26年ぶりの優勝
レースレポート
決勝レーススタート。夏の鈴鹿特有の強い陽射しがサーキットに降り注ぎ、気温32度、路面温度47度というドライコンディションでのスタートとなった。カワサキはレオン・ハスラムが最初のスティントを担い2番グリッドからスタート。20周目を終えてトップグループは5台で、カワサキ、ホンダ(Red Bull Honda)、ヤマハ(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)の3ファクトリーチームが首位を競い、序盤から“激闘”の展開に入っていく。
KRTは32周目の最初のピットインでハスラムからジョナサン・レイに交代。周回を重ねる毎にレイはペースを上げていき、2時間を経過した58周目に初めてトップに浮上する。その勢いをつないでピットインするも、3時間を終えたところでホンダが7秒差で首位に立ち、じわじわとその差を広げられてしまう。
86周を終えたところでレイが2度目のスティント。トップのホンダに1分近い差(非公式計測)をつけられていたが、レイはその差をどんどん詰めて逆転。結局前半終了時にはレイが2番手に6秒差をつけて首位で後半戦に突入した。
後半戦に入っても気温33度、路面温度41度で過酷な状況は変わらない。5時間を過ぎたところでは、カワサキ、ホンダ、ヤマハのファクトリーチーム対決の差は1秒程度と熾烈さを増す。その後、6時間を経過時点では、カワサキがリードするものの、ヤマハが5秒差、ホンダが9秒差で続く。ライダー、マシン、そしてコックピットクルーのそれぞれに、“最高以上の最高”の能力の発揮が求められる状況となる。
監督・ライダー インタビュー
ライダー
今回のことは本当に信じられません。レース終了2分前に転倒し、(暫定成績では順位なしだったので)すべてを失ったと落胆し、涙し、すぐにホテルに戻りました。ホテルで夕食をとっていたら、メカニックから「8耐勝ったよ。審議の結果、優勝したんだ」と告げられました。その時の気持ちは、言葉では言い表すことができません。本当に嬉しかった。今回の作戦は、燃費と安定したレース運び、ミスをしないこと。私たちはそれらをうまく実行できました。とても疲れて最後のほうは筋肉がつっていましたが、なんとか頑張りました。レースは波乱万丈で非常に厳しいものでしたが、このような結果を出すことができ大変嬉しく思いますし、また鈴鹿8耐を走りたいとも思います。このチームの一員としてレースに参加できたことはとても光栄です。事前テストも含めて、KRT、川崎重工、カワサキモータースジャパンの努力には大変感謝しています。
ライダー
失意のなか、レストランで夕食をとっている時に優勝を聞きました。その時の喜びは言葉ではとても言い表せません。鈴鹿8耐は勝つのが最も難しいレースのひとつであり、チーム一丸になって勝利に向けて努力してきただけに、天国と地獄の両方を味わった気持ちでした。レース終了間際にオイルがコースにばら撒かれて、ドラマが起こってしまいました。その時のどん底の気持ちも言葉にできないですね。しかし、その後、判定により一転勝利の朗報を聞いた時の喜びは、この上なく最高でした。レース中、僕としては各スティントの後半は肉体的にも苦しかった局面もありましたが、バイクの調子は上々でした。我々は勝利に向けて最善を尽くしました。この機会を与えてくれたKRT、トプラック・ラズガットリオグル、ジョナサン・レイへの感謝の気持ちで一杯です。この鈴鹿8耐を制覇できた喜びを噛み締めています。
ライダー
今日はすごく疲れました。8時間もレースを見ていたからね!(注・トプラックは今回の8耐では走行していない)。でもジョナサンとレオンの功績を僕も本当に嬉しく思います。2人は今日、偉業を成し遂げました。皆がとても喜んでいるし、すべての方にありがとうと言いたいです。僕にとっては今回が初めての8耐でしたが、優勝できて嬉しく思います。
KRTチームマネジャー
今回のレースは際立ってすごかった。すべての人たちにとって鈴鹿8耐史上、最も驚くべきレースだったのではないかと思います。各チーム、そしてライダーたちは本当に素晴らしかったし、皆で最高のレースを見せることができました。一番嬉しいのは、ジョナサン・レイが素晴らしい走りを見せて勝利を手にしたことです。レイは、1周約6kmのコースを104周したうち、実に67%の70周が2分9秒以下という驚異的な走りを見せてくれました。ハスラムは、実は体調を崩していたのですが、それでもなおスタートライダーとして得意の燃費走行を見せ、最初のピットインまでの周回を稼いでくれました。ピットクルーも素晴らしい働きを見せてくれました。ピットインの合計時間は、ヤマハに24秒もの差をつける優れたもので、しかも燃費計算やレース展開など戦略・戦術の的確さはライダーの力を引き出しました。マシンの「Ninja ZX-10RR」には、ライダーの最高の能力を引き出すポテンシャルの高さがありました。Kawasakiのモーターサーサイクルに関わる人たちの情熱はすさまじく、だからこそ鈴鹿8耐のような複雑な戦略と戦術が求められるレースの参戦でも見事なまでの統制力を発揮でき、最終的に優勝できたのだと思っています。
「カワサキファンとして優勝を祝し、
これからも挑戦の姿勢を応援します」
東北大学加齢医学研究所所長
川島隆太氏
(略歴)1959年生まれ。89年医学博士。「脳トレ」シリーズ監修、著書に『脳を鍛える大人のドリル』など多数。
カワサキファンとして、今回の8耐の優勝は本当に感動しました。私は学生時代からさまざまなバイクを乗り継いできましたが、10数年前からずっとカワサキ。カワサキのスポーツバイクは、ポジションが少し楽なところがいい。「ZZR1400」に始まり、今は「Ninja H2」に乗っています。「Ninja H2」が発売された時は、スーパーチャージャー搭載に驚き、その挑戦する姿勢に「やっぱりカワサキだな」と感心しました。昔から硬派で武骨、乗りこなすのに度量が必要なイメージがあるカワサキですが、「H2」は乗ってみると意外にジェントルで、サーキットで全開走行しても安心。そんなところが気に入っています。また、川崎重工は鉄道車両や航空機の製造で知られるように、日本の基幹産業を支えている企業。そういう意味でも応援しています。学会で海外に行った際も、乗った電車が川崎重工の車両だったりするとうれしくなりますね。交通手段としてのモビリティーは自動化が進んでいきますが、オートバイは、脳と体に刺激を与えてくれる乗り物ですから、進化しつつも操る喜びは残してほしいと思います。これからも魅力的なマシンづくりに期待しています。
航空機を源流とする「カワサキのモーターサイクル」