川崎重工グループは、重工業界としては初めてISO14021に準拠した「Kawasakiグリーン製品」を選定する制度を導入。その第1回として10件の製品を発表しました。製品性能と生産現場の両方での環境貢献を評価する、まさに、これからの持続発展可能な社会における製品の総合力強化をめざす試みです。今回選定された製品の1つである中型多用途双発ヘリコプター「BK117」の現場から、新たなイノベーションへの挑戦を探ります。
人と環境に配慮したヘリコプター
「Kawasakiグリーン製品」は、川崎重工が生み出すさまざまな製品の環境への貢献を、製品性能と生産現場という2つの視点から客観的に評価し、審査しています。いわば、「持続発展可能な社会における製品の総合力」が評価されるのです。
第1号登録となった10件は、蓄電池やガスタービンなど多様な分野にわたっていますが、なかでも目を引くのが、中型で最大離陸重量が3tクラスでは「世界的ベストセラー機」と言われる高性能多用途双発ヘリコプター「BK117 C-2型」機。警察、消防、報道での利用の他、今やドクターヘリの主流になりつつあるヘリコプターです。
医療機器や医薬品を装備・搭載し、医師も乗り込み救急医療にあたる「ドクターヘリ」は現在、国内では43機が運用されています(2014年1月時点)。そのうち17機、4割を占めているのが川崎重工の「BK117」です。特に2001年に登場した「C-2型」は14機あります。なぜ「C-2型」がドクターヘリとして支持されるのか。その最大の理由は、「人と環境に配慮したヘリコプター」である点にあります。
まず、ドクターヘリと呼ばれるにふさわしい安全性能。エンジンを2基搭載する双発機なので、万が一、一方のエンジンが停止しても飛行を続けることができます。操縦装置の油圧系統や電気系統も二重になっており、どちらか1系統が故障しても操縦には支障がないなど、細やかなフェイルセーフ技術が組み込まれています。
さらに機体後部には大きな観音開きのドアがあり、ストレッチャーに患者を乗せたまま容易に搭載できます。床面積は、旧型機に比べて35%も拡大されており、各種の医療機器を装備した状態で、操縦士の他に患者2人を含めて5人の搭乗が可能です。航続距離は700kmと長く、多くの医療機器や人員を乗せて救急現場に直行できる点も、信頼の源になっています。
「C-2型」は環境にもやさしく、その機外騒音は、航空法の基準の半分で、同クラス機では、世界でトップクラスの静かなヘリコプターです。旧型機よりメインロータの形状を最適化し、回転数の制御も見直した結果、緊急出動時の離着陸においても周辺地域への騒音発生を大幅に緩和することができました。また、胴体の形状を見直すことにより、空気抵抗を削減し、速度と燃費を改善させています。
機体の塗装処理では、発がん性のある六価クロムを使わない防錆処理の手法を開発。機体部品の接合部をつなぐシーラントにも、六価クロムフリーの素材を採用するなど、環境負荷の低減策が追究されました。また、製造の現場でも最終処分率1%以下のゼロエミッションを継続したり、組立工数の削減による製造エネルギーの削減率を15%にまで拡大したりもしています。
Composite Cockpit Greatly Reduces Weight
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「BK117 C-2型」は、航空機としての優れた安全性、広いキャビンの実用性、使う人・造る人それぞれにやさしい環境性の3つを兼ね備えたヘリコプターだからこそ、ドクターヘリとして高い評価を得る一方、「Kawasakiグリーン製品」の考え方を具現している製品と言えるのです。
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安定した技術を生かしつつ新たな挑戦を加味する
「Kawasakiグリーン製品」は、持続発展可能な社会における製品の総合力そのものです。では、人と環境に配慮したヘリコプター「BK117 C-2型」は、どのように造られているのでしょうか。
「C-2型」は、岐阜県各務原市にある川崎重工岐阜工場で造られています。部品は、共同開発先のエアバス・ヘリコプター・ドイツ(AHD)社と分担で製造し、それぞれが本機を組み立てています。両社によるBK117シリーズの累計納入数は、初号機から約30年で1,187機を数えます(2014年3月時点)。「C-2型」は、BK117シリーズでは7代目となるヘリコプターです。
「C-2型」は、モデルチェンジの開発が始められてから4年半で実用化されました。川崎重工 航空宇宙カンパニー ヘリコプタ設計部 計画二課の加藤 浩哉 課長は、「川崎重工とAHD社は、信頼性や安定性など証明された技術を生かしつつ、新たな技術も加味する開発手法を共有することで、先端技術をいち早く盛り込める新型機の開発体制を整えています」と語ります。
例えば、同クラスでは世界トップクラスを誇る静粛性は、さまざま要素技術を持ち寄ることで実現しました。ポイントは、メインロータの形状とロータ回転数制御、それぞれの最適化にあります。
川崎重工 航空宇宙カンパニー ヘリコプタ設計部 計画二課の寺澤 孝之 基幹職は、「ヘリコプターは空気をかき回して飛ぶので機体が重くなると、より大きな力が必要になります。ヘリの騒音は機体の重さに大きく左右されます」と解説します。
「C-2型」ではまず、旧モデルから胴体幅を13cm拡大する一方で、前部キャビンフレームに複合一体成形品を採用。カーボンフレームを採用して単位床面積当たりの重量比を旧モデルより約25%も軽量化しました。軽量化は有効搭載重量の増加につながり、燃費を向上させ、航続距離も伸びるトリプルメリットを生みます。
その上でさらに、メインロータブレードの形状の変更と、ロータの回転数制御技術の改善がなされました。「その結果として飛行中、特に高度が低いときには、メインロータの回転数を下げて離着陸時の機外騒音を大幅に低減しました」(寺澤基幹職)。その実績値は、航空法が定める騒音基準の半分です。
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環境に配慮した機体防錆技術
世界に先駆けて盛り込まれた六価クロムを含まない塗装下地材による防錆手法の開発も「Kawasakiグリーン製品」審査では、重要なポイントになりました。
機体となるアルミには、錆びを防ぐために「プライマー」という塗装の下地材が塗られます。従来は六価クロムを含むプライマーが最も効果があるとされてきましたが、EU当局の指令もあり、六価クロムフリーのプライマーの開発が世界的に急がれていました。
錆の発生や錆の広がり方などの各種の試験を経て、六価クロムを含む下地材同等以上の効果がある素材を特定。しかも、この素材は溶剤の使用量が少ないので作業の安全性も高まりました。
ですが、一つだけ問題がありました。新しい下地材の主成分である樹脂の硬化反応が進みやすく、表面塗装をする段になると、塗装材とプライマーがなじまず、表面塗装がパリパリと剥がれてしまうのです。
開発チームは2年ほどかけて、新しい下地材の活用には温度帯の管理が決め手になることを突き止めました。これにより表面塗装の剥離をなくすことができ、一連の塗装・管理手法が川崎重工のノウハウとなって残されたのです。
当時、研究部材料技術課長として開発に携わった川崎重工 航空宇宙カンパニー 技術企画管理部 技術計画課の後藤 淳氏は、「航空機は安全性が第一なので、下地材一つをとっても確かな代替品質がないと技術交代は進みません。私たちには設計責任があるので、『これなら大丈夫』というところまで開発を究め、自らのノウハウとしていきたい。各種の規制を先取りした開発への取り組みは、当社の優位性を確保することにもつながります」と思いを語ります。
プライマーのクロムフリー化
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それぞれの改善は目立たぬものでも、地道な改善の積み重ねが、ドラスティックな環境性能へと結実しています。「Kawasakiグリーン製品」は、たゆまぬ改善と革新への努力を物語るものでもあるのです。
業界トップレベルの9製品を含む10製品を「Kawasakiグリーン製品」登録
重工業界では初のISO14021準拠の「Kawasakiグリーン製品」。6つの評価項目中、1つでも業界トップレベルだと「Kawasakiスーパーグリーン製品」に登録されます。
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制御装置を介さずに、き電線にニッケル水素電池「ギガセル」を直結することで、高い負荷応答性能が要求される鉄道用システムに強みを発揮する安全性に優れた蓄電システム。鉄道保安用システムへの誘導障害を発生せず、高い省エネ効果でCO2削減にも寄与します
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圧縮機やタービンの流路形状変更、構造面などの改善により高効率化を実現すると共に、低NOx保証を実現するDLE(Dry Low Emission用ガス)燃焼器を採用している発電タービン。前モデルに比べ発電効率を2.4%向上させ、業界トップクラスのNOx排出量35ppmを実現しました
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クリーンな天然ガス燃料を使用し、燃焼室形状の最適化、希薄燃焼化、制御システムの最適化などによりクラス世界最高水準(2014年4月1日時点)の49.5%の発電効率、200ppm以下の低NOx排出量を達成したガスエンジン。運転範囲も30~100%と広く、部分負荷でも高い発電効率を実現しています
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インバーター制御式高速電動機のロータ軸端に羽根車を直接に取り付けた構造で、磁気軸受により浮上したロータが機械的に非接触状態で高速回転する下水曝気用の新型ブロワ。磁気軸受式高速電動機の採用により高効率で潤滑油や冷却水が不要です。低騒音・低振動も特徴
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既存のセメント製造設備にごみ焼却設備を併設し、セメント製造工程とごみ処理工程を一体化させ、ごみの持つ熱エネルギーや焼却灰をセメント生産に有効利用。排熱発電設備の出力は6~8%向上しました。灰処理設備も不要に。ごみ焼却設備の単独設置に比べ必要機器点数を70%低減しています
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オゾン層破壊係数ゼロ、非温室効果ガス、燃焼性・毒性なしなど抜群の環境性能を持つ水を究極の冷媒として採用したターボ冷凍機。高圧力比・高性能新型圧縮機の採用によりフロン冷凍機並みの性能を発揮し、コンパクト設計により既存冷凍機との置き換えも可能です
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エンジンは、低~中速域の性能向上と燃費効率向上を両立。前モデルから排気量を37cm3アップして出力を引き上げる一方、燃費は3%改善。先進のサスペンション、車体系の電子制御、環境負荷の少ない外装など、安心して高性能を楽しめるモーターサイクルです
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油圧ショベルを中心に建設機械に広く採用され、高効率・低騒音・コンパクト・高信頼性という市場要求に応えた油圧ポンプ。前モデルに比べ、ポンプ効率は1.5ポイント向上。騒音レベルは3db(A)低減し、世界トップクラスの環境性能を持ちます
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生産設備のトータルコスト削減や効率化のために、省スペース、密集配置、生産効率向上を可能とする軽量で、スリム、高速、コンパクトなスポット溶接ロボット。据え付け面積は業界クラス最小。手首ケーブルの内蔵により高密度配置を容易にしています
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独AHD社と共同開発/分担製造/組立を行っている高性能多用途双発ヘリコプター。航空法の静粛性基準値より約50%の低騒音を達成し、同クラスのヘリコプターとして世界トップクラスの低騒音を実現。複合材キャビンフレームの採用で軽量化も実現しています
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理事
地球環境部長
(工学博士)
「Kawasakiグリーン製品」は、これからの持続発展可能な社会に大きく貢献していきます
川崎重工グループは2014年度から、環境に優れた配慮がなされた自社製品を「Kawasakiグリーン製品」として外部に公表する制度を開始し、その第1回の適合製品10件を発表しました。今後、グリーン製品に登録された製品には、環境への配慮内容を記載した「環境ラベル」が付与されます。
川崎重工グループでは、環境ラベルのための国際的規格であるISO14021の規定に沿って製品の評価を行い、「グリーン製品」であるかどうかを決定します。ISO14021の活用による環境ラベルは、重工業界では初の取り組みとなります。
具体的には、①製品性能、②生産現場における環境管理活動の2分野で計6項目について評価を行います。6項目のすべての実績値が、業界標準を超えるものがあれば「Kawasakiグリーン製品」に選定し、その上で1項目でも世界一のものであれば「Kawasakiスーパーグリーン製品」とします。
審査は、事業部門(カンパニー)から申請された製品について本社の関連部門長の他、各事業部門の開発部長,技術企画部長など代表が一堂に会する「グリーン製品評価部会」で詳細に評価した後、社長以下の経営メンバーで構成する「グリーン製品委員会」で最終審査を行います。将来的には、より透明性を高めるために外部アドバイザーの設置なども検討しています。
この制度は、川崎重工グループのグループミッションである「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」を具現化する取り組みです。同時に、製品性能と生産現場の2分野をベースとするだけに、これからの持続発展可能社会における製品の総合力が評価されており、現在、当社が注力しているROIC(投下資本利益率)経営での製品競争力の一層の強化も狙いとしています。
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航空宇宙カンパニー
ヘリコプタ設計部
計画二課
課長
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航空宇宙カンパニー
ヘリコプタ設計部
計画二課
基幹職
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航空宇宙カンパニー
技術企画管理部
技術計画課
課長