電車、飛行機、船…、さまざまなモビリティがドッキングするアイデアは過去にもありましたが、Kawasakiはこれまでに培った陸・海・空の技術と知見を結集し、よりリアリティのある未来の公共交通機関を追求。それが、大阪・関西万博で披露した「ALICE SYSTEM(アリスシステム)」です。
陸・海・空のそれぞれの課題を知り尽くすKawasakiだからこそ、こだわった開発設計の裏側とは? 4回にわけてALICE SYSTEMを構成するモビリティの内、電車(ALICE Rail)、航空機(ALICE Aircraft)、船(ALICE Ship)の設計を担当した5名の技術者とALICE SYSTEMの発電ユニットの設計にも取り組んだ松田常務執行役員に聞きました。Part 1では、ALICE Railについて聞きます。
今あるものを活かし、新しい未来を実現する
「ALICE SYSTEM」に込めた設計思想
陸・海・空のモビリティを手がけてきたKawasakiだからこそ知り得る、現在の公共交通機関の素晴らしさと課題。どんなに新しい未来のシステムを発想しても、既存の鉄道レールや飛行場、船着場などのインフラが利用できなくては、製品開発や社会実装のコストは莫大なものになり、実現は夢物語になってしまいます。今あるものを活かしながら、未来の公共交通システムとして、これまでにない「移動しやすさ」や「快適性」を実現できないか? そんな問いから生まれた「ALICE SYSTEM」には、未来へのシームレスな移行までを見越したさまざまな設計思想が込められていました。
既存のレール幅・車両規格を前提にした「ALICE Rail」
ALICE Railは、プライベートジェットやクルーザー並みのプライベート性・快適性を追求した鉄道車両。乗客4名がゆったりくつろげるキャビンがそのままドッキングすることで、これまでにないハイグレードな移動体験を実現できる。キャビン利用者専用の食堂車両やラウンジエリアも完備し、車内共用部における快適さも追求。車体サイズは新幹線車両のフル規格を想定し、CO2 を排出しない水素エンジンで走行する。
「ALICE SYSTEM」全体を設計するにあたり、まず取り掛かったのが「ALICE Rail」です。既存のレールや車両規格の活用を前提に、キャビンを収めても十分に通行できる通路幅の設定からスタートしました。車いすを利用する方もストレスなく通れるように通路を90cm幅と定め、そこからキャビン自体の寸法や乗員人数を割り出しています。
「川重ハートフルサービス」※で働く車いす利用者の方たちへもヒアリングを行い、彼らの視点を大事に車両計画に反映しました。通路幅以外にも、出入口の大きさ、トイレや食堂車両にアクセスしやすい動線などに配慮しています。食堂車両の厨房の床を掘り下げてあるので、車いすの方も圧迫感を感じず、スタッフと同じ目線で注文して食事をお楽しみいただけます。
※川重ハートフルサービスは川崎重工の特例子会社で、障がい者の雇用を積極的に行っています。
キャビンのドッキングは、なるべく従来の鉄道の運用を妨げない方法で考えました。ALICE Railの停車するホームと反対側の道路から車体側面に向かって差し込む設計なので、キャビンを利用しない一般の乗客は今まで通りホームから乗降できます。
実際のところ、人が乗る駅とキャビンが乗る駅は分けてもいいと考えています。一度キャビンに乗り込んでしまえば、わざわざ普段使っている最寄りの駅でドッキングしなくてもいいわけですから。利用客の多い駅よりも、利用客の少ない簡単な構造の駅をキャビンのドッキング駅に改修する方が簡単かもしれませんね。
技術本部 技術戦略部
技術管理課
技術本部 技術戦略部
デザイン課
Part 2:かつてないラウンジエリアを搭載した「ALICE Aircraft」につづく!