川崎重工はフィリピンで、自社のイノベーション風土の醸成とSDGsへの取り組みを強化する活動にも取り組んでいます。トライシクルドライバーが貧困から抜け、自立と豊かさを 手にするためのGMS社への出資です。
トライシクルドライバーを「豊かに」。自立を支援するGMS社に出資
川崎重工はフィリピンで、トライシクルドライバーの自立と社会課題の解決に向けた取り組みも続けています。フィンテック(金融とITの融合による技術革新)によりトライシクルドライバーの新車購入と与信創造を支援するグローバル・モビリティ・サービス社(GMS、中島徳至社長)に出資して事業を後押ししているのです。
フィリピンでは貧しさから77%の人が銀行口座を開設できず、トライシクルドライバーに限れば90%が貧困層に属しています。多くのドライバーは、毎日150ペソ(約300円)、1カ月で9,000円ほどのレンタル料を車両オーナーに払って営業しています。
一方、Barakoを新車で購入してサイドカーを付けても毎月のローン代は5,000ペソほどで、車両は自身の財産にもなるが、頭金も足りず、銀行口座を開けないためにローンの与信もなく、結果的にほとんどのドライバーがレンタル料を払い続け、格差が固定する悪循環を招いています。
GMSは、この課題を克服するためにloTとフィンテックを融合した事業を考案しました。車両には、遠隔制御機能がある独自開発のloTデバイス「MCCS※1」を搭載。得られた走行距離やルート、稼働時間などのデータはクラウドの「MSPF※2」に蓄積されます。
ローン支払いの状況はMSPFとひも付いており、返済が滞ると遠隔制御でエンジンを始動できなくする一方、スタッフが事情を調べて支援しています。
※1 MCCS:Mobility-Cloud Connecting Systemの略
※2 MSPF:Mobility Service Platformの略
GMSフィリピンの中嶋 一将 COOは、「無事に3年間でローンの返済を終えると、3年間のデータそのものがその人の信用を創造し、2台目の新車購入や教育ローンの組成など経済的自立に向けた次のステップに歩み出せるようになります。つまり当初は新車を信用の担保にすることで審査を簡素化し、返済というドライバー自身の努力で与信が創造され貧困をなくす第一歩となるのです」と語ります。
GMSは2015年から自己資金で信用創造を開始。これまでに、一般の金融機関のデフォルト率(債務不履行率)が20%なのに対してGMSでは0.9%と驚異的な実績を示しました。この実績に金融機関もローン資金を提供し始め、累計では8,000台に信用が供与されました。現在では毎月400台に新規供与がなされています。「得た与信で自動車ローンを組み、トライシクルドライバーから四輪のタクシードライバーへと転身して年収を5倍にした人もいます」(中嶋COO)といいます。
GMS利用者のトライシクルドライバー、ケニー・ローリー・ミンゴさん(30歳)は、「18万ペソ(約36万円)のローンを組み、1年半で半分を返しました。残りを返済できる自信もあり、将来的にはトライシクルオーナーとして家族のために5台ぐらいは持ちたいと考えています」と語ります。その脇で妻のネリア・アファブレさんは、「自分たちの家を持つのが夢ですが、夫もBarakoも頑丈だからかなえてくれるのではないかしら」と笑います。
川崎重工は2018年6月、他の上場企業と共にGMSに出資した。川崎重工 理事であり、企画本部 イノベーション部長の野田 真は、「社会課題を解決しようとするGMSのビジョンには確固としたものが一貫してあります」と投資を決めた理由を語った上で、川崎重工のSDGsの拡張にも大きな意味がある出資だと強調します。
「Barakoに象徴される製品の社会への貢献を『既存型』というならば、GMSへの出資と連携は、SDGsの目標No.1である『貧困をなくそう』を実現する、より積極的な取り組みであり、『攻めのSDGs』といえます。イノベーションへの社内の理解やスタートアップ企業との外部連携を踏まえ、川崎重工の連続的なビジネス創造につなげていきたいと考えています」
ここにも、もうひとつの「Kawasaki」があるのです。
理事 企画本部
イノベーション部長
COO