duAro 新たなロボット革命 〜共存と協調のものづくり〜

公開日2015.10.31

川崎重工は2015年6月、双腕の水平多関節ロボット「duAro(デュアロ)」の販売を開始しました。商品サイクルが短く変更の多い生産ラインにも導入できるフレキシビリティ、省スペース、低コストによって中小企業のロボット活用にも道を開きます。人とロボットが共存し、協調しながらものづくりの力を高める新たなロボット革命が始まりました。

duAroに秘められた新時代の可能性

duAroを見た人たちはみな、その姿の柔らかい印象に驚きます。真っ白なボディ、さりげなく配された青のスポットカラー、全体の滑らかなラインから醸し出される優しさと親しみは、「産業用ロボット=屈強」というイメージを覆すものです。

duAroは、水平方向に2つのアーム(腕、ロボット部分)が動作する多関節ロボットで、双腕の水平多関節ロボットを世界で初めて同軸上に配置しています。アームとコントローラー(制御機器)が一体になっていて、幅62㎝、奥行き60㎝、重さは145㎏。キャスターが付いているので置き場所を自在に変えられます。販売価格は280万円。このコンパクトさと価格が、ロボット導入をためらっていたものづくりの現場に衝撃を与えました。

「2015年6月から世界同時発売」と発表されてから、「すぐに持ってきてくれ」「うちの工場でも使えるか」といった問い合わせが殺到しています。誰もが、duAroが秘める可能性を感じ取ったのです。

水平方向に2つのアーム(腕、ロボット部分)が動作する

duAroは、作業者と共存・協調し、簡単に設置・操作できる導入しやすいロボットです

従来のラインを改変せず、人1人分のスペースに納まり、人と同じ範囲の作業を行い、接触事故防止のための安全柵もいりません。簡単に導入・操作・グレードアップできるため、ロボットに作業をすぐに置き換えられるのです。

duAro

このコンセプトは、ロボットの活用に新たな地平を開きました。日本は、産業用ロボットの年間出荷額、国内稼働数が共に世界トップの「ロボット大国」。新興国でも生産の効率化をめざしロボットの導入が加速しています。しかし、ロボットを導入したくてもできない現場がたくさんあります。

例えば電気・電子業界では、商品サイクルが3〜6カ月と短いために作業の切り替えが早く、準備期間や費用対効果でロボットの導入は難しいものでした。定型作業を正確にこなすロボットの力を、商品サイクルの短さ故に活かせないでいたのです。

中小企業では、狭い工場にロボットを置くスペースを確保できなかったり、投資額が多額となるために導入が諦められてきました。「自動化に取り組みたいが資金に限界がある」「もう1人分の労働力があれば受注量を増やせた」という悔しい思いをすることも珍しくありません。

1969年、日本で初めて産業用ロボットを生産し、「ロボット大国」の基礎をつくった川崎重工。自動車向け溶接ロボットの他にも、組立、ハンドリング、塗装、パレタイズ用から半導体製造向けクリーンロボットなど、お客さまの課題の解消に取り組むマーケット・インの発想で、多彩なロボット技術を蓄積してきました。半導体ウエハーの搬送ロボットでは世界で50%以上のシェアを誇ります。

川崎重工は、duAroで新たな産業用ロボット市場の創造に挑むのです。

スペースは人1人分。人と一緒に作業するロボット

「ライン変更が不要で、人1人分のスペースでロボットと人が共存・協調して作業をこなし、導入も管理も簡単な産業用ロボット」。duAroのコンセプトを実現するために川崎重工の開発技術者たちは、蓄積されたロボット技術と新たな発想を果敢に組み合わせました。

まず「人1人分のスペースのロボット」。duAroは、半導体ウエハー搬送ロボットの技術を取り入れたうえで、同軸上に配置した2本のアームとコントローラーをパッケージ化することで、その答えを出しました。同軸の双腕構造としたことで、従来の水平多関節ロボットを2台設置するよりもアームの干渉が起きにくくなり、協調動作もできるようになったのです。

ロボットのためのライン変更なしに人1人分のスペースにduAroを設置できます

duAroの設計を担当した川崎重工 精密機械カンパニー ロボットビジネスセンター FA・クリーン統括部 FAシステム部 システム四課の村上 潤一 主事は、「人と一緒に作業をするのですから、腕の長さも人間を基準に考え、かつ人は片手で仕事をすることは少ないので双腕というアイデアが生まれました」と語ります。duAroは、新しい発想による「人型ロボット」だったのです。

duAroの片腕は最長75㎝伸びます。作業範囲は、人の作業範囲をベースに設計されました

双腕にすることで別の効果も狙いました。アームの先に付ける治具を簡素化できるのです。例えば1本の腕でものを加工する場合、治具などでものが動かないよう固定する必要があります。しかし、双腕ならば単純に挟み込んでしまえばよいため、多様な作業に簡単な治具で対応できるメリットがあります。

「産業用ロボットの導入では、ロボット本体の費用の他に治具などの周辺機器に費用がかさみ、総費用が本体価格の2〜3倍になることもあります。しかし双腕のduAroでは、ロボットを稼働させる費用は少なくて済みます」(村上主事)

置きたい場所に置けるよう、台車の中にコントローラーを収納しました。台車ごと移動すれば、ラインのどの位置でも人と置き換えることができます。

台車のついた本体は、ハンドルで一人で配置を変更可能

しかしそれは、作業内容の変更を柔軟に学べる仕組みが必要とされることでもあります。

通常のロボット導入では、ロボットの置かれた位置を基準に、作業の手順をプログラムで厳密に定義する必要があるため、2週間は必要となります。3カ月で商品サイクルが変わる業界で、ティーチングだけに2週間もかかっては実用性はありません。しかしduAroは3日程度で済むのです。その秘密は、「ダイレクトティーチ機能」とタブレット端末の活用にありました。

操作やティーチングの「簡単さ」に込められた技術

duAroのソフトウェア開発を担った川崎重工 精密機械カンパニー ロボットビジネスセンター FA・クリーン総括部 FAシステム部 システム三課の神原 正義 主事は、「簡単に操作できるロボットとは、説明書がなくても使えるロボットです」と語ったうえで、「ダイレクトティーチは、子どもへの手取り足取りを実現したものです」と説明します。

子どもの腕や手を取り、実際の動きをなぞって手順を教えるように、duAroでもアームを握り動きをなぞって動作を指示すると作業を覚えるのです。それぞれの動作の間を結ぶ行動は、duAroが自動的に最適化します。

さらに、タブレット端末による動作設計もできるようにしました。タブレットのメニューを開き、動作に関わる方向や距離などの数値を入力するだけ。

「操作盤の機能は、すべてアンドロイドOSの専用タブレットに移し、ユーザビリティの高い簡単な方法にしました。専用端末の操作は1日で覚えられ、数式やプログラミングに詳しくなくてもduAroを使いこなせるようになります」(神原主事)

操作はタブレットで行います

もうひとつ重要な課題があります。人と隣り合って作業をするので、人とぶつかった時の安全をいかに確保するかです。ここでもduAroは、細心のアイデアを盛り込んでいます。アームを広げた際に左右の一定エリアに入ると、アーム速度が落ちるよう設定することができます。

作業中にduAroと接触・衝突してもセンサーと高度ソフトにより即座に停止します

アームの外装部分は発泡ウレタンで包み、衝撃検知センサーの制御にも工夫がなされました。神原主事は、「衝撃検知による稼働停止は、ソフトで処理しています。アームがどのような動きをすれば衝撃と認定して停止させるかについては技術蓄積もあります。それらをベースに大幅にバージョンアップしています」と語ります。

可動部分には発泡ウレタンの安全カバーが付けられています

現場とのベストマッチングを支える改善提案力

どんなに優れた機械やロボットであっても、実際にものづくりの現場で活用されるためには、その現場に適合させるための工夫が必要です。duAroと現場のベストマッチングを担っているのが、川崎重工 精密機械カンパニー ロボットビジネスセンター FA・クリーン総括部 FAシステム部 システム一課の日比野 聡 主事です。「私が本当に苦労するのは、duAroがシステム導入されるまでの過程です」と笑いながら、導入先の課題とduAroの活用法について知恵を絞っています。

「duAroは、電気・電子業界の他にも対応できるようにオプションも検討しています。ですが、duAroを使いこなしてもらうためには、お客さまの現場の課題を的確に捉え、生産性を高める適切な提案ができなくてはなりません。営業担当者への研修や『カワサキファン』になってもらうためのマーケティング面での活動も重要になるでしょう」

duAroの開発は、産業の基盤である中小企業のものづくりの高度化や自動化に大きく貢献すると期待されています。周辺設備にかかる費用が少なく、工程変更への対応も簡単で時間が短く済みます。 コスト削減効果と導入効果は年々、増していくのです。「ロボットを軸にしたものづくりソリューションを提供するのが、同じものづくり企業である川崎重工の大きな使命であると思います」と日比野主事は語ります。

ロボットとの共存・協調のものづくりは、新しい世紀を迎えようとしているのです。

duAroの開発は、電気・電子業界でのロボット活用がきっかけでしたが、一方で、ものづくりの基盤である中小企業の悩みに応えるものでもありました。狭い工場にも設置でき、操作も容易で、投資額も過大ではない。新たな“戦力”としての導入効果がきわめて高い。従来、産業用ロボットは大手メーカーの独占物のように思われてきましたが、duAroによりまったく新しいロボットとの共存・協調の時代が始まります。

duAroは「簡単」がキーワードですが、それはduAroそのものの技術レベルの低さを意味してはいません。むしろ真逆で、背後に複雑でレベルの高い技術が盛り込まれているからこそ簡単に使いこなせるのです。また簡単に使えるようになったことで、ご利用になるお客さまから「ここを改善して欲しい」「こんな使い方はできないか」といったご要望が増えてきます。そして私たちはduAroを進化させる。お客さまとメーカーが課題解決のために協調し、協創するサイクルを生み出せることに、duAroを世に送り出した最大の意義があります。

人には人の、ロボットにはロボットの長所があり、人とロボットがシームレスに連携することで、競争力を高める余地は十分にあります。例えば、日中は人とロボット、夜間はロボットのみといった生産体制を構築したり、ロボットで身体の不自由な方の活躍をサポートできます。

ベストパートナーとして、人に寄り添い、人を支える。 それがロボットであり、川崎重工はどのような生産体制、働き方が可能であるかまでを含めたトータルソリューションを提供しながらduAroを普及させていきたいと考えています。

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川崎重工業株式会社
精密機械カンパニー
ロボットビジネスセンター
FA・クリーン総括部
FAシステム部 システム四課
主事
村上 潤一
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川崎重工業株式会社
精密機械カンパニー
ロボットビジネスセンター
FA・クリーン総括部
FAシステム部 システム三課
主事
神原 正義
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川崎重工業株式会社
精密機械カンパニー
ロボットビジネスセンター
FA・クリーン総括部
FAシステム部 システム一課
主事
日比野 聡

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