HySE-X1
ダカールラリー2024を
駆け抜けた軌跡
水素エンジン小型モビリティ技術を
加速させるため、
世界一過酷なモータースポーツへ
2023年10月、カワサキが参画する水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE」は、2024年1月開催の伝統あるレース「ダカールラリー」に参加を表明。次世代パワートレイン開発を促す新カテゴリー“Mission 1000”出場に向け、水素エンジンバギー「HySE-X1」を急ピッチで完成させていく。そして迎えたダカールラリー、HySE-X1は長く厳しい戦いを乗り越え、見事最終ステージのフィニッシュゲートまで辿り着いた。
AboutHySE-X1とは?
カワサキモータース株式会社、スズキ株式会社、本田技研工業株式会社、ヤマハ発動機株式会社の4社で2023年5月に設立し、川崎重工とトヨタ自動車株式会社が特別組合員として加わっている「HySE(水素小型モビリティ・エンジン研究組合)」。各社の共同研究の下、クロスカントリー界で定評のあるオーバー・ドライブレーシング社が制作したシャーシを活用して開発された水素エンジン搭載バギーが「HySE-X1」である。Ninja H2シリーズに使用されているスーパーチャージドエンジンを水素燃料用に改造したエンジン、3本の水素タンク、および水素燃料供給システムを搭載し、過酷な状況下でのデータ収集を目的として開発された。
Race Report限界を超える挑戦
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1. 事前テスト~セレモニアルスタート
HySE-X1は2023年8月から開発に着手。同年11月に初走行テストを行うも、トラブルにより短い距離しか走れずテストは終了してしまう。
年明けのダカールラリーまでに残された時間は、あとわずか。各メーカーが一丸となってトラブルの原因究明にあたり、新たなパーツなどを投入してマシンをアップデート。レース開催地のサウジアラビアで行われた直前テストでも改善を重ね、信頼性を高めてゆく。
ドライバーには、アメリカで4輪バギーのレース参戦に加え、車両開発にも携わってきたジェイミー・キャンベルを招聘。ナビゲーションを行うコ・ドライバーは、ダカールラリーをはじめクロスカントリーラリー経験が豊富なブルーノ・ジャコミーが担当。車両の走行データ収集には最適のコンビを揃えた。
そして、2024年1月5日にダカールラリーが開幕。HySE-X1は初日のプロローグステージを無事走り切り、セレモニアルスタートの壇上に立つ。ここに、水素モビリティの新たな挑戦の幕が切って落とされたのである。 -
2. 前半戦:ステージ1~ステージ6(1月6日~12日)
大会2日目のステージ1から、本格的なレースが始まった。
HySE-X1が出場する“Mission 1000”カテゴリーは、水素エンジンを搭載したHySE-X1をはじめ、EVやバイオ燃料ハイブリッド車両といったサステナブル車両の参加が可能。開発が主目的で純粋な競技ではないのだが、参加者のモチベーションを高めるため、各ステージの完走率とステージ毎に設定された基準タイムとの差でポイントが与えられ、獲得したポイントの合計で順位が決まるシステムになっている。
ステージ1からステージ4まで、HySE-X1は砂丘など柔らかい路面での激しい燃料消費に悩まされながらも、各ステージを完走。また、今までの連続運転距離を更新するなど、テスト時を超える走りもみせた。
リエゾン(移動区間)のみのステージ5を経て、前半戦最後のステージとなるステージ6へ。全区間が砂丘という過酷な路面状況の中、想定以上の燃焼消費でコースのショートカットを決めるが、その直後に車両が砂にはまりスタックしてしまう。 -
3. 休息日(1月13日)
大会半ばに設けられている休息日は、ドライバーとコ・ドライバーにとっては体をしっかり休めるための、スタッフにとっては車両をしっかり整備・修理するための重要な1日である。
ステージ6の砂丘から前夜遅くに回収されたHySE-X1は、朝にビバーク(ラリー参加者が集うキャンプ地)に到着。そこから丸1日かけて分解・整備・修理を行い、車両は万全の状態に回復。前半戦の走行データをもとに、残りのステージの走行計画も見直された。
なお、現地における水素の補充(給水素)については、移動式の水素ステーションが“Mission 1000”に帯同した。 -
4. 後半戦:ステージ7~ステージ12(1月14~19日)
HySEチームは、守りに入らず「行けるところまで行こう」と、メンバー全員の意見が一致。後半戦も、HySE-X1は積極的な走りを展開する。
今大会の最長距離となるステージ7では、シビアな燃料管理を行うも、柔らかい砂路面の影響やコースミスにより、終盤で燃料が尽きてしまう。
続くステージ8は固い路面のやや短めなコース。ジェイミー&ブルーノ選手が攻めのドライビングを披露し、“Mission 1000”四輪車の中でトップフィニッシュ。ボーナスポイントも獲得した。
ほぼ全編が砂地のステージ9では、想定以上に燃費が悪化し、ステージ7に続き再び苦戦を強いられた。
ステージ10~12は距離が短めだったこともあり、HySE-X1はペースを上げて各ステージを駆け抜ける。また、コース状況に問題ない時は高負荷運転をドライバー達に依頼するなど、走行データのバリエーション収集にも努めた。さらに、最終12ステージでは全区間をほぼアクセル全開で走行し、フィニッシュゲートに到達。充実した内容でダカールラリーを締めくくった。
Goalそして次のステージに
ステージ12終了後、ダカールラリー最後のイベントであるセレモニアルフィニッシュが行われ、HySE-X1とチームメンバーも登壇。水素エンジンのサウンドをステージに鳴り響かせ、長い戦いの幕を下ろした。水素小型モビリティの早期課題抽出、水素エンジンの基盤技術構築という参加目的は十分に果たせたといえる。
Interviewライダーの声
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ドライバー
ジェイミー・キャンベルJamie Campbell
このプロジェクトに関わった全ての人、チームメンバー、サポートメンバーに感謝したいです。最終ステージは全区間をほぼアクセル全開で攻め、このラリーで一番いいタイムを出せたと思います。コ・ドライバーのブルーノ・ジャコミーにもお礼を言いたいです。全12ステージで多くの事を教えてくれました。彼がいなければ最後まで走り切れなかったでしょう。うまくデータが取れていて、HySEチームの皆さんに喜んでいただくことを願っています。
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コ・ドライバー
ブルーノ・ジャコミーBruno Jacomy
HySEチームとOverdriveのメンバー全員に感謝したいです。本当に良くしてくれました。ジェイミーのドライビングはプロジェクトの目標を達成するために非常に重要でした。新しい技術と新しいクルマをセレモニアルフィニッシュの壇上に登らせることができて、とてもうれしいです。この未来のクルマをナビゲートするのは素晴らしい経験でした。
大会主催者をはじめ、ご協力いただいた関係者の皆様に感謝いたします。ありがとうございました。