昨今、新型コロナウィルスのワクチン接種も進み、海外への移動規制が徐々に緩和されたことで、活発な人の往来が戻りつつあります。一方で、変異株などによる感染は依然として続いており、自身と周りの人々の健康を守るため、また渡航先での感染を防ぐためにも、感染対策や検査は大変重要です。今後、人の往来が活発になるなかで必要となるのが、移動前のPCR検査。今回は海外渡航前に空港で受けられるPCR検査サービスについてご紹介します。
ワクチン接種済みでも、海外への移動には陰性証明書が必要な場合が多数
2022年8月現在、海外各国の入国条件はさまざまです。たとえ症状がなくワクチン接種済みであっても、PCR検査を受けて陰性を証明できない場合には入国できないことも。なかでも陰性証明書は、検査が出国の何時間前に行われたか、どのような方法での検査であったか、規定が国によって異なるため、注意が必要です。※1
このような状況で注目されているのが、空港で受けられるPCR検査サービス。事前に検査のためだけに市中のクリニックへ行かなくても、搭乗前に空港で検査から陰性証明書の受け取りまでできることが大きなメリットです。
空港での待ち時間を有効に利用できるだけでなく、急な出張の場合にも検査が可能。その利便性ゆえ、事前に市中で受けた検査の有効期限が切れていることに、空港に到着してから気づいた方などにも喜ばれています。
※1:入国に際する規制・行動制限については外務省のサイト を確認してください。
空港PCR検査の課題に、ロボットを使ったソリューションを
空港におけるPCR検査は市中の医療機関での検査以上に、スピーディーかつ大量の検査処理が求められます。大量の検体を扱ううえでは当然、医療従事者への感染リスクも低減しなければなりません。それらの課題を克服するために生まれたのが、川崎重工の自動PCR検査ロボットシステム(以下 ロボットシステム)です。
このシステムは、川崎重工とシスメックス株式会社、株式会社メディカロイドの3社共同で開発したもの。自治体のPCR検査事業などでも利用されていますが、関西国際空港にも導入され、近畿大学病院や医療法人友広会との提携で検査を行っています。
大きな特長は、最短80分で検査結果を出し、最大で16時間稼働・2500件の検査が可能なこと。産業用ロボットの技術を応用することで「短時間・大量・高精度」の検査を実現しました。
川崎重工PCR事業総括部 計画部の大石部長は、ロボットシステムについて次のように説明します。
「ロボットを活用して早く大量に検査ができることは、利用する皆さまにとって大きなメリットだといえるでしょう。単に早いだけではありません。ロボットの動きは、非常に正確。寸分たがわぬ動きで処理することで、高精度な検査品質の均一化を実現します。大量の検体も、自動ID読み取りとクラウドを使用して管理を徹底。つまり、検査工程での不備や検体の取り違いなどのミスが起こるリスクを大幅に低減することが可能です」
人が全ての検査を行う場合、長時間の作業は難しく、個人の検査技量が揃っていない可能性もあります。連続で稼働でき、作業も正確なロボットを使った検査サービスは、多くの利用者が正しい結果を受け取れるというメリットをもたらします。また利用者だけでなく、検査を実施するスタッフや、このサービスを導入する施設にとってのメリットについても大石部長は強調します。
「検査の工程は基本的に全てロボットが行うため、検査スタッフが検体に触れる必要がありません。ですから、現場における感染リスクを大幅に低くすることができる。このあたりにも、安全・安心の実現を意識したシステムであることが表れています。
空港では、2021年9月に関西国際空港でシステムを稼働開始したのを皮切りに、2022年8月には成田国際空港でもサービスの提供が始まりました。今後もサービスを拡大したいと考えています。
一般利用者の皆さまには気づかれないかもしれませんが、このシステムは、1台の40フィートコンテナ内で一連の作業が完結できる点も特長です。コンテナを丸ごと移動させればよいので、環境工事や整備が最小限で簡単に設営ができ、スピーディーにサービスを開始することができます。これはサービス導入側にとっても利便性が高く、迅速、正確、安心安全な検査の需要の高まりに応えやすい、つまりサービス拡大しやすい形態であることもぜひお伝えしたいポイントですね」
空港検査での注目ポイントは、利便性
川崎重工では、安全・安心を特に重視してシステム開発と検査サービスの提供を行っています。一方、実際の渡航者にサービスを提供する場所である関西国際空港ではなにが求められているのでしょうか。
渡航者からのニーズはもちろん、そもそも各国における感染拡大防止が大きな目的にあると、関西国際空港でPCR検査サービスなど、安全・危機管理施策を担当する中山さんは強調します。
「各国には新型コロナウィルス感染拡大防止を目的とした、対策や規制があります。その一例として入国前の陰性を確認するため、出発前に発行された陰性証明書を求められる場面があり、渡航者はそのルールに従わなければなりません。渡航するご本人の希望にかかわらず、ルールにそぐわない場合は、国際線の航空機に搭乗できないこともあります。
渡航者が陰性証明書を準備するうえで注目されるのはやはり利便性。空港において迅速かつ確実に検査を受け、直ちに日本の医療法制に適合した陰性証明書を受け取れるサービスのニーズが高まりました」
空港での検査で求められるキーワードは、利便性。大量の検査を迅速かつ正確に行えるロボットシステムは、空港にも活躍の場があることが分かります。また中山さん曰く、空港は渡航前、チェックインの直前に検査ができる点も、渡航者のニーズに合致していたといいます。
「陰性証明の検査に関しては、各国で要件が異なります。厳しい例を挙げれば、入国前24時間以内の検査での陰性証明がないと入国を断られるところも。そういった場合は、できるだけ渡航の直前に検査を受けたいですよね。最短80分で検査ができるロボットシステムがあることで、関西国際空港内のPCR検査なら受付から最短3時間で結果が受け取れます。空港で検査ができれば、厳しい要件の場合にも役立てるのではないでしょうか」
中山さんによれば、空港としては新型コロナウィルスの検査サービスに限らず他の用途への技術応用も期待されているとのこと。不安を払拭し、安全・安心に旅立てるよう、できることの幅はこの先も広がっていくのかもしれません。
サービス利用者の声
「あの日、空港で検査を受けられなかったら、クビになっていたかもしれない」
空港で検査ができる大きなメリットとして、急な海外出張にも対応できる点があります。実際に、飛び込みで検査と陰性証明書の発行を希望される方もおられます。
過去にはこのようなエピソードも。「間に合わなくてもいいから」と飛び込みでこられたビジネスパーソン。搭乗前に陰性を確認し、陰性証明書を取得され、「本当にありがとう!今日出発できなかったら自分のビジネスはもう終わっていた。上司に謝罪のメールを今つくっていたところだったよ」という言葉とともに出発されました。
すると、後日その方が再び検査センターを訪れ、「あの日に出発できなかったらクビになっていたかもしれない。本当に感謝しているよ!」と感謝のメッセージを残してくださりました。急な状況でも検査を受けられることのメリットが非常に大きいことが分かります。
サービス再利用希望率95.7% 利用者アンケートの結果
急な出張に対応できるほかにも、利用者アンケートからは、さまざまなメリットを感じていることが分かります。
アンケート回答で見られたのは……
<ロボット検査のメリット>
・早くに結果が分かる
・当日受け取れる
・空港で証明書を受け取れる
・空港での空き時間に検査ができて便利
<ロボットを活用したシステムへの期待>
・人の手を介さずミスが少なくなる気がする
・他の感染症にも技術を転用してほしい
・感染リスクが低くなるのでいいと思う
利用された方のサービスの再利用希望率は95.7%。川崎重工のサービスが多くの方に喜ばれています。感染拡大とともに需要が増えると予想されるPCR検査。川崎重工はロボットを活用したサービスで、多くの人が簡単に検査を受けられる社会を目指します。
より安心できる検査を実現し、往来の回復に期待を
今回は、空港におけるPCR検査と陰性証明書発行のサービスを取り上げました。人々がより便利で安全・安心に検査を受け、自由に海外へ旅立つためにできることはなにか。社会が求めるものをとらえ、ロボットという技術を活用しながら、ソリューションを提供していく。自分自身と周りの人を守るため川崎重工は今日も社会を支えています。
PCR事業総括部 計画部 部長
運用本部安全推進部 危機管理グループ
※:記事冒頭の関西国際空港内の自動PCR検査ロボットシステムの画像は、設置時のものです