モーダルシフトの主役たち 川崎重工の機関車&貨車

公開日2017.01.31

モーダルシフトが加速している背景には、環境問題やトラックドライバー不足などの社会的課題が存在します。モーダルシフトで期待が大きいのが鉄道輸送。川崎重工は、機関車と貨車のリーディングカンパニーとしてモーダルシフトを支えています。

経営に貢献する物流戦略を支える

企業物流の戦略性が増しています。物流改革を通して在庫を減らし、コスト削減効果を高める一方で、国内貨物輸送量の9割を占めてきたトラック輸送がドライバー不足という構造的な課題に直面しているからです。

これを受け、国や運輸業界は、輸送手段を他の輸送機関に移す「モーダルシフト」を推進。その期待に応えるのが鉄道貨物輸送で、それを担える唯一の機関がJR貨物です。

日本貨物鉄道株式会社(以下、JR貨物) 鉄道ロジスティクス本部長の大橋 康利 取締役兼専務執行役員は、「輸送量は着実に増えています。地球温暖化防止のパリ協定が発効し、鉄道貨物輸送の環境貢献を荷主が積極的に活用しているのも一因です」と語ります。大橋取締役によれば、中長距離輸送では競合するトラック輸送事業者や航空会社などからも問い合わせが増えているといいます。

鉄道貨物輸送には、他にはない優れた特徴があります。10tトラック65台分の荷を一人の運転士で運べる「大量輸送性」と「低コスト性」、CO2排出量がトラックの9分の1という「環境性」、JR貨物の列車は1日に地球約5周分の距離を走りながらも定時発着率は世界最高レベルの約95%を実現している「定時安定性」など。ユーザーからは、「入庫・出庫計画を立てやすい」「コンテナサイズが多彩なので、さまざまな荷姿に対応でき、積載率を上げられる」といった声も寄せられています。

鉄道貨物輸送の拡大は不可逆的な流れといえるでしょう。それは、競合する企業同士が商品を混載輸送したり、大手量販店が取引先企業の商品を一体的に取りまとめ、鉄道輸送に切り換え物流の総コストを削減しようとするなど、従来の常識では考えられなかった物流効率化への取り組みが相次いでいることからも分かります。

鉄道貨物輸送の安全性や高速性、定時性などを支えている縁の下の力持ちが、機関車貨車。JR貨物は現在、全国で7,967.9㎞の営業路線に電気機関車430両、ディーゼル機関車160両、コンテナ貨車7,243両を投入している他に私有貨車が1,883両あります(2016年4月1日時点)。

大動脈である東海道・山陽本線や日本海縦貫線を走る「EF210」、「EF510」の電気機関車や、貨物電車の「M250」、また厳寒の北海道で活躍する機関車の「DF200」などはいずれもJR貨物と川崎重工が共同で開発、製造してきました。他社製の機関車についても、台車のすべてが川崎重工製です。

川崎重工は貨車でも、空気圧だけではなく電気式ブレーキに対応する最新の「コキ107」を製造。名実共に機関車と貨車の開発・製造においてリーディングカンパニーとなっています。

鉄道貨物輸送の優れた特徴

全国約8,000kmの鉄道網に、毎500本の貨物列車を運行。1日当たりの走行距離は19.3万kmで、地球の約4.8周分に相当します
日本で一番長い距離を走る貨物列車は、札幌貿易ターミナル駅と福岡貨物ターミナル駅を結ぶ貨物列車で、その距離2,130km。37時間で結びます
貨物列車の1編成あたりの輸送能力は、最も長い26両編成で約650t。10tトラック65台分に相当します
鉄道輸送は中長距離を得意とします。コンテナの平均輸送距離は約900km

世界最高レベルの機関車と貨車をつくる

発注者として機関車や貨車の品質管理を担っているJR貨物 鉄道ロジスティクス本部 車両部の山本 直人 グループリーダーは、「私たちがメーカーに求める仕様基準は、非常に高いレベルだと思います」と語ります。

輸送事業者として安全・安定運行が求められるのは言うまでもなく、またJR貨物が旅客会社の路線を借りて運行していることも理由のひとつ。各社の列車運行の合間を縫って走る過密ダイヤのなかで輸送サービスの向上を図るには、機関車と貨車の両方に高速走行性能と故障の少なさが求められます。連結されている貨車の1両が故障するだけで列車は止まり、線路寸断と同じ打撃を受けます。大量輸送だけに社会的な影響も大きなものになります。

またJRの在来線では、軌道や橋梁の強度的な制約から、車両の軸重(ひとつの車軸によりレールにかかる車両の重さ)を16.8tに制限。海外では、車両の軸重が20tを超えている国もあります。

「狭軌、勾配やカーブが多い国土地形、天候の違いなど、さまざまな制限や技術課題がありながら、最大1,300tの貨車と荷を引く機関車や、それに耐えられる貨車を実用化している国などありません。日本の機関車と貨車は世界最高レベルにあります」(山本グループリーダー)

JR貨物の拠点駅のひとつである東京貨物ターミナル駅(東京都品川区)

川崎重工で機関車や貨車の開発と設計を担っている川東哲也基幹職は、「機関車では総合性能の極大化、貨車では最高品質の実現をめざしています」と語ります。

機関車では例えば、「国鉄最強の電気機関車」と言われた「EF66」の後継機であるEF210は、「30分定格出力」という考え方を投入しました。一定時間に出せるフル出力が定格出力で、通常は1時間当たりで示します。実際EF210も「1時間定格出力は3,390kW」です。しかしEF210は同時に、「30分定格出力3,540kW」と1時間よりも強いパワーを発揮します。

これは東海道・山陽本線で補助機関車を必要としない最大の山越えである関ヶ原の勾配区間に対応したもの。つまり路線の勾配による機関車の入れ替えをなくした柔軟な運用を技術がサポートしたのです。そのためのVVVFインバータ制御や三相交流誘導モータの活用など、総合性能の向上が図られてきました。

また機関車の台車は、「万が一があってはならないもの」であり、剛性や耐性、ギア技術などのあらゆる機械技術が結集されています。JR貨物で新製しているすべての機関車の台車が川崎重工製であるのも、「長年の開発で培われた技術的なノウハウが集約されているからに他なりません」(山本グループリーダー)

「コキ107」貨車の製造過程(川崎重工播磨工場)

A-1. 台枠溶接
荷台となる台枠。「台枠総組立溶接」では、切り出された鋼板や鉄材を溶接でつないでいきます。台車を受け止める「枕はり」部分ではロボット溶接も活用されています。
B-1. 台車製造
鉄鋼メーカーから届けられた車輪、車軸などの基本部品です。
A-2. キャンバー計測
荷台となる面の溶接時に発生した歪みなどを測定して弓なり状に加熱修正。川崎重工のノウハウがあってこそ成せる技です。
B-2. 台車艤装
台車にブレーキや配管を施して完成。安全に直結する一番気をつかう作業です。
A-3. 台枠艤装
台枠にコンテナの止め金具(緊締装置)や連結器、手動ブレーキなどを艤装していきます。
完成
台車の上に台枠を乗せて貨車が完成。これで荷重40.7t、自重18.6t、時速110km走行が可能なコキ107が完成しました。

輸送サービスの充実に貢献するものづくり

一方、新製の貨車を見ると、素人目で見てもキャンバー(車体台枠中央部の盛り上がり)があるのが分かります。コンテナの荷重を吸収して貨車の安定性を高めるためです。また貨車は箱形の客車とは違い二次元の平面に近い構造であり、コンテナを積載している時としていない時では全体の重さが変わり、載せていない時は安定性が悪くなります。それを高速で走らせる際の安定性の確保も考慮されています。

貨車は単純な構造に見えても、安全運行や新技術を盛り込むための微妙な加工や組立など、ものづくりの力が遺憾なく発揮されているのです。

モーダルシフトでは、海運コンテナの鉄道輸送への直接の積み替えがサービス拡充の節目になります。しかし、海運コンテナは背高なので貨車に載せると車両限界を越えることから、路線拡充の壁になっています。「床面高さを下げる貨車の開発が必要です。貨車全体の構造見直しなど多くの技術課題があり、知見をフル動員して開発に取り組んでいます」(山本グループリーダー)

川東基幹職は、「故障が少なく、保全作業が簡単で回数も減らせる。つまり、安定した性能を長く発揮できる機関車や貨車の開発は、お客さまのビジネスの拡充を側面から支えるものであり、お客さまのニーズを十分に把握する作業に力を注いでいます」と語ります。

川崎重工でJR貨物への営業を統括する吉澤基勝営業部長は、「過酷な運行環境のなかで30年も40年も使用できる機関車や貨車をつくるのは、JR貨物様とメーカーの蓄積された努力の結果であり、その価値をもっと世の中にアピールしたい」と語ります。

その上で、鉄道輸送という公共的な使命を支えるために、「確固たる信頼関係を築き、万全の品質確保に注力する。機関車・貨車から新幹線車両、並びに陸海空の幅広い輸送機器メーカーとして、総合力で貢献していくのが川崎重工の責務だと思っています」と語ります。

川崎重工が日本で初めて電気機関車の国産化に成功したのは1924年(大正13年)のこと。故障が少なく、外国製にも劣らない品質が確認されました。以来、時代の課題に応えていくための挑戦が止むことはありません。

充実のネットワークとサービス

JR貨物による鉄道貨物輸送サービスは、全国150か所のコンテナ取り扱い駅を結んだネットワークで主に以下の点で強みを発揮し、顧客のニーズに応えています。

  • 中長距離の輸送でコストメリット
  • BCP(事業継続計画)対策に最適
  • 高い安全性と定時性
  • 片道輸送でご利用が可能
  • 貨物のコンテナ一時保管サービス
  • 用途・貨物に応じたコンテナラインアップ
10tトラックにそのまま乗せられる31フィートコンテナ

また、陸上輸送と海上輸送を一体にした「Sea & Rail」では、すでに国内ネットワークだけではなく韓国、中国への路線網を構築済みです。近年ではトラック運転手の不足、長距離運行における規制強化などから、より安定的に輸送手段を得る目的として、モーダルシフトを検討するケースも増えています。

鉄道コンテナ輸送の仕組み

集荷先から駅、駅から配達先までは利用運送事業者が輸送を担当し、door to doorの一貫輸送を実現しています
日本貨物鉄道株式会社
鉄道ロジスティクス本部長
取締役兼専務執行役員
大橋 康利

モーダルシフトのさらなる変化へ。「キーパートナー」として期待

モーダルシフトを加速させるのは、一企業の利害を超えて、環境やエネルギー問題に資するための重要な取り組みであると考えています。

そのためにJR貨物では、10tトラックにそのまま乗せられる31フィートコンテナの開発や輸送量が多い路線のダイヤの拡充、大口ではないが物流改善を望んでいらっしゃるお客さまへの利用促進策の制定、集配体制の整備、さらに東京貨物ターミナル駅での大型物流施設の建設など、さまざまな形でのサービスの充実に努めています。

お客さまが求めていらっしゃるのは、「安全で、安定して、速く、そして安く」荷物を運べることです。この期待に応えるための重要な取り組みのひとつが、機関車や貨車の開発です。すでに幹線では最高時速110㎞を実現していますが、これは川崎重工さんが私たちと共に実現に努力してくれた成果でした。

もちろん課題は尽きません。高速機関車や、交流と直流のどちらの路線でも走れる全国統一型の交直両用機関車の開発、IT活用を含めて運転士がより安全に運転できる「人にやさしい機関車」の開発を期待しています。

川崎重工さんは、新製車の開発では斬新な提案をしてくれる一方、トラブル発生時にはごまかしのない誠実な対応をしてくれています。その姿勢は、私たちのビジネスをしっかりと支えてくれています。

今後JR貨物は、海外での貨物輸送網の構築に協力していく方針です。その際には、「キーパートナー」として現地の人のための機関車や貨車の開発に一緒に取り組んで欲しいと考えています。

日本貨物鉄道株式会社
鉄道ロジスティクス本部
車両部
グループリーダー(品質管理)
山本 直人
川崎重工業株式会社
車両カンパニー
技術本部
設計部
第一設計課
基幹職
川東 哲也
川崎重工業株式会社
車両カンパニー
営業本部
東部営業部
部長
吉澤 基勝
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