日本の宇宙開発において人工衛星打ち上げの中心的な役割を果たしている、種子島宇宙センター。その設備の多くを総合エンジニアリングカンパニー川崎重工の技術とノウハウが支えています。日本の宇宙事業に携わる2名のエンジニアが、高度な技術を実現する「結集力」について語り合いました。
プラント・環境カンパニー
低温貯槽プラント総括部
低温貯槽プラント部 設計二課
種子島現地事務所 所長
1986年入社。水素貯蔵合金を開発する部署に配属された後、航空機及 び船舶の旅客搭乗橋や航空機整備用ドックの設計を担当。その後、JAXA(当時NASDA)へ出向となり、筑波宇宙センターにて設備整備などに携わった後、種子島現地事務所所長として打上げ運用やメンテナンス業務に携わっています。
プラント・環境カンパニー
低温貯槽プラント総括部
低温貯槽プラント部 設計二課
種子島現地事務所 副所長
1990年入社。機器装置設計部(現 低温貯槽プラント部)に配属になり、球形貯槽、LPG平底貯槽の設計を担当後、JAXA(当時NASDA)へ出向し、H-ⅡA射点設備の開発を担当。2012年度から副所長として打上げ運用やメンテナンス業務に従事しています。
種子島宇宙センターと川崎重工業の歩み
我々、川崎重工業とJAXAとの関係が始まったのは1971年。もう45年になりますね。N-Ⅰロケットの射点設備開発からスタートし現在に至るわけですが、当時は私も杉本も入社もしておらず、今は先人たちが築き上げた土台の上で仕事させてもらっている形になります。
私が宇宙事業に 携わり始めてもう10年以上になりますが、当時から川崎重工業は『設備の川重』と呼ばれ、クライアントから厚い信頼を得ておりました。そのため、その信頼を築き上げた先輩方には今でも頭が上がりません。先輩方は、ロケットが進化するたび種子島宇宙センターの設備を整備・改修してまいりました。設計段階では、運用まで踏み込んだ使いやすい設備にする検討を行い、納入後のフォローも抜かりなく行ってきたのです。
その結果、JAXAと川崎重工業は、長年にわたり信頼のおける良いパートナー関係を築いてこれたのです。技術力に対する信頼、そして良好な関係性。そのどちらが欠けても、今のような事業は成り立っていなかったのだと心の底から感じます。
川崎重工業は、納入した大型ロケット組立棟(VAB)、液化水素貯蔵供給所(LHS)、水素ガス処理場(HDF)、高圧ガス噴射設備(HGB)だけではなく、他社が納入した液化酸素貯蔵供給所(LOS)や高圧ガス貯蔵供給所(HGS)などの運用も担当しています。また、すでに役目を終えて解体さ れた大崎射点設備も川崎重工業が開発・運用を担っていました。そういった意味で言うと、この種子島宇宙センターの設備の多くの部分を川崎重工業が担当したということになります。
また、ここでは納入したら終わりという仕事の進め方ではなく、納入後も自ら運用するというミッションが課せられていますので、開発段階から運用・メンテナンスも念頭において設計を行うことで、評価が得られる設備を提供することが出来たのだと思います。
川崎重工業の技術の総結晶
先ほど杉本が申し上げた通り、ここでは川崎重工業製の設備が今でも多く稼働しています。どれもロケットの打上げには欠かせない設備であり、中にはロケットの打上げ十数秒前に作動するような重要設備もあります。それら設備一つひとつには、川崎重工業ならではの技術が込められ ており、それら技術の結晶が集まって種子島宇宙センターの設備運用が実現できているのです。
たとえば「液化水素貯蔵供給所(LHS)」は、大容量のタンクであるため工場で製作して一体で輸送できる大きさを超えています。そのため現場組み立てとなるわけですが、その時、造船で培われてきた川崎重工業の溶接技術が活かされています。
また、タンクへの入熱を減らす 工夫も至る所になされています。わずか数パーセントであっても入熱を軽視すれば、性能の悪い設備となり、それが川崎重工業の設備の評価となってしまいますから、細かい点にまで配慮して設計しています。
また、大型ロケット組立棟(VAB)の世界一の大きさを誇るスライド扉や昇降床等の機械設備には、精密機械カンパニーの油圧技術が採用されています。人工衛星などの精密機器に一切の悪影響を与えぬよう、電磁波を発生させてしまうモーター駆動ではなく油圧駆動が採用されたのです 。 このように種子島宇宙センター内の設備には、川崎重工業がこれまでに培ってきたあらゆる技術が活かされています。
しかし、宇宙事業という最先端のフィールドでは技術力以外の力も必要になってきますので、企業の垣根を越えた協力体制が必須です。三菱重工業さんやIHIエアロスペースさん、三菱電機さんなど、ここでは日本屈指のメーカーが己の持てるすべてを出し合って、国の看板を背負った事業を展開しています。彼らと共に協力し合い、オールジャパンとしてミッションを成功させることが何よりも重要だと思っています。
企業が違えど、宇宙事業を支えるエンジニアである点は同じ。それぞれがプライドを持っておりますが、自分たちばかりを優先していては前には進めません。お互いがお互いの技術を信頼し合い、助け合いながら作業することが重要なのです。