2020年6月、川崎重工の新しい代表取締役社長執行役員(CEO)に、橋本康彦が就任。新型コロナウイルス禍終息後を見据えた「ものづくりの変化と川崎重工グループの対応」について、新社長にインタビューしました。
代表取締役社長執行役員
1957年神戸市生まれ。1981年、川崎重工入社。ロボット開発を担当し、半導体ロボット事業の立ち上げや医療ロボット開発会社「メディカロイド」の設立などを担う。18年取締役常務執行役員(精密機械・ロボットカンパニープレジデント)。2020年6月社長就任。
ものづくりが直面する変化
いま、世界のものづくりはどのような変化に直面しているとお考えですか。
世の中の変化に迅速に対応して、お客様へお届けする価値を持続的に高めていく能力が問われているように思います。製品に付加されるソリューションを深化させ、お客様の機会損失を少しでも減らすためには、開発を短期で実現する対応力が課題になっています。
例えば成長が期待されていた航空機の製造は、新型コロナウイルス禍で大きな打撃を受け、生産の抜本的な見直しを迫られています。その苦境下で、私たちはどんな技術を提供でき、自分たちの技術がどのように使えるかに知恵を絞らなくてはなりません。
そのためには長年かけて磨き上げてきた「擦り合わせ※1」の技をベースに、スピードやソリューション、営業コミュニケーションといった新たな価値を積み上げ、川崎重工グループの「総合力」として世の中にお届けしなければなりません。
その課題に対して川崎重工グループは十分に対応できているでしょうか。
川崎重工グループの従業員の気質は、「誠実」の一語に尽きます。お客様にご満足いただける製品をお届けしようとする姿勢を、私も誇りに思います。しかし誠実さゆえに、お客様が「今、お腹が空いているのでインスタント麺でもよい」と仰っているのに、フルコースの料理を用意しようとするような体質があります。世の中の変化、ニーズを敏感に感じ取り、スピーディーに対応する力を磨かなければなりません。
そのためにはデジタルトランスフォーメーション(DX)のさらなる推進や短時間でアウトプットを出す文化を醸成したり、事業の選択と集中を進めて分野を特定することでスピードを上げるなどの対策が必要だと考えています。全ての事業を、自分たちではなくお客様やマーケットの視点で捉え直し、再定義していく必要があります。
※1 開発・製造の各工程が試作段階から課題や解決策を「擦り合わせ」ることで高度な機能と品質を実現すること
いま、川崎重工に求められていること
新型コロナウイルス禍を通じて、どのような対応を求められていると感じましたか。
やはりスピード感を持った変化への対応であり、同時に私たち個々の意識の変化の重要性だと思います。前社長の金花が掲げた「カワる、サキへ。」が、まさに今、待ったなしで問われています。まず自身の意識を変え、周囲の意識も変えていく。
例えば新型コロナウイルス禍による在宅勤務(テレワーク)の定着では、「移動をしなくてもよい価値」が重要なテーマとして浮上しました。一方で川崎重工は航空機や鉄道車両など「移動することで実現する価値」を支える製品を多く製造しています。
移動しない価値では、プラントやロボットなどへのIoTを駆使したさらなるソリューションの提供が重要です。一方、移動することの価値では、航空機や鉄道車両には安全や快適性能に加え、同乗者からの感染を抑えられるような新たな価値ある機能も追求しなければなりません。こうした変化に迅速・柔軟に取り組める意識づくりを進めたいと思います。
つぎの社会へ、信頼のこたえを
「鉄腕アトム」や「鉄人28号」が大好きで、教科書の余白にロボットの構造図を落書きしているような子供でした。大学生時代には「筋ジストロフィー」の患者さんを支援するボランティア活動もしていましたが、あるお母さんが「毎日2時間おきに寝返りを打たせるために、私は子どもが生まれてから2時間以上寝たことがありません」と話すのを聞き、医療や介護に役立つロボットをつくりたいと思いました。
川崎重工グループは社会を支えるさまざまな製品をつくり、2021年には水素エネルギーを利用する社会システムの構築も始まります。私は、製品を開発したり供給する人たちの「社会にどのように貢献したいのか」という思いこそが、技術の革新を生み出すと信じています。「つぎの社会へ、信頼のこたえを」提示していくことこそ、川崎重工グループの目指すべき姿だと考えています。