LNG(液化天然ガス)運搬船はさまざまな国からのエネルギー調達を可能にし、エネルギー供給の安定化に貢献しました。川崎重工はLNG運搬船の世界でいくつもの技術革新を生み出し、世界のエネルギー供給を支え続けています。「気体を冷やして液体にし、大量の燃料を運ぶ」技術はいま、次世代エネルギーを運ぶ水素運搬船に生かされようとしています。
石油や石炭よりも燃焼させた時のCO2排出量が少ないLNGを、エネルギー源として活用する先駆となったのは日本でした。公害を防止するための決断で、これによりLNGの生産が増え、コスト削減や関連技術の開発も促され、LNGは世界の主要エネルギーの地位を固めていきます。
しかし天然ガスを-163度で冷却・液化したLNGの運搬には、技術面で大きな壁が立ちはだかっていました。川崎重工は、ノルウェーのモス・ローゼンベルグ・ベルフト社が開発した「モス型タンク」の技術を導入し、1981年にアジアで初となるLNG運搬船「Golar Spirit」を建造。その後、LNG運搬船、特にモス方式球形タンクの分野では世界をリードする存在になります。2014年12月までに、タンク容量1万9,200m3~17万7,000m3のモス方式LNG運搬船を29隻建造します。
その背景には、「川崎パネル式防熱システム」という業界標準となる仕組みや、2011年の「エネルギーホライズン」で実現させた、世界の主要なLNGターミナルに入港できる汎用性を持ちながらも世界最大の容量を誇るカーゴタンクの開発など、多くの技術革新がありました。
アジア初のLNG運搬船、Golar Spirit
アジアで初めて建造されたLNG運搬船。5つのアルミニウム製の独立球形タンクを装備したモス型で、タンク容量は12万8,000m3。以降建造された大型LNG運搬船のひな形となりました。
効率性と汎用性に優れる、エネルギーホライズン
世界最大級の17万7,000m3のタンクを備え、それでいて世界中数多くのLNGターミナルに入港できる効率性と汎用性を両立した大型運搬船です。推進プラントには、LNG船としては世界初となる再熱サイクルプラント「川崎URA型再熱蒸気タービンプラント」を採用。ボイラで作られた蒸気で高圧タービンを回した後、蒸気を一度ボイラに戻し、再加熱後に中圧タービンを回します。燃料消費量は、従来プラントに比べて約15%も改善されました。
次世代のエネルギーを運ぶ、液化水素運搬船
水素エネルギー時代の幕開けを告げる液化水素運搬船。2014年に日本海事協会から液化水素運搬船に搭載する貨物格納設備の基本承認を得ました。タンクは、-253度を維持して液化水素の蒸発を抑えるために真空断熱システムを採用し、二重殻貨物槽構造になっています。
また貨物槽の支持構造には新開発した熱を伝えにくいGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)を用いています。将来的には16万m3クラスの運搬船になる見込みです。
LNG船の技術は今、液化水素運搬船へと引き継がれようとしています。比重はLNGの6分の1しかなく、絶対零度に近い-253度での運搬が必要な液化水素。川崎重工は、すでに液化水素運搬船に搭載する貨物格納設備の基本承認を日本海事協会より取得するなど、液化ガスの海上輸送の先駆者として歩みを進めています。