Kawasakiが大阪・関西万博で披露した未来の公共交通機関「ALICE SYSTEM」。プライベート空間が確保されたキャビンに乗り込めば、電車や航空機、船にそのままドッキングし、目的地まで乗り換え不要の快適な移動を実現してくれます。2050年を想定したコンセプト設計ながら、こだわったのは社会実装可能な「リアリティ」と社会課題に柔軟に応え得る「拡張性」。Kawasakiは現状の物流・交通システムをどのように捉え、未来に何をプラスしようとしているのか? 今回は万博推進課のプロジェクトリーダー、天辰さんにお話を伺いました。

コーポレートコミュニケーション総括部
大阪・関西万博推進課
もし、〇〇のように移動できたら?
既存のものにひと工夫を加え、未来を描く。
現在、私たちが利用している公共交通機関は、長 い階段があったり、満員で座れなかったり、乗り換え情報をスマホで調べなくてはならなかったり…、まだまだ不便さはあるものの、移動システムとしてある程度完成したものになっています。
今回の万博出展に際し、最初は「見たことのないマスモビリティをつくろう」と水陸両用の電車などさまざまなアイデアを検討しました。しかし、いくら発想が面白くても、実現可能性が低ければKawasakiとして提案する意味がありません。ならば今あるシステムに私たちの技術や知見でひと工夫を加え、カスタマイズする方がリアリティがあるのではないか。この考え方が「ALICE SYSTEM」の出発点となりました。

さまざまな交通機関が連携し、乗り換え不要で目的地まで到着する。自分は何もしなくても、行きたい場所に自動で連れて行ってくれる。このようなアイデアは、誰もが一度は想像したことがあるかもしれません。そして実際に荷物を例に取ると、このアイデアは既に実現しているとも言えるのです。荷物というものは、まず配送業者が引き取りに来てくれて、コンテナなどに積み込まれ、陸送され、船や飛行機に乗り、また陸送で目的地に到着しますよね。つまり、現在の物流・交通システムは、荷物自体は何もしなくても行きたい場所に行けるようになっているわけです。
これと同じことを人間でできたなら? そんなシンプルな発想から、コンテナをALICE Cabin(以下、キャビン)に置き換えたのが「ALICE SYSTEM」です。現状のシステムでコンテナが運べるなら、キャビンだって運べるはず。そうすれば既存のインフラを一からつくり直す必要もなく、未来の公共交通へとスムーズにアップグレードすることができます。もちろん人間は荷物ではないので、コンテナと同じ ように扱うわけにはいきません。キャビン自体の快適性や安全性はもちろん、各モビリティにドッキングする際のスムーズさをどう設計するべきなのか。それが、陸海空のモビリティのプロを擁するKawasakiとしての腕の見せ所になりました。
シンプルだからこそ使い方は自由!
ALICE Cabinに秘められた拡張性
定員4名のプライベート空間であるキャビンは、「ALICE SYSTEM」における最小単位。ALICE Carとドッキングしてタクシーのように自宅まで迎えに来てくれ、ALICE RailやALICE Aircraft、ALICE Shipに自動で乗り継いでくれます。このキャビンにどのような機能を持たせるかも、設計における大きな論点となりました。
キャビン自体に動力となる発電機やエアコン、電子レンジなどの装備を付けて、独立したモビリティにするのか。それとも、ほとんど何も付いていないシンプルなユニットにするのか。私たちが出した答えは、シンプルなキャビンでした。

何か特定の装備を付けてしまうと、壊れたときに取り換えや修理のコストが発生します。そもそも、キャビンは必ず各モビリティとドッキングして使うので、モビリティ側に動力やエアコンなどが付いていれば問題ありません。現在の電車、飛行機、船にもそのような装備は既に備わっていますので、「ALICE SYSTEM」のキャビンはシンプルでよいという結論になりました。必要な機能は全て外部からの供給にすることで、壊れにくく、メインテナンスも簡単な汎用型キャビンにすることもできるからです。
また、シンプルにすることで、キャビン自体の使い道が広がるというメリットもあります。キャビンに唯一付いている特徴的な装備・ロボットアームは、プログラムを書き換えるだけでさまざまな用途に対応できるという拡張性を意識したもの。飲み物などを注いでくれるコンシェルジュロボットにもなりますし、災害時には医療用ロボットに変身することもできます。この拡張性が電子レンジなど、特定の機能しか持たない装備とは決定的に違うところで、他にもまだまだ私たちの想像の及んでいない使い道があるかもしれませんね。さらに、もしキャビンを個人所有できれば、仕事に特化したオプションをつけたり、趣味に合わせた装備を追加したり、ユーザーの目的に合わせたカスタマイズを楽しむこともできそうです。

「ALICE SYSTEM」設計の軸となった、リアリティと拡張性。これは、世の中の皆さんとさまざまな活用方法を見つけていくための「余白」でもあります。ぜひ、万博だけで終わらせることなく、「ALICE SYSTEM」の可能性について今後も議論を深めていければいいなと思っています。
みんなで考えよう!
「ALICE SYSTEM」のある未来社会
「ALICE SYSTEM」の特徴は、公共交通システムの中にプライベート空間を確保できること。このプライベート空間を活用すれば、いろいろなことが劇的にチェンジする可能性を秘めています。皆さんはどんな使い方をしてみたいですか?
① みんなの「移動」が変わる!

「ALICE SYSTEM」があれば乗り換え不要。歩くのが大変なご高齢の方や車いすなどをご利用の方も、安心して行動範囲を広げることができます。また、小さなお子様連れでも、大切なペットと一緒でも、大量の荷物を持っていても、キャビンの中はプライベート空間なので移動時間そのものを楽しむことができます。誰にも気兼ねなく自分のペースで移動でき、これまでの制約からみんなを解放してくれる移動システム、それが「ALICE SYSTEM」です。
② 「働き方」が変わる!

キャビンの壁面は半透過式ガラスディスプレイのため、移動しながらのリモートワークやリモート会議もラクラク。出張時もプライベートジェットやファーストクラスのような環境で仕事に集中することができます。キャビンをオフィスにすれば、美しい景色を眺めながら仕事をしたり、パソコンを閉じると同時にビーチに到着なんてことも。世界を旅するフードトラック的な使い方もできそうです。移動しながら仕事をして、仕事終わりには目的地に到着している。「ALICE SYSTEM」はそんな未来の働き方を実現してくれるかもしれません。
③ 「災害対策」が変わる!

災害時に確保するのが難しいのが、避難所や簡易診療所などのクローズドな空間です。具合の悪い人がゆっくり休んだり、怪我をした人に衛生的な処置をするための場所が必要になりますが、「ALICE SYSTEM」のキャビンはプライベート空間であることに加え、リモートコミュニケーションシステムによる遠隔医療や、ロボットアームによる簡易的な手当ても可能。ロボットアームを国産初の手術支援ロボット「hinotori™ 」に付け替えれば、災害時医療の可能性がもっと広がりそうです。