り組みのひとつとしては、昨年ドイツのダイムラー・トラック社と液化水素サプライチェーンの構築に向けたMOU(基本合意書)を結びました。2035年までに新車のCO2排出ゼロを目指す欧州に対し、水素サプライチェーンを有するKawasakiの強みをアピールできたと感じています。

なるほど。今はちょうどエネルギーチェンジの過渡期で、水素の利用を広げるためにも、まずはコストパリティの実現性が高いモビリティから注力しているわけですね。


もうひとつ、製鉄でもコストパリティを実現できそうな例があります。スウェーデンのグリーン・スティール社の水素還元鉄は、政府の補助金により価格を下げようとしていましたが、依然として高い状態のままでした。しかし、EUでは炭素国境調整措置(CBAM)の一環として、2026年から国境炭素税(環境規制の緩い国からの輸入品に対する関税)の課税が始まります。するとEU外からの製品輸入コストが増し、その結果補助金と関税の両要素が働いて、同社のつくる鉄のコストパリティが実現できそうというわけです。

そういったインセンティブが働くと、水素の活用がぐっと広がるんですね。

おっしゃる通りです。そういった仕組みづくりをHydrogen Councilは一生懸命取り組んでいますし、そこにKawasakiの技術が生かせると考えています。
Kawasakiがつくるべきは、希望にあふれた明るい未来

お話を聞いていると、私たちは今、水素社会の入口を目の当たりにしているんですね。抑えが効かないような気候変動も起きていますし、みんなで協力して持続可能な未来を目指すことが重要なんだと強く感じました。

そもそも脱炭素の動きは気候変動がきっかけですからね。イギリスの科学者ジェームズ・ラブロックが提唱した「ガイア理論」は、地球を単なる物理的存在ではなく、自己調整機能を備えたひとつの巨大な生命体として捉える視座を私たちに与えてくれます。この観点に立てば、気候変動は地球が自らの恒常性を維持しようとする免疫反応の一環と見なすことが でき、人間の活動はその均衡を脅かす“外的”として作用しているとも言えるでしょう。このような思索は、私たち人類が地球という生命体の一部として、より謙虚に、そして責任ある行動を取るべきであるという倫理的な自覚を促します。

地球から受けている恩恵に感謝して、人類として何をお返しできるか考えていきたいと私も思いました。さまざまな国や企業が知恵や経験、力を合わせ、地球にとってより負担のない社会をつくることが求められている今、Kawasakiとしてはどのような水素社会をつくっていきたいですか?

まずはモビリティに取り組み、需要増加とともにやがてコストを下げ、多様な事業に水素が活用できるようにしていく。もちろんすべてが水素に置き換わるのではなく、他のCO2を出さないクリーンエネルギーとのすみ分けが生まれると予想しています。2050年くらいには飛行機や船は水素で動く世界が来ると思いますよ。

50年前の万博の技術も実現しているんですから、本当にそんな未来がやって来る気がします!

トラウデンさんは、これからの社会を担っていく一人としてどんな未来を描いていきたいですか?

私は自分の子ども、孫の世代に「楽しみ!」と言ってもらえる未来がいいですね。あふれた情報が原因で未来に不安を抱いてしまう一方、世の中には豊かな未来を実現しようと動いている人が多くいらっしゃいます。技術の進歩という希望に目を向けて、前向きに生きていける世の中をつくっていきたいですね。
