カーボンニュートラルとはなにか。重工メーカー視点で語る、今さら聞けない環境ワードの定義

公開日2023.06.26

地球温暖化のおもな原因である温室効果ガス。その代表格である二酸化炭素(CO2)が引き起こす気温上昇・気候変動は、災害・食糧・経済活動・生態系などさまざまな分野に広く影響を及ぼすとされ、CO2の排出量削減は人類の急務です。2020年10月、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表。これを受けて「カーボンニュートラル」「カーボンゼロ」「カーボンオフセット」などの言葉がよく聞かれるようになりましたが、これらの意味や違いを正確に理解している人は意外に少ないようです。
カーボンニュートラルとは何か、なぜ今必要なのか、カーボンニュートラル実現を目指す企業はどのようなことに取り組んでいるのか…。知っているようで、詳しく知らないカーボンニュートラルにまつわる疑問に重工メーカーの視点で答えます。

そもそも「カーボンニュートラル」とは?

カーボンニュートラルは「炭素中立」と訳され、日本政府の宣言によれば「温室効果ガス(GHG=Greenhouse Gas)の排出を全体としてゼロにする」のがカーボンニュートラルです。※1

ここで注目したいのが「排出そのもの」ではなく「全体で」ゼロを目指している点です。CO2の排出を減らす取り組みは、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入や省エネの徹底などすでにさまざまな分野で行われていますが、排出をゼロにすることはできません。だからこそ、削減しきれない分のCO2を何らかの方法で吸収することでプラスマイナス・ゼロ、つまり「全体でゼロ」にするのです。

CO2を吸収する取り組みとして、例えば火力発電所などから排出される排気ガスからCO2を分離回収して、地中に埋める技術「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」は海外では既に実用化されており、日本でも開発が進められています。さらに最近では、大気中から直接CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)と呼ばれる技術にも注目が集まっており、川崎重工はこのDACの実用化を積極的に進めています。※2ほかにも植林活動により、植物の光合成によるCO2吸収量を増やすこともできます。

このように、そもそものCO2排出量を減らすと同時に、減らしきれない部分をCCSやDAC、植林によって吸収しトータルでゼロに抑える。これがカーボンニュートラルという考え方です。

※1:環境省・脱炭素ポータルより 

※2:アメリカでは100万トン/年の量のCO2を吸収するDACプラント建設も計画されています。DACはネガティブエミッション技術として、植林などと比べて確実性が高い技術と位置付けられています。CCS、DACともに、いかに低いエネルギーでCO2を分離回収することができるかが、今後の普及に向けての鍵になります

なぜ日本は、カーボンニュートラルを目指しているのか

「温室効果ガス(GHG)」とは、CO2に加えてメタン、一酸化二窒素、フロンなどを加えた温室効果を持つ気体の総称で、そのうちCO2が全体の9割以上を占めています。※3

IPCCが2018年に発表した『1.5℃特別報告書』によれば、地球の平均気温は、工業化が始まった1750年頃と比べて2017年の段階で約1℃上昇しています。このまま温暖化が進めば、極端な気候変動により地球環境が大きなダメージを受けるのは避けられません。

そこで2015年にパリ協定が結ばれ、日本を含む先進諸国は2030年までのGHG削減目標を設定しました。『1.5℃特別報告書』には、2100年時点での気温上昇を1.5℃以下に抑えるためには、世界全体でカーボンニュートラルを達成する必要があると示されています。

日本は2007年の段階で、2050年までにGHGを半減する目標を立てていました。その後パリ協定を受けて、2050年に2013年比で80%削減するとの非公式目標が掲げられましたが、2020年には「2050年カーボンニュートラル宣言」が出されました。

世界をけん引する各国も、カーボンニュートラルに取り組み始めています。欧州では製造時のCO2排出量に従い関税率を上下するような法整備が進むほか、世界最大の排出国である中国も、2060年までに実質排出ゼロを目指すと表明しています。

また、アメリカのバイデン政権は2050年にGHGの排出を実質ゼロにする目標を掲げ、大統領令で「気候変動が外交政策と国家安全保障の中心になる」と明記しています。このように、多くの国々でカーボンニュートラル関連の政策が経済を動かしており、インフラ整備や雇用創出までを含む新たな市場を生み出す流れができつつあります。

しかしながら、カーボンニュートラルの進捗は順調とはいえません。IPCCが2023年3月20日に公表した「地球温暖化に関する第6次統合報告書」によると気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、GHGを2035年に19年比で60%(CO2は65%)減らす必要があるとしています。温暖化が予想以上に進んでいるため、国連のグテーレス事務総長は、「気候の時限爆弾が時を刻んでいる」と強い言葉を使い、先進国に対してGHGの実質排出ゼロ目標を2050年から10年前倒しして、2040年に実現するよう求めています。※4それほど事態は深刻なのです。

「環境ワード」をまとめて解説

カーボンゼロ、ネットゼロ、カーボンフリー、カーボンオフセット、カーボンネガティブ、ゼロエミッションなど、似たような言葉が多く聞かれます。ここではそれぞれの意味の違いを紹介します。

カーボンニュートラルと混同しやすい単語集

・カーボンゼロ
カーボンニュートラルと同じ意味です。

・ネットゼロ
カーボンニュートラルと同じく、排出量と吸収量のトータルでゼロを目指すのは同じです。ただし、ネットゼロは主に企業向けの用語であり、カーボンニュートラルとは対象とするGHGの範囲が異なります。

ネットゼロが対象とするのは、Scope1(=企業が事業を通して直接排出するGHG)、Scope2(=事業に必要な電気や熱を作るため間接的に排出されるGHG)、Scope3(=原材料の輸送・配送や製品の使用・廃棄など取引先で排出されるGHG)の3つです。これに対してカーボンニュートラルの対象は、Scope1とScope2です。

つまり自社だけでなく、取引先までを含むGHGを対象とするのがネットゼロです。※5

・カーボンフリー
Googleが2020年9月に発表した「Our third decade of climate action: Realizing a carbon-free future※6」により注目されるようになりました。カーボンニュートラルが排出と回収のトータルでプラスマイナス・ゼロとするのに対し、カーボンフリーはそもそもGHGを排出しない状態を表します。仮に電力を対象とするなら、100%再生可能エネルギーで賄う状態がカーボンフリーであり、Googleはこれを実現しています。

・カーボンオフセット
カーボンニュートラルと同様にトータルでゼロを目指すものですが、カーボンニュートラルとの違いは、ゼロにできない分を吸収する手段として、他の場所で実現されたGHGの排出削減や吸収量を購入する、もしくはGHGの排出削減や吸収活動への投資を行って排出削減できなかった分を埋め合わせる点です。※7

・カーボンネガティブ

カーボンニュートラルが排出量と吸収量の差し引きゼロであるのに対して、吸収量が排出量を上回る状態です。

・ゼロエミッション

1994年に国連大学が提唱した廃棄物の排出をゼロにする考え方です。最近ではこの廃棄物をGHGに置き換えて、その排出ゼロを目指す取り組みもゼロエミッションと呼ばれるようになっています。

カーボンニュートラル実現に向けた川崎重工の取り組み

日本政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」の中の重要戦略として挙げられているのが、水素の活用です。水素は、再生可能エネルギーによる水の電気分解やCO2の貯留・再利用技術と組み合わせることでカーボンフリーに利用できるエネルギーであり、幅広い産業で活用が期待されています。

さらに日本政府の「水素基本戦略」では、「クリーン水素」の世界基準を日本がリードして策定し、クリーン水素への移行を明確化すると強い意思表明を行っています。これを受けて川崎重工は、これまで以上に水素の活用に力を入れています。「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」の各プロセスにおいて水素エネルギーの技術開発を進め、CO2を発生させない水素発電を軸として水素利用の拡大から水素供給網の整備までに取り組んでいます。

大型液化水素運搬船(貨物総容積 160,000m3)

さらに将来に向けた取り組みとしては、大気中からCO2を直接回収するDACの技術開発に取り組んでいます。川崎重工のDACの特長は、独自開発された固体吸収材を用いることによりCO2分離の際に高温の熱を必要としない点にあり、この実現には機械メーカーの技術だけではなく、大学の知見や化学メーカーのノウハウなど産学連携の取り組みが欠かせません。

また排ガスからのCO2除去(KCC:Kawasaki CO2 Capture)でも同様に専用開発された固体吸収を用いて省エネルギーでのCO2分離回収を可能にします。回収したCO2は固定化や再利用を行うCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の実現を目指しています。既に石炭火力発電所内に試験設備を設置し、実際の燃焼排ガスからCO2を分離・回収する試験も始めているほか、CO2分離回収の実証実験に向けて地方自治体との連携もスタートしています。

川崎重工は「炭素を大幅に減らす技術」として水素に注力し、同時に「水素化できない部分にアプローチする技術」としてDACやKCCにも挑戦しています。これまでの「CO2を排出する側」から「CO2を回収する側」に変化していく。「いま真剣に取り組まないと、後世に対して恥をかく世代になる」を肝に銘じて、カーボンニュートラル実現に向けて着実に進んでいます。

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