最高時速45ノットもの速度で航走する高速船「ジェットフォイル」。離島間の移動に必要不可欠な「空飛ぶ船」は、いかにしてその速度と安定性を実現しているのでしょうか。
離島航路に不可欠な船 25年ぶりの新造船
「離島航路になくてはならない船」といわれるのが、全没翼型水中翼旅客船「ジェットフォイル」です。タービンエンジンでウォータージェット推進機(ポンプ)を回して海水を噴射し、前後2組の水中翼に発生する揚力で海面から浮上して航走します。最高速力45ノット(時速83km)で、波高3.5mの荒波でも安定航走する。まさに「海を飛ぶ船」なのです。
元々、全没翼型水中翼旅客船は、米ボーイング社が航空機技術を水上に適用する目的で開発。1974年に旅客用が開発され、その時に「ジェットで、鋭く薄い翼を持つ」との意味から「ジェットフォイル」と命名されました。1987年に製造と販売の権利を川崎重工が受け継ぎ、国内では1989年から1995年までに15隻が建造されました。
そして2020年6月、25年ぶりとなる新造船が東海汽船に引き渡されます。船齢が36年を迎えた「セブンアイランド虹」の代替船で、新船の旅客定員は241人となる「セブンアイランド結(ゆい)」。大型客船では6時間かかる東京と大島を1時間45分で結び、ジェットフォイルの新たな歴史を刻みます。
ジェットフォイルの「心臓部」 推進機構
ジェットフォイルの推進機 構は、左右に配された2基のガスタービンと減速ギア、ウォータージェット推進機(ポンプ)からなります。ガスタービンはロールスロイス社製で、1基で2,794kWの出力があります。ウォータージェット推進機は川崎重工製の「カワサキパワージェット20」で、毎分2,060回転します。タービンの回転力を減速ギアを介してウォータージェット推進機に伝え、吸入した海水を後方に高圧で噴射して推進力を得るのです。また「フェイルセーフ(多重安全)の設計を取り入れ、片方の機構が停止してももう一方の出力だけで安全に着水・艇走ができます」(川崎重工業株式会社 船舶海洋カンパニー 技術本部 基本設計部 高速船設計課 菊野 信祐 主事)。
1分間にプール半分の水を噴射
後部水中翼の中央にあるのが海水吸入口。毎分180tの海水を吸入・噴射します。その量は一般的な25mプール(長さ25m×幅10m×深さ1.5m)の約半分の量に相当。吸い込んだ海水を高圧で噴射することで、わずか3分程で最高速45ノット(時速83km)に到達可能です。
コックピットはデジタル化
コックピットには最新型のデジタル液晶操作盤を採用している。
前部水中翼
前部水中翼は、フラップ部分が上下し、かつ主軸部分(フォワードストラット)が左右に回転。船長はヘルム(舵輪)と翼深度レバーを操作するだけで、後部水中翼のフラップと共に最適な進路変更を実現できます。
「海を飛ぶ船」のTake Off
翼走(よくそう)
約35ノットで船体は完全に海面を離れ、波の影響を受けない翼走状態に入ります。艇走から翼走に入るまでは約1~2分間、距離にして0.9~1.8km程度。最高速度で航走していても100mほどで停止できます。
離水(りすい)
水中翼を下ろし、加速を続けると翼に揚力が発生します。約15ノットで船体が浮き初め、約25ノットで離水します。
艇走(ていそう)
スピードは10ノット(時速18.5km)程度。水中翼は前後に引き上げることもできます。
ACSが担う「船酔いのない航走」
ジェッ トフォイルの揺れのない安定した航走を実現するのが、船の姿勢と動きを察知する8つのセンサーと自動姿勢制御装置「ACS」です。ACSにより常にピッチングとローリングなどの動揺を制御しており、乗り心地が良く船酔いをしません。
デザインカラーは 「TOKYOアイランドブルー」
「セブンアイ ランド結」の船体デザインは、東京五輪のエンブレムをデザインした野老朝雄氏が担いました。船体色は藍色の「TOKYOアイランドブルー」。その上に船名やロゴが白色で描かれています。また船体の色に合わせて内装も統一され、さらに車いすでも安心して乗船できるようバリアフリー対応になっています。
船舶海洋カンパニー
技術本部 基本設計部
高速船設計課
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技術本部 基本設計部
高速船設計課
主事