「移動本能」を満たせ! 大阪・関西万博出展、未来のモビリティコンセプト誕生秘話

いつの時代も、人は移動することによって幸せを感じ、それを渇望する。
2025年開催の大阪・関西万博において、Kawasakiは「移動本能」をテーマにした2つのサステナブルモビリティを披露します。
移動本能研究所「Kawasaki Future World」という世界観で実物大展示されるのは、オフロードを駆ける四脚のパーソナルモビリティ「CORLEO(コルレオ)」と、公共交通のあり方を塗り替える「ALICE(アリス)システム」。
陸・海・空すべてのモビリティを生み出してきた125年以上の歴史に、ロボティクスと水素を掛け合わせた“未来の乗り物”はどのように生まれたのか? 万博推進課の3人が誕生秘話を語りました。

村上 敬祐 課長
川崎重⼯業株式会社
コーポレートコミュニケーション総括部
大阪・関西万博推進課 課長
村上 敬祐 氏
PROFILE

大阪・大阪・関西万博推進課を束ねる全体統括責任者。万博協会や他社との交渉を担う。

天辰 祐介 担当課長
川崎重⼯業株式会社
コーポレートコミュニケーション総括部
大阪・関西万博推進課
担当課長
天辰 祐介 氏
PROFILE

大阪・関西万博のプロジェクトリーダー。展示物や映像などのあらゆる制作を担う。

井上 健輔 氏
川崎重工業株式会社
社長直轄プロジェクト本部 近未来モビリティ総括部 
グローバルマーケティング&セールス部
兼 コーポレートコミュニケーション総括部
大阪・関西万博推進課

井上 健輔 氏
PROFILE

鉄道車両の設計を経て、サービスロボットのマーケティングや企画、営業に携わる。万博推進課では会場に展示しているALICE SYSTEM(アリスシステム)を担当。

まだ満たされぬ「移動本能」とは?
Kawasakiの考える未来のモビリティ

大阪・関西万博でKawasakiはどんな未来を披露するのか? 2021年から井上さんをはじめとする陸・海・空のプロフェッショナルたちが社内横断的に集結し、展示テーマを統括する村上さんや天辰さんが段階的にチームに加わりながら未来のモビリティについて議論を重ねてきました。

井上 健輔 氏
井上

万博への出展検討が始まった頃は、コロナ禍で世界中の人が行動制限を体験したあとでした。そんな中、「交通・モビリティ」分野で万博に参加するという話が進み、未来社会において輸送機器にはなにが求められるのか、というところから議論が始まりました。

天辰 祐介 担当課長
天辰

現代では、大航海時代のように危険を犯して移動しなくても生活は送れますし、直接その場所に行かなくても体験できることの幅が広がっています。それでも多くの人は旅に行くとワクワクしますし、「どこかへ行きたい」と望む気持ちは尽きることがありません。この理由なき移動への欲求はなんなのかと突き詰めていったとき、「移動本能」というキーワードに出会いました。人は移動することで幸福を感じるという学説もあるそうです。

もし、今満たされていない移動本能があるとしたら、それを今までにない移動の仕方で満たすことはできないか? そこから「移動本能」というテーマで展示の検討が始まりました。

KawasakiらしいFUN to RIDEの新しい形
王者の風格漂う「4脚型」新感覚オフロードモビリティ

人間の移動本能を満たすモビリティを、個人用・公共交通の2つの軸で考え始めた推進課メンバー。公共交通としては水陸両用電車、個人向けとしては携帯型パラシュートのようなアイデアもあったといいますが、まずはモーターサイクル愛好家に向けた新感覚モビリティの提案として、CONCEPT 01の「CORLEO」が誕生しました。

天辰 祐介 担当課長
天辰

「CORLEO」のカテゴリーを造語で表現すると「多脚型高機動マシン」です。新感覚の乗車体験が可能なモビリティを想像したとき、ホイールでできることは既に出尽くしている印象がありました。現在の二輪車でも山道をタフに駆け上がったり、ジャンプしたりできますが、それには高度な操縦テクニックが必要ですし、どうしても転倒の危険が伴います。

モーターサイクルを長年市場に提供してきた私たちとしては、そうした二輪車の障壁を取り除けばもっと「走る楽しさ」が広がるのではないかと考えました。ホイールではなく脚であれば、見た目からして「倒れなさそう」という安定感もありますから。

そうして形になったのが、オフロード向けの4脚型モビリティ「CORLEO」。ホイールではなく「脚」を採用することで、今まで行けなかった凸凹の地形でも誰もが安全に道なき道を走り抜けることができます。

天辰 祐介 担当課長
天辰

まずは足を何本にするかから検討し、最終的に4脚になりました。当初、モーターサイクルと同様に4脚でも世界最速を目指してみようという話が出て、フォルムに関しては自然界最速のチーターをモデルにする案もありました。しかし、人が跨った時のバランスを考慮してライオンに落ち着きました。まさに目指したのは、大自然の中を百獣の王に跨ってつき進む感覚です(笑)。

また、脚があるとどうしても自立した動物型ロボットに見えてしまいますが、あくまでもモビリティ。ライダーがマシンを主体的に操る楽しみを重視しています。スタイリングデザインにおいても、モビリティらしく見えるように何度も繰り返し練り直しました。

天辰 祐介 担当課長
天辰

操作方法も今までにないもので、CORLEOにはアクセルやステアリングハンドルがなく、主にライダーの重心移動で操作します。ハンドルと乗馬で使うようなあぶみを併せ持ち、モーターサイクルと乗馬の操作を融合させたこのアイデアは、現在数件の特許も申請中です。

ライディングポジションの決定には神戸大学の馬術部の皆さんにご協力を仰ぎ、実際に実物大モックアップに跨ってもらった感触を取り込みました。また、モーターサイクルのスイングアームのような機構も採用し、豊かな可動域の確保と、安定的な乗車姿勢の維持を目指しています。

村上 敬祐 課長
村上

CORLEOというネーミングは、フォルムの元になったライオンから連想し、獅⼦座のα星レグルスの別称「Cor Leonis(コルレオニス)」を元に付けました。大昔の人たちが星を目印に移動していたように、人の移動本能を満たすことができるモビリティにしたいねという課員みんなの想いを込めています。

今よりもっと親しみやすく、ストレスフリーな公共交通を生み出す

「移動本能」というテーマに対するもうひとつのアンサーが、Concept 02の「ALICE SYSTEM」。人が乗り込むキャビンが鉄道や船、飛行機などの輸送機器に直接ドッキングされ、乗換などのストレスなしに目的地まで運んでくれるという未来の公共交通システムです。

井上 健輔 氏
井上

現代の交通手段の中で移動本能を阻害しているものはなにか? というところから今ある公共モビリティの課題を見つめ直しました。たとえば、満員電車や大きな荷物を持っての乗り換え。ベビーカーを押して、あるいは足の不自由な方の乗り換えを伴う長距離移動。また、数日間旅行に行くために仕事の調整をするのが大変と、さまざまなストレスにさらされるケースが想定されます。

これらの課題を一気に解決してくれるのがALICE SYSTEMです。乗り換えなどの手間をなくし、移動中にも不自由なく快適に過ごせる公共交通システムができれば、あらゆる背景を持つ人々の移動本能を満たすことができます。陸・海・空すべてのモビリティを扱ってきたKawasakiだからこそ提案できる、実現可能性を考え抜いたアイデアになったと思っています。

ALICEの名前は、「Accessible Linkages for Innovative and Comfortable Experiences」の頭文字を取ったもの。直訳すると、「革新的で快適な体験のための利便性の高いつながり」。誰にとっても使いやすく感動のある公共交通システムの思想が表現されています。

井上 健輔 氏
井上

ALICE SYSTEMの特徴は、移動体験全体をサポートできること。「船旅がしたい」「鉄道で景色を楽しみたい」というような要望に合わせておすすめコースを提案してくれるので、旅慣れていない方でも遠出のハードルがぐっと下がります。

また、キャビンの座席には産業用ロボットの技術を応用したコンシェルジュロボットが付いていて、飲み物の用意など、きめ細やかなおもてなしを提供してくれます。もちろんネットワークやテレビ通話の環境も整っているので、移動時間をリモートワークに充てたい方も不自由なく過ごすことができます。

未来のモビリティを支える水素の可能性

CORLEOとALICE SYSTEMは、いずれも水素をエネルギーとしたモビリティ。Kawasakiが掲げる水素社会の未来像を体現すべく、水素発電機が搭載されています。

天辰 祐介 担当課長
天辰

動力には水素発電機「O’CUVOID(オキュボイド)」を使用しています。水素タンクを交換するだけでエネルギーを満タンにできる仕様です。ALICE SYSTEMではO’CUVOIDを使うことで、複数ユニットを連結させてパワーを増強させたり、不具合があればユニット単位で簡単に取り替えたりできるように設計しました。

村上 敬祐 課長
村上

私たちが2030年に目指す将来像として掲げる「グループビジョン2030」の中で注力しているのは、「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」という3つのフィールド。言い換えると、遠隔操作などを可能にする「ロボティクス」、私たちの暮らしを豊かにする「モビリティ」、そしてクリーンエネルギーとして期待される「水素」ということになります。

万博で描く2050年代の世界は、グループビジョンよりさらに20年も先のこと。その頃にはロボティクスやモビリティが水素で動くのが当たり前になっていると考え、「ロボティクス×モビリティ×水素」という川崎重工ならではの強みを活かして「移動本能」を表現しています。

大阪・関西万博で、あなたの「移動本能」を呼び覚ませ!

展示会場の世界観は、とある天才科学者の研究所をイメージした移動本能研究所「Kawasaki Future World」。夢洲会場では実物大モックアップで、バーチャル会場ではアバターの姿を借りてCORLEOとALICE SYSTEMを体験することができます。

村上 敬祐 課長
村上

CORLEOやALICE RailとALICE Cabinは、臨場感のある実物大展示にこだわりました。鉄道とドッキングしたキャビンの内部を覗くなど、実際のスケールを間近で体感していただけるようになっています。

村上 敬祐 課長
村上

また、会場に来られない方にも楽しんでいただけるよう、「未来のモビリティが活躍する未来の都市NEO OSAKAをマイクラで作ろう!」という特別キャンペーンも実施しました。ALICE SYSTEMを構成するさまざまなモビリティが活躍する街の姿を自由に発想してもらうという内容で、私の息子も「これやりたい!」って言っていました(笑)。優秀作品は万博会場でもお披露目する予定です。

天辰 祐介 担当課長
天辰

ほかにも、特設サイトでは「移動本能」のロゴデータなどを自由にダウンロードしていただけます。好きなデザインにカスタマイズしたり、お手持ちの画像と組み合わせたりして、会場以外でも「移動本能」を楽しんでいただけたら嬉しいですね。CORLEOとALICE SYSTEMは、Kawasakiだからこそ創造できたモビリティ。きっと万博に爪痕を残してくれると信じていますので、ぜひ会場で体験してください。

大阪・関西万博特設サイト『移動本能』
https://www.khi.co.jp/expo2025/ 

プロ山岳ランナー・上田瑠偉選手が語る
「CORLEO」の魅力とは?

開催直前の4月3日、夢洲会場のKawasakiブースでは、今回の展示全貌を初披露。メディアを招いた発表会には「CORLEO」のイメージモデルを務めるプロ山岳ランナー・上田瑠偉さんをお招きし、その魅力について語っていただきました。

プロ山岳ランナー

上田 瑠偉/RUY UEDA

1993年10月3日生まれ、長野県大町市出身。2014年の日本山岳耐久レースで大会記録を18分更新し最年少優勝。2016年はスカイランニングU-23世界選手権の優勝に続き、世界最高峰トレイルランニングレース「UTMB」のCCC®で準優勝。2019年、Skyrunner World Seriesにてアジア人初の年間王者。2021年、スカイランニング世界選手権で2冠達成。2022年、「Mt.Fuji ONE STROKE」でギネス世界記録を樹立。2025年3月の「第17回ハセツネ30K」では大会新記録で優勝。今、世界が注目する日本を代表するトレイルランナー。

CORLEOと一緒に山の感動を共有したい

自分の足で移動して、見たことのない景色を見に行きたい。この思いが、僕がトレイルランニングを続ける原動力になっています。だからKawasakiの「移動本能」というコンセプトは、まるで自分のためにあるような言葉に感じました。

CORLEOは百獣の王から着想を得ている通り、見た目もかっこいいですよね。流線型なので怖さは感じませんが、たくましい4本の脚には安定感を感じます。僕も太ももの太さには自信があるので、ぜひ競争してみたいです。

子どもと一緒に乗れるのもいいですね。今は娘を背負って山へ連れて行くこともあるので、CORLEOがいれば楽に、何より安全に山の感動を共有することができます。トレーニング時の移動に使えば、車では行けないルートを走破して目的地に到着できるので、時間短縮にもなりそうです。

もし自分好みにカスタムできるなら、ウェアと合わせてカラーリングを楽しんだり、娘をより安全に乗せるためのチャイルドシートを付けたりしてみたいですね。

また何より、動力が水素ということに驚きました。僕の競技は自然の中で行うものなので、美しい自然の景色を次の世代に繋いでいくためにも、自然と調和したエネルギーであることはとても重要だと思っています。

今、地球温暖化の影響などで、山岳スポーツの競技環境も厳しいものになりつつあります。美しい自然に出会いたいというのが僕の移動本能で、そのために厳しいトレーニングを続けているので、Kawasakiの水素技術にはこれからも期待していきたいです。

2025年の僕の目標は、7月に開催される「富士登山競走」で14年間破られていない大会記録を更新すること。「CORLEO」のイメージモデルの名に恥じぬよう、トレイルランで王者の称号を目指していきたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。

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