ベトナム・タインホア省に位置するニソン製油所は、国内最大級の製油所として、ベトナム国内のエネルギー供給を支える重要な存在です。この製油所で石油精製過程に使われているのが川崎重工の遠心式ガス圧縮機「KM Comp」。国家のエネルギーインフラを支えるKM Compの役割、さらには来たる水素社会の実現に向けて発展していく川崎重工の取り組みを紹介します。
ベトナム最大級の製油所・ニソン製油所
ニソン製油所は、ベトナムにある製油所の中でも最新鋭かつ最大の施設です。その規模は非常に大きく、ベトナムの石油市場の約40%を供給しており、国の経済や国民生活、社会全体に多大な貢献をしています。運営会社であるニソン リファイナリー・ペトロケミカルリミテッド(Nghi Son Refinery and Petrochemical LLC、以下「NSRP」)総務部長である本庄央明さんは、ニソン製油所の重要性について「意義深い存在であり、ベトナム全体の発展に大きく貢献している」と語ります。

ニソン製油所で活躍するKM Comp
石油を精製する過程のひとつに、原油から硫黄分を除去する工程があります。これは、高圧水素環境下で原油と触媒を反応させるもので、高圧水素環境を作り出すための水素ガスを循環・供給するために使用されているのがKM Compです。もしも圧縮機がトラブルを起こせば石油の生産はたちまちストップしてしまうことから、耐久性が高く、故障による稼働停止期間を最小にとどめられるKM Compは信頼性を重視するお客様のニーズに応えるものとなっています。
NSRP運転管理部門のグエン コンさんは、「KM Compはエネルギー効率が優れており、蒸気消費量の削減や運用コストの最小限化に貢献しています。また、信頼性と耐久性が高く、全体的な運用効率の向上にも寄与しています。操作性、制御性、メンテナンス性も素晴らしい圧縮機です」と評価しています。

世界で活躍するKM Comp
圧縮機は、ガスや蒸気などの流体を圧縮し、必要な圧力や流量を得る機械です。製油所ではガス圧縮や気体分離、プロセスガスの供給など様々な用途で使用され、エネルギーの効率的な利用や生産性の向上に大きく貢献しています。
KM Compは、駆動機(モーター/ガスタービン/蒸気タービン)によって回転するローターを持ち、ガスはローターに取り付けられている羽根車の内部を通りながら遠心力により昇圧され、高圧のガスとして吐出されます。遠心式圧縮機は、効率的な圧縮、大きな流量処理能力、静穏性の高い運転などの特長を有しています。

1970年代に初号機を納入して以来、インドや東南アジアを中心に豊富な実績を積み重ねてきました。中でも洋上の天然ガスプラントを中心に活躍してきたというのが特筆すべき点です。洋上プラントでは不純物を取り除く前の井戸元に近いガスを取り扱うため、場合によっては圧縮機内部に浸食や腐食が発生する可能性があります。
また、流量や圧力といったガス条件は時とともに変動します。このように機械にとって過酷な環境であることに加え、場所柄作業員が頻繁にメンテナンスに向かうことが難しいことから、プラントの核として止まることなく稼働し続けることが大事な圧縮機においては非常に高い水準の稼働率が要求されます。そのような水準をクリアしてきたKM Compの実績が認められ、ベトナムのエネルギーを支えるニソン製油所においてもその力を発揮し、昼夜休みなく稼働する製油所の運営に貢献しています。
世界的な脱炭素の流れ、水素への期待
石油・天然ガスはエネルギー源として多くの国や地域で使われ、KM Compは今この瞬間も世界各地で活躍しています。一方で、近年、地球温暖化をはじめとする環境問題への関心は世界規模で高まりを見せ、エネルギー源として燃焼時にCO2を排出しない「水素」に大きな期待が寄せられています。

川崎重工は、水素社会の実現に向け、液化水素サプライチェーンの構築に全社を挙げて取り組んでいます。この一連の流れのなかでKM Compも水素対応への挑戦を続けています。水素ガスはその軽さから遠心力での昇圧が難しく、天然ガスに比べて約10倍ものエネルギーが必要になりま す。将来各分野において必要と想定される水素ガスの昇圧比を達成するためには、多段・高回転・高圧と非常に高い水準の技術が求められます。

川崎重工では40年以上の水素に関するノウハウとKM Compの技術を融合させ、100%水素に対応するKM Comp-H2の開発に取り組み、2025年2月には、川崎重工の播磨 工場内に実証設備の建設を開始しました。ここで、KM Comp-H2は液化水素の原料となる水素ガスの冷却に使用する、冷却用水素ガスを昇圧するプロセスを担います。実証を通して得られた知見やデータは、水素エネルギーの普及に伴い需要の拡大が見込まれる水素供給パイプライン向けの遠心式水素圧縮機の開発にも活用していきます。

川崎重工の圧縮機の営業担 当者である田中さんは、「NSRPを含め、世界中で製造・納入・サポートを行ってきた川崎重工は、水素に対応する新型のKM Compの開発により、次世代の脱炭素社会に貢献します」と自信を見せます。

川崎重工の未来への貢献
昼夜休みなく稼働し、ベトナムのエネルギーインフラを支えるニソン製油所では、厳しい環境を耐え抜いた実績豊富なKM Compが活躍しています。その耐久性・信頼性は次世代エネルギーである水素にも生かされ、世界的な脱炭素の流れや水素への期待に応えるために新たな製品の開発が進められています。将来、水素がエネルギー源として普及し、張り巡らされたパイプラインにはきっと未来のKM Comp-H2がその役割を忠実に果たし、持続可能な社会の実現へ貢献していくことでしょう。