人とロボットの共生に進化を。 「Future Lab HANEDA」の挑戦

公開日2022.05.27

2022年4月20日、川崎重工はロボットの実証施設「Future Lab HANEDA(フューチャー・ラボ・ハネダ)」をオープンしました。Future Lab HANEDAは従来の公開施設とは違い、一般の人や研究者、企業関係者などが一体になってロボットに触れ、学び、活用し、進化を促そうとするオープンイノベーションの場です。ロボット技術で社会課題を解決するために始めた新たな挑戦。その狙いと想いを現場から探ります。

ロボットレストランの実証実験「AI_SCAPE」

まだ動きはぎこちなく、スムーズとは言い難いロボット「Nyokkey(ニョッキー)」。それでも手でつかんだトレーをテーブルにそっと置き、「御注文の料理でございます。ごゆっくりどうぞ」とあいさつすると、お客様は微笑んだり、胸の前で拍手をする。人は、未来を実感できる技術に触れたとき、自ずと笑顔を見せてしまうものらしい――。Future Lab HANEDAにあるロボットレストラン「AI_SCAPE(アイ・スケープ)」でのワンシーンです。

川崎重工 精密機械・ロボットカンパニー ロボットディビジョンの髙木 登 ディビジョン長はこう説明します。

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髙木

「AI_SCAPEは、一般のお客様を迎え、コック、ウェイター、ドリンクサーバーのすべてをロボットが行うレストランの実証実験の場で、ベンチャー企業や研究機関などに研究開発用としてロボットを活用していただくYouComeLab(ユーカムラボ)と共にFuture Lab HANEDAの中核をなす施設です」

AI_SCAPEにある冷凍庫や電子レンジ、湯煎機、トレーなどはどれも一般の飲食店で使用されているものであり、それらをロボットが使いこなす必要があります。ロボットが人の手を借りずに使うと、どのようなトラブルが起きたり、課題が浮かび上がってくるのか。それらを確認し、改善する。実証実験の場とは、このような目的で設置されているのです。

すべての作業を「ロボットの手」で

AI_SCAPEで活躍するKawasakiのオリジナルロボットは「RS007L」、「duAro2(デュアロツー)」、「Nyokkey(ニョッキー)」の3機種6台。調理から配膳までトレーを載せてつなぐコンベア替わりの配膳移動ロボットは現在、他社製ロボットが務めていますが、今後、すべての作業をKawasakiのロボットが担う計画となっています。

●コック「RS007L」

①冷凍のご飯やパンをつまみ、電子レンジに入れて解凍する

②カレーやスープなどのレトルト食品を湯煎し、開封して器に盛る

③冷蔵庫からサラダを取り出し、カトラリーを載せる

という役割を各1台でこなします。注文された料理がご飯、パン、パスタによって異なる解凍時間のボタンを押したり、湯煎後にレトルト食品の袋についたお湯を振り落としたり、袋を切ってカップに盛る際の湯切り動作など、実に細かい技を見せます。

●ドリンクサーバー「duAro2」

ドリンクコーナーで、まさに“腕をふるっている”のが人共存型双腕スカラロボット「duAro2」です。2本の腕はそれぞれ重さ3kgまでのものを持ち上げることが可能で、産業分野では電気・電子部品のハンドリングなどを担っています。AI_SCAPEでは、自動飲料機にカップをセッティングしてメニューボタンを押し、ドリンクをお客様に提供します。

●ウェイター「Nyokkey」

料理の載ったトレーを受け取り、配膳・下膳・清掃を担うロボット「Nyokkey」の液晶ディスプレイにはさまざまな顔の表情が映し出されます。2本の腕にはそれぞれ6つの軸があり、あらゆる動きを実現できます。先端にはグリップ式のハンドを装着。走行は4輪で、前輪2つはモーター付き、後輪2つはオムニタイヤになっています。600ワットのリチウムイオン電池2つで稼働し、ランチまたはディナー営業中のバッテリー交換が不要です。

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髙木

「現在は、あらかじめ決められた表情しか表示できませんが、例えばお客様が手を振ってくれたらそれに応える表情を示すなどの改良をしたいですね」

いま、ロボットにも求められる「対応力」

調理の際、最も時間のかかる工程がレトルト食品の湯煎ですが、1食目の注文を受けてからおよそ7分で調理が終わり、2食目以降も連続で注文が入っていれば湯煎工程での待機時間が減るので2~3分間隔で料理を送り出すことができます。

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髙木

「産業用ロボットは、専用に設計されたエリアに固定され、生産計画に基づいて100%精密に動きますが、サービス用ロボットでは想定外に起こるアクシデントへの対応力が問われます。即時性や不確定性への対応は人間の強みとするところですが、ロボットにも可能になるように技術要素を積み上げていきたい。人工知能の活用も当然あるでしょうし、そうしたソフトを開発するスタートアップとも連携していきたいと考えています」

メニューは3種類。神戸の調理食品メーカーのMCCとのコラボカレーや、オリジナルメニューを提供しています

オープンイノベーションを加速する「YouComeLab」

Future Lab HANEDAにはもう一つ、特筆すべき施設と使命があります。AI_SCAPEに隣接して設けられているロボットの共同利用施設「YouComeLab」です。AI_SCAPEは一般の人たちを対象とする施設ですが、YouComeLabはお客様をはじめスタートアップやアカデミアを対象とする施設となります。

そもそもFuture Lab HANEDAは、京浜急行・東京モノレールの天空橋駅に直結している「羽田イノベーションシティ」内にあります。羽田空港B滑走路の西端に位置しており、国際線や国内線ターミナルにも至近。また地元大田区は、製造業の会社が多いものづくりの町でもあります。

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髙木

「この利便性を活かし川崎重工のロボット技術を多くの企業関係者や研究者に知ってもらい、そして実証実験の場にもしてもらうのがYouComeLab開設の狙いです。これまでもロボット向けのソフトウエア開発のためにハードウエアであるロボットを貸し出したりしていましたが、YouComeLabをベースにしてソフトウエアや関連技術の開発でオープンイノベーションを狙っていきます。もちろん川崎重工の技術者たちも応援します」

「開発の現場」と「使う現場」が初めて合体

持ち込まれるロボットは産業用だけでなく、ヒューマノイドロボットの「Kaleido(カレイド)」「RHP Friends(フレンズ)」、双腕スカラロボットなど多岐にわたる予定です。するとYouComeLabは、開発利用や実証実験の場にとどまらず、ロボットを知らなかった人がロボットを学び、ビジネスマッチングにもつながる場となります。

従来の日本のロボット産業では、開発の現場と使う現場が一体ではありませんでした。Future Lab HANEDAは、両者が一体となる施設であり、これによりロボットの導入が進んでいない分野で、ロボット利用が促されることが期待されています。

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髙木

AI_SCAPEにしてもYouComeLabにしても、あえて完成していない、まだこれだけしかできないという状態を一般の方にも企業にもお見せします。それは技術者にとってはとても覚悟のいることであり、厳しい評価にさらされますが、それこそがロボットの進化には必要なのです」

もっとロボットを知ってもらえれば「こう使えないか」というアイデアが広がります。Nyokkeyを見て「これしかできないのか」と思われるかもしれませんが、初めから見ている人には「ここまでやれるようになったか。ならば次に、こんな動きはどうだ」など、驚きと創造のきっかけをもたらします。

進化の第一歩は「できないことを見てもらう」

これまで川崎重工は、2つのロボット関連施設を運営してきました。一般の人を対象にロボットを知ってもらう「Kawasaki Robostage」(東京・お台場)と、産業用ロボットの導入を計画する企業を対象にした「西神戸ショールーム」です。これに、施設の性格がまったく異なる「Future Lab HANEDA」が加わります。

人びとがロボットと出会い、そして社会課題の解決にロボットを活用できるようにするために試行錯誤を繰り返す。できないことを恥じるのではなく、できないことを見極めて明日のためのアイデアを得る。髙木ディビジョン長は今後のビジョンをこう語ります。

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髙木

「いつかは大空港やショッピングセンターのフードコートをロボットレストランにしたいですね。そのために必要な課題をAI_SCAPEで明らかにし、改善に着手していく予定です。ロボットができることはロボットに任せ、人は人にしかできないことに取り組んでいく。川崎重工のロボット関連施設で、人とロボットの共存のあり方を実感してもらえると嬉しいです」

Future Lab HANEDAの開所で、日本のロボット史は新たな時代に入ったと言えるでしょう。

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経済産業省
製造産業局 産業機械課
ロボット政策室長
大星 光弘

社会課題の解決に向けたロボットイノベーションの拠点になることを期待しています

先進国では人口の減少が進み、省力化や自動化などへの対応が求められる中で、日本の信頼されるロボットへの期待はますます高まっています。そうしたなかで「Future Lab HANEDA」が開所しました。ロボット活用の裾野をより一層広げる施設として期待しています。

AI_SCAPEで一般の方々にロボットの料理や配膳を楽しんでもらえれば、ロボットをより身近に感じて愛着を持ってもらえ、広い分野でロボット普及の促進につながっていくでしょう。またYouComeLabはオープンイノベーションの拠点として多くの方が先端技術やアイデアを持ち寄ることで、ロボット製造が盛んな日本ならではの新事業が創出され、多くの社会課題の解決につながると考えています。

さらなるイノベーションを創出するには、それぞれの長所を活かした仲間が水平的につながる必要があります。これまで蓄積されてきた産業用ロボットの技術に加えて、研究機関、異業種、スタートアップ企業、個人が有するアイデアやノウハウが集い、さらにはFuture Lab HANEDAならではの「利用者の声」を聞いて改善していくことにより、イノベーションが加速されることを期待しています。

「Future Lab HANEDA」へのアクセス

<所在地>

大田区羽田空港1-1-4 羽田イノベーションシティ D棟2階

<営業時間(レストラン・ショップ)>

11:00-14:00、16:00-19:00

<定休日>

水曜日、年末年始

※祝日の場合は営業、翌平日が定休日となります。実証実験の場である特性上、営業時間および定休日は予告なく変更する場合があります。お越しになられる前に、AI_SCAPEのWEBサイト をご確認ください。

<交通>

京浜急行電鉄空港線・東京モノレール「天空橋」駅直結

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川崎重工業株式会社
執行役員
精密機械・ロボットカンパニー
ロボットディビジョン
ロボットディビジョン長
髙木 登

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