川崎水冷媒ターボ冷凍機

公開日2016.01.31

エアコンが部屋を冷やしたり暖めたりできるのは、熱エネルギーを運ぶ 「冷媒」 があるから。 しかし冷媒の 「特定フロン」 は、オゾン層破壊と地球温暖化を招くので2020年までに全廃されています。 代替フロンは不燃性で使いやすいものの、大気中で分解しにくいため温室効果はなくなりません。そこで川崎重工は、非温室効果ガスでオゾン層破壊係数ゼロ、燃焼性や毒性もない「水」を冷媒にした冷凍機「川崎水冷媒ターボ冷凍機」を日本で初めて開発しました。

究極の冷媒、「水」を使う

常温・常圧で気体であるフロンに対して水は液体なので、蒸発・凝縮させるには圧力を低くし、蒸発器と凝縮器の圧力比を大きくしなければなりません。また、冷媒の体積流量が100倍になるため、大型の圧縮機が必要になり冷凍機は大きくならざるを得ないという問題がありました。

冷凍機のスペース効率は、オフィスや工場の生産性を左右する重大問題。そこで川崎重工は、圧縮機を回すための高速回転モータと、ガスタービンや蒸気圧縮機で磨かれた流体解析の技を活用した圧縮機を独自に開発して圧力を高めることに成功しました。冷凍機内部の機器のレイアウトも工夫し、同じ冷凍能力で従来機と同レベルの大きさを実現しました。

冷凍機の冷凍能力は100冷凍t(352kW)。冷却性能評価指数(COP)は5.1で、これはフロン系冷媒冷凍機と同等レベル。それでいてフロン排出量はゼロです。15年間の稼働想定で575tのCO2排出量削減につながります。しかも水冷媒なので高圧ガス保安法の対象外であり、メンテナンス費用も大幅に削減されています。

2013年から神戸工場に設置している実証機は順調に稼働しており、運用を通じた設備導入からオペレーション、アフターサービスに関するノウハウの蓄積が進んでいます。

2015年4月からは「フロン排出抑制法」が施行され、フロン冷凍機を使う事業者には年に1回の定期点検が義務づけられました。その費用は年数百万円になる事業所もあり、「環境にもコストにも優しい」水冷媒ターボ冷凍機に注目が集まっています。

水冷媒ターボ冷凍機の仕組み

高い山の上では水が早く沸騰するように、水は低圧であるほど低い温度で沸騰して蒸気になります。「川崎水冷媒ターボ冷凍機」では、蒸発器内は0.9kpa(約100分の1気圧)の低圧で冷媒の水を6℃で蒸発させ、12℃で戻ってきたパイプの中の水を7℃まで冷やします。オフィス内などでは、この冷水で冷風をつくり冷房します。

一方、蒸発器から流れてくる低温・低圧の蒸気は、ターボ圧縮機により昇圧され(6.3kpa)凝縮器で冷やされて液体に戻り、蒸発器に環流されます。「川崎水冷媒ターボ冷凍機」では、7倍の圧力比を実現するために圧縮は2段階で行われています。

Kawasakiの技!2段階方式による圧縮機

蒸発器の圧力は、約100分の1気圧という低圧。さらに冷媒である水の体積容量が大きいので圧縮機も大きくなります。

この条件下で圧縮機の性能を高めるために、羽根車の枚数や形状などを工夫。さらに圧縮を2段階で行ったり、2段階の圧縮途中に中間冷却器を置いて後段の凝縮器での温度上昇を抑えるなどの技術で、コンパクトで高性能な冷凍機を実現しました。

Kawasakiの技!新開発の高速回転モータと圧縮機

高速回転して高い圧縮能力を発揮する独自開発の高速回転モータ。磁気を緻密に制御して回転速度を速めました。

モータは圧縮機と一体になっており、冷媒雰囲気の中にモータを置く形になっています。このためモータの巻き線には樹脂による防水・絶縁がなされています。

圧縮機に直結しているので増速機を不要にし、オイルレス化も実現しました。

凝縮器

圧縮された冷媒は6.3kpa(16分の1気圧)まで昇圧され高温になりますが、凝縮器の30℃のパイプに触れて液体に戻り、蒸発器に環流します。

蒸発器

蒸発器内の圧力は0.9kpa(約100分の1気圧)という低圧に保たれています。ここで冷媒(水)は6℃で蒸発し、配管内の水を7℃にしてビル内などに送り出します。

装置内は真空

モータを装置内部に納め、圧縮機と直結することで外部からの空気の漏れ込みを最小にしました。蒸発器、凝縮器、圧縮機、モータなどの主要構成機器は真空容器内にパッケージ化されています。

制御盤

制御盤にはカラーのタッチパネル方式を採用。視認性がグンと高まっています。

冷却水配管フランジ

凝縮器内の配管を流れる水の出入口。30℃で入り、35℃で戻り、冷却塔へと回ります。

冷水配管フランジ

ビル内のエアコンで使う冷水の出口と、戻ってきた水の入口。

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川崎重工業株式会社
機械ビジネスセンター 空力機械部
ブロワ設計課
主事
坂本 隼人

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